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逃亡馬券生活   作者: 狂死狼
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第10章 果てしない旅路 13

「俺は殺人者だ。行方をくらませ裏街道を歩き、人目を避けて生きるしかない。本格的な投資馬券と命を食いつなぐサバイバルの日々を綴ってゆく」

2 愚者の祈り



 その1



(俺は何も悪いことなんかしちゃいない。そう、そりゃどうしようもないクズには違いないさ。だけど、誰かを殺したり傷つけたりそんなことはしていないぜ。いや、もしかしたら俺の行動が誰かを傷つけたり、苦しめたりしていた……ことがあるかも知れない。そこは否定しない。だけどよ、そんなの生きてる人間なら誰だって当たり前に犯してしまう罪なんじゃねえのか。ええ? なんで俺がよ……この俺がこんな目に合わなきゃならねえんだ。そりゃ確かに借金が片付くなら、こりゃ最高だぜ。よっしゃ乗った!と思ったさ。あの時は死ぬつもりだったことも嘘じゃねえし。だけどよ……ホントのホントにこんな目に合うとは……あんまりにも残酷じゃねえかい? なんで俺があんな爺いの代わりに末期がんで死ななきゃならねえんだよ。ええ? なんでなんだよおぉぉ)


「うわあぁぁぁッ」

 俺は山本に両腕で首を絞められ、意識を失う寸前で飛び起きた。夢だった。俺は汗だくになっていた。とっさに周囲を見回した。どうやら越してきてまだ日の浅い、安アパートの固いフローリングだった。クッションも敷かずに一枚布団だけの寝床。左の布団ではアリサが寝息を立てていた。腕時計のライトをつけて覗き込むと午前4時……。

橋本の姿をした堂上は確かに言った。

このままではわたしは橋本に殺されるだろう。だがその前に自分が自分の身を、いや、借り物であるこの肉体を滅ぼすしかないのだ。ただ、どうやって自分のこの肉体を滅ぼしたらいいのか。なおかつ肉体と精神をその先も生きながらえるにはどうしたらいいか? 考えてくれ……

結局、俺は無理難題としか思えない堂上の要求を突き付けられたのだ。

そして静かに立ち上がり、橋本の姿をした堂上は夜の街へと消えた。

俺はこれ以上監視することに意味を見いだせず、仕事を放棄した。何が何だかややこし過ぎて頭がついていけなかったのも事実だ。途方に暮れる思いで事務所に戻ることにした。

陳さんはその話しを一笑に付すだけだった。

「そんな世迷い言にかまうな。我々は依頼主の希望通りに仕事をしたんだ。この後、依頼主堂上氏の肉体が朽ち果ててしまおうと、今現在、橋本の体の中で堂上が生きながらえているならそれでいいのよ。契約通りだから。その他のことなんか知ったこっちゃないよ。ただ、堂上の本体が死を迎えた時に、いったいどんなトラブルが起こるのかはまるで見当がつかない。最後まで、できるだけの対処はしなくちゃならないだろうとは思ってるのよ」

陳さんはこのような事態が起こることを事前にわかっていたかのような口ぶりだった。


どこをどう飲み歩いてアリサとのアパートにたどり着いたのかは覚えていなかった。戻った時にはんまだアリサはまだ帰ってなかった。いつの間にか眠りについたはずが、悪夢にうなされて飛び起きたのだ。

カーテンの隙間の外はまだ真っ暗だった。乾ききった喉を潤すために台所へと立ち上がった。水道の蛇口をひねりコップに満たした水を一気に飲み干した。急に尿意を催してトイレに向かった。寝床に戻る途中、洗面台に映る自分の顔を見た。ひどい顔だった。そうだ。あの時からたった2年。たったの2年で10歳は老けたかのような顔がそこにあった。

ふと思う。自分こそ、肉体と精神に同一性があるのだろうか? この顔と心の中は果たして本当に同一人物のモノだと言えるのだろうか?

背筋に寒いものがよぎった。底の知れない恐怖で凍りつくかのようだった。

いたたまれなくなった俺はすぐに寝床に戻り、アリサの背中を抱きしめた。

すると、寝息を立てていたアリサが目を覚まし、体の向きを変えて何も言わず無言のまま俺に抱きついてきた。

なんだかとてもいたたまれない感覚のまま、俺は彼女を抱きしめ返した。

今日は、ベッドの上でただ死を待つだけの堂上に、いや堂上の体をした橋本に会いに行こう……

そう決めた。



  続く


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