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逃亡馬券生活   作者: 狂死狼
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第12章  追跡馬券生活 12

「俺は殺人者だ。行方をくらませ裏街道を歩き、人目を避けて生きるしかない。投資馬券と底辺の仕事をこなすサバイバルの日々を綴ってゆく」

2  追跡の始まり



 その5


  早速、笠浦はブログの作者を突き止めるべくブログを運営している会社に情報開示の依頼をした。指名年齢住所はすぐに判明した。しかし、それはほぼでたらめだった。H道A市で登録されていたが、それ以下の住所も名前も、実在のものではなかった。使用しているネット回線も海外サーバーを通していて、足がつかないようにしていた。

現代のネット社会というのは、個人の自由と権利を最高に謳歌できるツールなのだろう。だからこそ、個人情報というものがかつてないほど厳しく制限されるようになり、それを突き破るハッカーの存在が良くも悪くも、最重要視されている。複雑な社会だ。

 それくらいのことはコンピューターやネット関係に疎い笠浦にもかろうじて理解できた。

「まあそうだろう。簡単に見つかりっこないよな。あの時の500円玉の縁がなつかしいぜ」苦笑するしかなかった。

「まずは杉田の家探しから始めるか……」

 新しい相棒、友永祐樹と笠浦は杉田のアパートへと向かった。友永は杉田と警察学校同期の男で、交通3課から急遽移動となった。杉田とはさほど仲が良かった訳ではないが、同期の仲間の殺人事件が刑事としての初仕事となり、かなり緊張しているのが解る。真面目な男のようだ。杉田と違ってズングリむっくりで動きがニブそうなのが気にはなるが。

 杉田の部屋は10畳程度の洋間で小さなキッチン風呂トイレ付きのワンルームマンションだった。T区のT川沿いに建つ7階建ての建物だが決して新しくはない。それなりの部屋だ。

連絡しておいた母親の立会いの下、部屋の中へと立ち入った。中は質素だった。今どきはやりのミニマリストというのか? 持ち物は極端に少ない感じだ。決して広くはない部屋が殺風景に感じた。机とノートパソコンがあり、小さなワードローブに背広が3着に私服や下着類も極端に少ない。

いつも一緒に仕事をしていたくせにプライベートな事は何一つこれまで知らずにいた。別にそんなことは関わらない方がいいとさえ思っていた。世代の違いから遠慮していたのかもしれない。年に数回、課の忘年会や送別会といった飲み会で酒を酌み交わすこともあったが、だいたい が一次会でお開きだった。

 今、初めて彼の日常を垣間見た時、驚きと新鮮さを感じるのだった。

 犯行後の所持品の中に携帯電話は見つかっていなかった。番号にかけてみても電波が届ないか電源が入っておりませんと繰り返すばかりだ。  おそらく部屋に置いたままなのだろうと考えていたが、やはり不自然だ。仲間と飲みに行くのに待ち合わせ場所の確認や店とのやり取りなどで絶対に必要なはずだ。普通は持ち歩くだろう。やはり彼の部屋にはなかった。

 「犯人が奪ったとなると、やり取りをしていた可能性があるな」携帯の通信履歴は番号から鑑識が調べているはずだが……それらしき情報はまだ入っていなかった。

 現場には凶器、犯人の遺留品、手掛かりとなる足跡や指紋などはほとんど何も採取できていなかった。事件の後、夜中に雨が降り注いだ上に1メートルほどの雑草が生い茂っているのだから無理もない。現場はすっかり洗い流されていた。

 折り畳み式の簡易型ベッドの傍らに小さなテーブルがあり、名刺が一枚置いてあった。

「BAR JULIET マトー☆アキ」

 紫色の素地に金文字で書かれた飲み屋の名刺のようだった。スマホで写真を撮った。

 ノートパソコンはパスワードが解らず開くことはできなかったが母親の許可を得て署に持ち帰ることにした。

 他に事件と結びつくようなものは何も見つからなかった。

 ノートパソコンの後ろに小さな写真が立てかけてあった。杉田の父親の写真だった。

 反社の人間であろうとも正義のために立ち向かった、あまりにも実直な父親だ。そのために命を落とした。42歳だったという。

「俺と同じ歳か……」笠浦はやりきれない感情を悟られないように写真から目を逸らした。

 杉田の母親は静かに写真に向かって手を合わせた。おそらく息子の死をあらためて報告したのだろう。

 両方の目からしずくが零れ落ちていた。



  続く



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