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逃亡馬券生活   作者: 狂死狼
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第12章  追跡馬券生活 15

「俺は殺人者だ。行方をくらませ裏街道を歩き、人目を避けて生きるしかない。投資馬券と底辺の仕事をこなすサバイバルの日々を綴ってゆく」


3  シンクロの行方



 その2


 友永はそのずんぐりむっくりの体型からは想像できないくらいに身軽で足が速かった。能ある鷹は爪を隠すというのか、人は見かけによらずなのか、どっちでもいいが彼は意外に役に立つ男だと見直した。現場から100メートルも進まないうちに男を捕まえたのだ。

 笠浦は息を切らしながら近づき、友永が押さえつけた男に言った。

「あんた、確か、杉田の父親を、ハア、ハア……」

 さすがに全力で走ると肩で息をするしかない。

「杉田さんとなにか関係が?」抑え込んだ手を緩めずに友永は男を、そして笠浦を見た。

「うう……う」羽交い絞めにされ、呼吸も苦しい男はうめき声をあげるばかりだった。

「20何年か前……あんた、杉田の父親を刺した犯人だろう」

笠浦がそう言うと、友永は小さな目を見開いて丸くした。男は観念したように目を閉じた。

「素直に犯行を認めて刑に服したから、とっくに刑務所は出たはずだよな。今もヤクザをやってんのか?」笠浦は続けた。

 男は首を大きく左右に振った。それを聞いて、友永は羽交い絞めの手を少し緩めた。

「もう、極道は辞めた。馬鹿馬鹿しい。あんな目に遭ってさ、出所したらもう組は暴対法のせいで解散、オヤジは死んだ。なんもいいことなんかねえ。なんで俺はこんな目に」

 男は泣いていた。安藤幹男というこの男は22年前、ほんの些細なことで杉田の父親を殺したのだ。笠浦はその事件のことは杉田が警察に入るときに調べていた。


 それは平成11年のことだ。ちょうどお盆休みに入ったばかりで幹線道路はどこもかしこも混雑していた。杉田の父、大工だった潤造は工期遅れの現場へと急いでおり、高速道路の入り口で並んでいた。なかなか進まないクルマの行列にいらいらしていた。ようやくあと少し、前のクルマが進んだところに黒塗りのベンツがクラクションを鳴らしながら割り込んできた。潤造はクルマから降りてベンツに向かった。

「ちょっとあんた、それはないでしょう。みんな並んでるんだから。後ろに回ってくださいよ」諭すように言った。

 ベンツの後部座席に座る、いかにもなヤクザの組長井原源太が言った。

「おい、ちょっと可愛がってやれや」

 すると、助手席に座っていた安藤がへいっと返事をしてベンツから降りた。

「誰に口きいてんだコラ」安藤は脅しのつもりで潤造の目の前にナイフを突き立てた。

 潤造はたじろぎながらも、腰に巻いた道具入れのベルトからノミを取り出して応戦の構えを見せた。一瞬にして、周りの空気が逆立つような殺気につつまれた。

 その様子を見た井原組組長の井原源太は、潤造を敵対組織の鉄砲玉だと認識し、安藤にやれとの指示を出した。安藤のナイフがずぶりと潤造の胸をえぐった。ほぼ即死だった……。


「それで今頃なんでこんなところに。お前のような奴にも良心ってのがあったのか?」

 笠浦の問いかけには答えず、安藤はそっぽを向いた。

「俺の人生、いったいどこで狂っちまったんかなあ。任侠の世界で健さんみたいになるはずだったんだけどよお」

「なに善人ぶってんだ。この悪党が」

「ああ、悪党さ。それは否定しねえ。でもこんな俺を……あの人の息子さんは許してくれた。あり得ねえよなあ」

 安藤は泣きながら話した。出所したが組はなくなり、あてもなく途方に暮れていた安藤を杉田が助けたのだという。アパートや仕事までも世話をしてくれたとのことだった。事件のことはテレビのニュースで知った。自分の立場では葬式に顔も出せず、かといって居てもたってもいられず、ここに手を合わせに来たのだという。

 杉田の葬式は、非番時に起きた事件だから殉職扱いもされず、案外平凡で質素な葬式だった。これが勤務時間中なら雲泥の扱いになったのかもしれない。どうにも合点がいかないことでもある。

 それにしてもあの杉田が、笠浦には一言もなく影でそんなことをしていたというのは初耳だし少なからず驚きを感じた。父親譲りの正義感からなのだろうが、ともに過ごした勤務態度からは想像もできないことだった。今さらながらあの不真面目極まりない勤務態度を恥ずかしく思うのだった。

「杉田よ、お前はをなぜこんな堕落した俺を叱咤しなかった。なぜ自分もそれに染まったかのような態度を取っていたんだ」

笠浦は一瞬だけ後悔と恥ずかしさとに苛まれた。

「まあいい。俺には俺の人生がある。後悔するのもまた人生だよ。それよりも、そんなくそ真面目なお前のようなやつが何故、殺されなくちゃならないんだ? なあ、これもお前の父親の……いや、父親から引き継いだ運命と言うやつなのか?」

その答えは犯人を捕まえない限り分からない、ということだけは分かっていた。




 続く


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