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逃亡馬券生活   作者: 狂死狼
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第12章  追跡馬券生活 1

「俺は殺人者だ。行方をくらませ裏街道を歩き、人目を避けて生きるしかない。投資馬券と底辺の仕事をこなすサバイバルの日々を綴ってゆく」

1  永遠の始まり


 その1


ここH道においては6月の30度超えという異常な暑さに誰もが恐れおののき、7月8月の夏本番はいったいどんな悲劇が待ち受けるのだろうかと抱いた一抹の不安をよそに、結局は平年並みの穏やかな気候に落ちついた8月もそろそろ終わりを迎えようとしていた。とはいえ、うんざりするほどの日中の蒸し暑さは、外での捜査活動をむりやり意味のない無駄な仕事と決めつけさせ、お決まりの、暇人を涼ませてはたいした儲けにもならないつぶれかけの古い地下喫茶店へと男の足を運ばせた。

男は笠浦徳一郎。H道警察本部捜査一課第一警ら部警部補という肩書きを持つ。かつては敏腕刑事として名を売り、いくつかの難事件を解決に導いた男だ。

彼は最愛の妻と別れてから自暴自棄になっていた。家庭を一切顧みない日々の行動からささいなずれが生じ、やがてそれがたび重なり見放され、かつての職場の男と良い仲になった彼女は彼のもとを去った。一人娘とともに。

それからだ。笠浦は仕事に生きる自分を根底から見失った。

確かに日頃の捜査と言えば、金を返さない恨みで誰を殴っただとか、金欲しさに盗みに入っただとか、金融会社が取り立てで度を越えた脅しを仕掛けただとか、うんざりするほど金がらみのくだらない案件ばかりなのだから無理もない。たまに起こる殺人事件にしたってほとんどが、犯人は殺人現場にただ突っ立っていて、どうぞ捕まえてくだされそのかわり、罪を軽くしてくださいね……なんて馬鹿馬鹿しい事件ばかりだ。

くだらない。心底馬鹿馬鹿しい。真面目に事件を解決しようなんて考えるだけ無意味だ。

 笠浦は腐りきっていた。30度を超える日中に捜査で歩き回るなんていう不細工な真似は、金輪際したくもなかった。もちろん組織内での出世など望んでもいない。このまま定年までただ何となく平々凡々にやり過ごせればそれでよかった。それほどまでに彼をドン底に突き落とした妻との離婚は、すでにこの春成立していた。

一方的に送ってきた離婚届に彼はだまってサインと捺印をし、今住んでいる住所へと送り返した。不思議とその住所を探って彼女を確かめようという気にはなれなかった。彼女の所持品も、いつのまにか彼の留守中にあらいざらいが消えていた。

どうしてこんなことになってしまったのか、後悔さえも虚しかった。

笠浦はどうしてこんなにあふれてくるのか、自分の中に何故これほどの水分が目の中の涙腺というものに含まれていたのか、とても不思議で仕方ないという風に泣いた。けれどこれまでの人生があまりにも可笑しくてあふれてくる笑いをこらえることもできなかった。

それからの彼の人生は、警察という組織の中でただ目立たずひっそりと余生をやり過ごすだけの、ひどく乾いた砂の上を歩くようなものとなった。

 

 そんな彼にもまだ警察管の良心というものがほんの少し残る引っ掛かりのようなものが一つだけあった。

 それはおよそ一年ほど前から気になっていたひとつのブログだ。

「逃亡馬券生活」

と題された、ネット上の大して人気もないし面白くもない、素人が小説のようなものをただ書きなぐったようなブログだ。

何気なくネットサーフィンをしていた時に偶然見つけたものだ。離婚の遠からずの理由でもあった競馬を好んでやる方だったから、見つけたのも偶然ではないかもしれない。だが、何となく読み飛ばしてゆくうちにこれはフィクションではないと感じた。

やがて彼はこの小説の主人公は作者そのものであると信じた。書かれていることは多少オブラートに包まれているだろうけども、おおむね真実なのではないかと思った。それほど説得力があったし、また彼はそれに近いとある事件を知っていたからだ。だからこの小説の続きが気になっていたし、いつかこの作者を突き止めて追及してみたい欲求に駆られていたのだ。

とはいえ、ここしばらくその小説の続きは滞っていた。

 逃亡していた主人公に3人目の女が出来て何やら妊娠したといった内容のところで停まったまま、もうすでに半年が経過していた。

まさか、もう捕まったのだろうか。いや、それらしい事件の報告は耳にはしていない。果たして奴はどうしているのだろうか?

ようやく背中の汗も引き、涼しさが体中に落ち着きを取り戻した頃、彼はスマホに目をやった。ブログの新規通知だ。1杯目のブラックアイスコーヒーの残りを一気に飲み干し、操作する指ももどかしく、彼は新規通知を開いた。

すると、ブログの続きが半年ぶりに更新されていた。


(以下スマホ画面より)


『逃亡馬券生活』 ~サバイバル投資競馬~ 第243回  by  狂死狼

「俺は殺人者だ。行方をくらませ裏街道を歩き、人目を避けて生きるしかない。投資馬券と底辺の仕事をこなすサバイバルの日々を綴ってゆく」


第11章  新たなる旅立ち



2 美しい声

  


 その1



永くブログを休止していたことをまずお詫びしたい。


あれから俺は途方に暮れていた。とても小説の続きを書ける状態ではなかった。

とんでもない!いったいこの俺が、どうやって、人並みに子供を育てられるというのだ。まして生むまでの過程にしたって何ができるというのだ。

そんなの無理だろう、無理に決まっている。馬鹿なことは言わないでくれ。

当然俺は頼んだ。アリサにおろしてくれと頼んだ。泣いて頼んだ。アリサも、その子供も、どう考えたって不憫でならないからだ。

だがアリサの気持ちは固く定まっていた。

たとえアンタがどこへ逃げようと勝手に死のうとあたしは生むから。絶対に産むから。

俺はただ凍りついた……。



続く



(スマホ画面終わり)


 

その日の更新はとても短かったが新しい章内サブタイトルがついていた。

笠浦は小説が続いたことに安堵した。



続く

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