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逃亡馬券生活   作者: 狂死狼
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第12章  追跡馬券生活 30

「俺は殺人者だ。行方をくらませ裏街道を歩き、人目を避けて生きるしかない。投資馬券と底辺の仕事をこなすサバイバルの日々を綴ってゆく」


5  偶然という必然


  その3


  

 草野の、ほとんど原形をとどめない水死体が発見されたのは、事件から3週間がたった頃だった。

 T川の河口からはほど遠い、同じ支庁のI市の砂浜に打ち上げられた。

 さすがに現在の検視はハイレベルであったようだ。草野の直接の死因が溺死ではなく、ヒ素中毒による身体麻痺および、それに関連する突発的な落水によるものだと判明した。

しかし、杉田の殺人事件との関わりは何も見いだせなかったため、当初は別々の事件と思われた。

笠浦もその事件に関心を持つことはなかった。ブログでの役名である草野というのは、実際とは違う名前であることから結びつける根拠がないというのもあった。いくら狂死狼の小説を読み込んでいたとしても、たどり着くことは難しいだろう。死んだのは身近に接していた部下なのだから、よけいに視野は狭かったのかも知れない。

狂死狼はかつての共犯者であり恋人でもあった優香と、今は内縁の妻であり、優香の同僚でもあったアリサ、そして生まれたばかりの娘マミとともに4人で共同生活を送っていた。

それはとてつもなく息苦しい環境の中で息をひそめていた。

狂死狼なりに推理はしてみるのだった。

(優香が俺の足手まといにならぬようにと考え、近づいてきた真相を知る刑事、草野に身を委ねたということが全ての発端だ。それについては初めは憤りや情けなさを感じたが、優香が決めたことならば、と許すことにした。

そして何故か追いかけてきたアリサと逃亡生活を続けることになった。

さらに今になって、たまたまS市に戻り、出産するという事態におちいった。

そんなおりに優香からの突然の連絡があり、草野にDVを受け続け、しかも妊娠しているのだと。このままでは子供を産むことはできない、協力して草野を殺そうというのがここまでの流れだ。

そんなことはさせない、誰も殺さないし殺させない。誰も死なせない。そう思って挑んだ、あの修羅場だった。

事態は誰もが思うよりも勝手に加速し、そしてねじ曲がっていった。

草野はあの若い刑事、杉田を仲間に引き入れて狂死狼たちをけん制しようとした。

そこに突発的なことが起こった。あのパンダ模様の仔猫だ。杉田が誰かにプレゼントで貰ったのだと……そんな偶然があるだろうか?

 しかも、その仔猫が全ての引き金を引いた。優香は草野を狙っていたのにも関わらず、杉田の背中を刺してしまった。

  何故だろう? 何故俺達が犯したあの殺人事件を、ここまで忠実になぞるように再現されなくちゃいけないんだ? そんな馬鹿なことがあるか……

 さらには何者かが、杉田のとどめを刺したらしい。

そんな……そんなことって? かつての事件で優香のしたことを今回優香がしたことのあとにやられるなんて……真犯人は……)

 考えれば考えるほど、狂死狼は迷宮にはまってゆくのだった。

(ただひとつ、その真犯人は杉田に恨みを持つ奴だろう……それ以外に考えられない。

 俺たちが共同で殺したあの男に、優香が一番恨みを抱いていたように……)


 S警察署の取調べ室では、当麻老人はただ「あ~~」とか「う~~」とか時々「うへへへえ」などと笑みを浮かべるだけで、一向にまともな証言は得られそうになかった。

 笠浦はもううんざりしていた。たまたま井原親分の墓地でこの老人を見つけてしょっ引いてきたものの、こう認知症が酷ければ何も事件の真相には近づけないだろう。とにかく堂々巡りの取調べが5日間も続いていた。

(この老人が本当に、俺が少年の頃親友だった昇を誘拐して殺した犯人だというのだろうか?)

 笠浦には到底信じられない思いがつよくなっていた。ほとほと疲弊していた。

 当麻重則……名前を呼んだところで何も反応さえない。ただうわの空で虚空を睨むばかりだった。

(これ以上尋問しても、らちが開かんな)

 笠浦は調書に反応不明瞭とだけ記し、その先は何も書けないままだった。

(年老いたとはいえ、こんな奴にお前は……なあ昇よお、これじゃ浮かばれねえよなあ……)

 打つ手を失くした笠浦は天を仰いだ。

「あんたの恋人井原親分もよう、あとさあ、かつての恋人、昇の父親の加山さんだって……そんなんじゃ誰も浮かばれねえよな」

 ボヤキの様に笠浦がつぶやいた。その言葉に老人は突如反応した。

「や、やめろ。やめてくれえ。た、頼む。その名を……その名を言うな」

 老人は両目から流れ出した涙を、拭おうともしなかった。



続く



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