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逃亡馬券生活   作者: 狂死狼
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第12章  追跡馬券生活 31

「俺は殺人者だ。行方をくらませ裏街道を歩き、人目を避けて生きるしかない。投資馬券と底辺の仕事をこなすサバイバルの日々を綴ってゆく」


5  偶然という必然


  その4


 安藤がまず、笠浦によって最初に逮捕された。

 彼は草野をともなって自分の住処に訪れた杉田を憎んでいた。

 それ以上に草野を憎んでもいた。

「あの野郎といったらよう……罪を犯して服役して……なんとかかんとかやっと償ったと、そう思ってシャバに出た俺を……常に見下していやがるんだ。自分とはおよそ次元が違う、罪人として見下しやがるんだ。へへ、そのくせ……優しそうな馬鹿面しやがってよお……たまらんかったのよ。確かに些細なことで、おやっさんの命令とはいえ……あいつの父親を殺したのは俺だ。そいつはわきまえてるさ。しかしよお……だからといって、なんで出所してからも苦しまなきゃならねえんだよ。いっそ、ほっといてくれてりゃ何十倍も良かったんだよ。……そりゃ世話になったことは感謝してねえわけじゃねえけどよ……ほんで、あの野郎はあの腐りきった男を連れてきた。あいつは俺をとことん貶めようとしやがったんだ。あの草野と言う男……同じ刑事仲間だと? ふざけんじゃねえ! 俺を、俺を……心の底まで見透かしやがって、毎日毎日やってきては言葉で責めて楽しむんだよ。杉田の親父を刺したときはどんな気分でしたか? ずぶずぶと刃物がめり込む感触はいったいどうでしたか? 高揚感はありましたか? 罪の意識とやらはどれほどあったんですか? 人を殺しといて、今生きている気分はどんなもんですか? それこそねちねちねちねちと……たまたま置いてやった当麻のじいさんにもしつこくしつこく、昔の誘拐殺人の話を持ち掛けた。爺さんは何も答えられなかったけどな。とにかく俺は杉田も、あの草野も、とうてい許すことはできなかった。そしていつの間にか一人でたびたびやってくる草野に、俺は冷たいビールにヒ素を入れて飲ませた……あの事件の難に近め、たまたま一緒に来た杉田と草野が外で話す声を聴いたんだ。それは……草野が女房に命を狙われているから、杉田に協力を依頼して反撃しようという内容だった。俺は占めたと思ったよ。女房の計画は筒抜けだったようだが、俺はこの機を利用しない手はないと小躍りする気分だった。決行の時と場所を盗み聞きして待ち伏せした……そしてまだ息の合った杉田をめった刺しにしたよ。それから薬物で弱り切った草野を川に放り込んだ……それが……俺がやった復讐の全てですよ刑事さん……」

 笠浦は安藤の供述を調書に書き留めた。

そして深いため息をついた。

(俺は何故、あの男を真っ先に疑わなかったのだろう……いさぎよく服役して勤めを終え、そのあとの面倒を見てくれていた杉田と言う好青年を、まさかこの男が殺すなどとは思いもよらなかった……というのが原因だろう……それにしても……)

狂気の刃物は安藤の部屋の床下から出てきた。

あの時、現場でヤツと会ったのは埋めた凶器を取りに戻ったということらしい……

ヤツは花を置いた現場を目印に一度埋めたナイフを掘り起こしていた。

それらを証言してくれたのは他でもない、当麻老人だ。彼は認知症に罹っているはずだった。だが、それは思い出したくもない悪夢を忘れんがための芝居だったのかもしれない。そしてそのタガを外すキーワードが彼をそうさせた……のかどうかは分からないが、安藤の悪事を洗いざらい証言し始めた。しっかりとした口調だった。

そして、そのあとはまた元の認知症の老人へと戻っていった。仮釈放の身での逃亡中だったから、再度収監されたのは言うまでもない。とはいってもあの状態では警察病院へと移送される日も近いだろう。

安藤も同じく再度の収監だ。もう二度と娑婆に出ることはなさそうだ。


そして次に優香と狂死狼が逮捕された。

今回の事件ではどちらかと言えば二人は被害者に近い。とは言っても優香は旦那である草野を刺した殺人未遂の容疑がある。狂死狼にしてもそれに近い共謀罪だ。

また、5年前の二人が共謀した事件もだんだんと明るみになっていった。A市で起こった殺人未遂事件、病院内でとどめを刺すという残虐な殺人事件だ。

二人の潜伏先であったアパートの部屋には幼子がベビーベッドで寝ており、狂死狼の内縁関係の妻が泣きながらあやしていた。覚悟を決めていたと思われる優香と狂死狼は抵抗することもなく素直に拘束された。

逮捕状の文面を読んだあとで、笠浦は自らの手で狂死狼に手錠をはめた。

そして言った。

「ずっと、あんたが書いた小説をネットで読んでたんだよ。まさかこんな形で俺があんたに幕を下ろすことになろうとは……なんだか悪いな」

「へえ~それはありがとうございます。なんだかこっちもくすぐったいような妙な気持ちですよ」

「あーそれと、これだけは返しておくよ。ありがとな」

 そう言って笠浦は500円玉を狂死狼に渡した。

「はあ?」

「札幌記念の時だったっけかな。ほら、ウインズで金が足りなくて困ってた時に、後ろから刺し出してくれただろう」

「え? あの時の」

 二人は互いに苦笑いをするのだった。



続く



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