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逃亡馬券生活   作者: 狂死狼
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第12章  追跡馬券生活 9

「俺は殺人者だ。行方をくらませ裏街道を歩き、人目を避けて生きるしかない。投資馬券と底辺の仕事をこなすサバイバルの日々を綴ってゆく」


2  追跡の始まり


 その2


 前日杉田は非番だった。独り者だから非番の日の行動について詳しく知る者はなかった。

 翌日出勤時間になっても彼が現れないことから笠浦は警察署の中でイラついていた。タバコは吸わないが、貧乏ゆすりは酷くなるばかりだった。いくら携帯に電話しても呼び出し音が鳴るばかりだ。

「携帯どっかに置きっぱなしか? あの馬鹿何やってんだ。昨日は充分遊んだだろうよ」彼がいないとなると今日の勤務の形態がガラリと変わる。いきなり他のチームの捜査に駆り出されるなんてのはまっぴらごめんだ。時計は9時をとうに回っている。あと5分待って来なければ、奴の家に行ってみる必要があるな。全くめんどくせえこった。笠浦はそう考えていた。

 そこに、さっきまで今日の行動予定のことで言い合いをしていた刑事課長石本のデスクの電話が鳴った。

「はい、石本です。え? なんですか……ええ?」 

叩き上げの実直な刑事だった石本の額に深いしわが浮かんだ。見る見るうちに汗がにじみ出ている。明らかにあと3年で定年退職の男が動揺していた。

「わかった。とにかくこっちからも人を出すよ。すぐに向かわせる」受話器を叩くように置くと、石本は笠浦を見た。

「どうしたんです。課長?」

「○○区の河川敷で遺体らしき人影を発見。通りかかったジョギング中の市民からだ。向かった警察官によると、後ろからひと突き。他殺だろうとのこと。すでに心肺停止状態で蘇生処置も叶わず。身元が今判明した……」

「だ、誰なんですか?」

「杉田だ……」

「え……」笠浦は絶句した。激しい電流が体中から脳天を突き抜けていった。嫌な汗が背中に吹き出てきた。

「すぐに向かいます」

「ああ、頼む」

 笠浦は警察署を飛び出した。

「頼む、頼む、頼むよ神様。なんとか命だけは。命だけは」

固く唇をかみしめて現場へと向かった。警察車両のハンドルとシフトレバーを握る手が震えていた。背中の汗はべっとりとまとわりついて、なおも止まらなかった。口の中は唇が切れた血の味がした。

「昇……昇よお……」不思議なことにその時口について出た名前は杉田ではなく、子供の頃殺された友人の名前だった。

「お前を……お前だけは……」

笠浦の脳裏には昇の顔と杉田の顔が交互に現れては消えていった。

そんな時、スマホの通知が鳴った。とても画面を開く気にはなれなかったが、惰性のような手つきで開き、ぼんやりと眺めた。


 

『逃亡馬券生活』 ~サバイバル投資競馬~ 第247回  by  狂死狼  


第11章  新たなる旅立ち


2  美しい声


その4


 無事に退院し、アリサとマミは帰ってきた。俺の考えを押し切る形で我が娘はマミとなった。

 子育てに必要な物は最低限用意した。ベビーベッドや乳母車、様々なベビー用品をあちこちのリサイクルショップで綺麗なものを選んで買い集めた。恥ずかしかったが店員にもいろいろ参考意見を聞いて買い集めたからおおむねアリサのおめがねには叶うモノばかりだった。アパートの部屋も子供が生まれる前提で探したから夜泣きの声などは一応問題はない。

 新たな3人の生活が始まった。胸の仲がむずがゆくなるような不思議な気分だった。

 夜中に突然始まる甲高い鳴き声には閉口したが、それはそれで我慢できないと言うほどでもなかった。ミルクを作って哺乳瓶を温めるのにも慣れてきたし、おむつを替えたり抱いてあやすなんてことは日課になっていった。

 案外、さほど大変なことでもないような気がした。

 機嫌が良いときに俺とアリサを交互に見て、フフフキャハハと笑う顔は天使だったし、その声はこの世で一番美しい声に聞こえた。



続く

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