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逃亡馬券生活   作者: 狂死狼
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第10章 果てしない旅路 11

「俺は殺人者だ。行方をくらませ裏街道を歩き、人目を避けて生きるしかない。本格的な投資馬券と命を食いつなぐサバイバルの日々を綴ってゆく」

1 眠れない日々



その11


陳さんの母親というのは実に不思議な人だった。霊能力者と称する者にロクなのはいないとそれまでは信じていたが、案外に気さくで思いやりにあふれる母さんだった。陳さんとともに山本の日常の見張りという単調な仕事に対して自身も協力してくれたし日々私や陳さんの面倒見もよく、気さくで思いやりのある優しいお母さんだった。俺とアリサの生活を何かと心配して差し入れしてくれたり、衣類や食器をを分け与えてくれたりした。霊能力を発揮する仕事というのは月に一度くらいあったようだが、俺にはあずかり知らぬところだった。

いつしか自分の母親であるかのような錯覚を覚えるほどであえり、俺は親しみを込めてママと呼んだ。

妹の寧寧とはいくらか距離を置くようにしていた。彼女はいつも親しげに近づいてきては笑顔を見せてくれるが、残念ながらタイプじゃない。日本人とはどこか違うかすかな匂いやしぐさが慣れないというのもあったが、アリサへの義務感みたいモノも芽生えていたのだと思う。

陳さんの事務所に出入りするようになって感じるのは昼と晩の食事の賄いをしてくれるために徐々に太りつつあることだ。


いずれにしても山本愁一の監視を始めてからあっという間に時がたち、すでに半年が過ぎようとしていた。俺は5キロ体重が増えた。

それでいて不毛にも感じる監視の日々は眠れない日々を数えるだけだった。

山本は狂ったように昼夜を問わず遊興にふけり、酒と女におぼれていた。自由奔放に青春を謳歌しているかのようだった。俺はそんな彼をつかず離れず、日々監視し、尾行した。ときどき彼からの要望に応える場合に限り、遊びや酒の相手を務めることもあった。監視していることは彼も承知の上だった。俺は毎日約8時間をクルマの中で山本を監視することで費やし、時間が来ると他のメンバーと交代した。拘束時間は不規則だった。

 クリスマスが近いというのに、俺は寒空の下、山本の行きつけのスナックの入り口近くで車の中、あくびをかみ殺していた。少しうとうとしかけたところを陳さんの窓ガラスをたたく音で意識を取り戻した。

「いったいいつまであの男の監視を続けるつもりなの」

ようやく交代に現れた陳さんに俺は疑問をぶつけた。堂上清太郎が死ぬまでというのが当初からの期限だということは承知していた。ところが、その堂上が病室で様々な機械につながれ、意識をもうろうとしながらもいまだに寿命を迎える気配を見せずにいた。先の見えない苛立ちから俺は訊かずにはいられなかった。

「本当にあのじいさんと山本は入れ替わってるのか? そんなこと本当に可能なのか? ……前にあったよ。悲惨な過去から逃れるために自殺願望の強い恋人同士がさ、片方の死に直面して魂が入れ替わったかのような錯覚に陥った。そんな事件が。知ってるだろう、陳さんも。でも結局は錯覚にすぎなかったんだよ」

「ああ。知ってるさ。あの事件がヒントで今回の計画を立てたんだからな」

 やはりインチキなのか? だとしたらこんなことをしていったい何になるんだ。そもそも死にぞこないの爺さんを、このまま騙しとおせると思っているのか。そんなの人道にもとる酷い

行いじゃないのか。いやまて。いったいどうやって二人を同時にだましてるというのだ?

「俺があのふたりをだましているとでも思ってるのか」陳さんは俺の疑問を察したかのようにつぶやいた。

「う。い、いや。そんなことは」

「俺にもわからないよ。侭侭ママは本当に不思議な力を持ってるみたいだし。たぶん本当なんだろうさ。堂上の身体はもうとっくに死んでるんだろうが、イキのいい若い魂が三途の川を渡るの拒んでるんだろうなあ」

 そうか? 本当にそういう問題なのか。何だか馬鹿馬鹿しいような気持にもなる

 ただ、生きるために選んだこの仕事を、途中で投げ出す気持ちに離れなかった。もちろんこの二人がどのような結末を迎えるのかも見届けなければならない。

 そえがまさかあんな……結末を迎えることになろうとは。

 その時の俺には知るよしもなかった。

 


   続く




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