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逃亡馬券生活   作者: 狂死狼
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第12章  追跡馬券生活 14

「俺は殺人者だ。行方をくらませ裏街道を歩き、人目を避けて生きるしかない。投資馬券と底辺の仕事をこなすサバイバルの日々を綴ってゆく」

3  シンクロの行方


 その1

  

 事件は早くも暗礁に乗り上げようとしていた。

 警察官が殺されたのだから、警察の威信にかけでも犯人を捕まえることが最重要事項ではあった……はずだが、組織された捜査本部の人員は限られていた。本部長として石本を筆頭に笠浦と友永ほか、6名の捜査員を集めるのが精一杯だった。そのうち2名はH道警察本署からの応援だった。いずれも手練れの敏腕刑事ばかり……とはお世辞にも言えず、ド新人の友永は別としてもさほど優秀とは言えない連中ばかりだ。つまり、本署では大物政治家が撃たれた別の大きな事件を抱えていて、あまり本腰ではなかった。どうせ酔っ払いの揉め事程度にしか考えていない様子がありありだった。

 事件から10日が経つ現在、何も有力な証言や証拠らしきものは上がっていなかった。

 笠浦は友永との捜査の合間を縫って過去の事件を調べていた。まずは自分が経験した昇のあの事件だ。

 昭和62年当時、犯人の当麻重則36歳。一人息子の当麻明広は3歳だった。重則はクリーニング店を営んでいたが、出入りしていた昇の家で昇の母親と関係を持ち、それが昇の父親にも、また自分の妻にもバレたことからトラブルとなり、一方的な恨みを募らせて犯行に及んだ。

 無期懲役の実刑判決を受け、今もS市N刑務所に服役している。30年以上が経過しているから、模範囚であればそろそろ仮出所も可能な時期かもしれない。事件の後クリーニング店をたたんで、母親と明広はS市に越してきた。離婚後も当麻姓を名乗っていた。明広は事件のことを知らずに育っていたが、ある日親戚の男から真相を教えられ、そこからグレはじめたという。荒れた青春時代だったが、次第に自分の中の性別が怪しく感じ始め、20歳を過ぎた頃にカミングアウトした。それからはまっとうな人間になれたという。父親には一度も会っていないし、これからも会うつもりはないときっぱりと言うのだった。

「JULET」に3度通って得た情報だ。もちろん自分が被害者昇の友人だったことは伝えていない。他の客に悟られぬようにこれだけのことを聞き出すのは、かなり骨が折れた。

 あの事件が、今回の杉田の事件に直接関係しているとは到底思えないが、自分の過去の清算を兼ねて知っておきたい欲求から調べたことだった。だが、笠浦はまんざら無関係とも思えないのだった。今は何も関連性を見いだせてはいないが。

 続いてブログに書かれた5年前の事件も洗いなおした。

 ブログによると、被害者は作者(=犯人)にとって積年の恨みを持つ顧客だったようだ。それが偶然の再会から相変わらずの傍若無人ぶりを見て殺意を抱いた。といっても本当に殺す決心はまだついていなかったようだ。

 しかし、被害者が空き地で放尿中に仔猫を踏み潰したことから本物の殺意が芽生え、犯行に至った。被害者はまだ命に別状なかったところ、病院のベッドでとどめを差されて絶命したという事件だ。ブログの中では優香という名で描かれた人物が共犯者だ。今では彼女とも別れ、別の女と子供をもうけたというのがこれまでのブログの流れだ。

 逃亡生活を続けながら探偵業につくという、あり得ない数奇な運命をしたたかな筆致で綴っている。これが全て噓で架空の物語とはやはり思えない。なぜなら小説の内容と酷似した事件が実際に起こっているからだ。その事件については管轄の警察がまだ捜査がを続けているようだが、犯人は未だに特定できず事件を起こしたとみられる男女は行方をくらませたままだ。

 今回の事件も同じようなシチュエーションだ。放尿中の背後からの襲撃、仔猫の死骸。ただ違うのは杉田が仔猫を惨殺するようなことは考えられない。おそらくは犯人が関わっているのだろうと、笠浦は考えた。捜査本部の一致した見解でもあった。

 しかし、目撃者も見つからなかった。2次会まで一緒に飲んだ杉田の仲間たちも誰一人として彼のその後の行動を知る者はなかった。それぞれのアリバイも確かなものだった。

「もう一度現場を見てみるか」笠浦は友永とともに河川敷の現場へと向かった。


 事件の後、雑草が刈り取られていた。ずいぶんと見晴らしがよくなっていた。

 一人の男が押し黙ったまま静かに手を合わせていた。

 男の前には花束や酒やお菓子などが乱雑に置かれていた。ゆっくりと近づいて声を掛けた。「杉田氏のお知り合いですか?」

 男は笠浦を見たとたんに駆け出して逃げた。

「おい、待てー」

 笠浦と友永はすぐに後を追い叫んだが、もちろん待ってくれそうもなかった。



 続く


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