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逃亡馬券生活   作者: 狂死狼
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第10章 果てしない旅路 7

「俺は殺人者だ。行方をくらませ裏街道を歩き、人目を避けて生きるしかない。本格的な投資馬券と命を食いつなぐサバイバルの日々を綴ってゆく」

1 眠れない日々


その7


「いったい何をしようってんですか?」思わず口をついて出た。よく見ると簡易ベッドの上の二人は縛り付けられていて身動きが取れないようだった。「ちょっと、犯罪的なことなら俺には無理。下りますよ。失礼」

 出口に向かおうとした俺を30代くらいだろうか、地味な顔の女が間に入ってきた。

「ちょっと、せっかくここまで来たんだから最後まで付き合ってよ。何も犯罪行為とは決まってないしさ。ねえ兄さん」女は陳さんの方を見た。

「ああ。寧音、そのヒトは兄さんの友達だから、腹割って話した仲だから。大ジョブよ。ちょと、手伝ってよ。今いいとこだからさ」

「いったい、何をしようってんだ? こんなことをしてただで済むと思ってるのか。俺は悪いけど」

「いいからいいから」

寧音と呼ばれた陳さんの妹らしき女は俺の腕をがっちりとつかんで引き寄せた。意外と豊満な胸が腕に当たった。どうやらわざとやっているようだ。

「これからさ、この二人の魂を入れ替えるのさ。そうすることで互いが強く願う未来が実現するんだ」

「はあ……何を言ってるの?」

 陳さんは真剣そのものだった。

 二人の魂を入れ替えるだって? なんて馬鹿げたことを言ってるんだ。正気なのか? そういえばいつだったか、不幸な女が魂の入れ替わった男を探してくれと頼みに来たことがあったな。男はすでに死んでいたし、魂が入れ変わったなんてのも嘘か本当なのか、何もわからないままに終わった事件だった。しかし、またまたそんなオカルトなことを、今度は陳さんが商売で行うというのか。ばかばかしい。いったい何を考えてるんだ。

  俺は正気の沙汰でないと確信したが、引き下がる気持ちも失せていた。いったいこれから何が始まるのか、見極めたい好奇心が勝っていた。

 ベッドの上の二人は薬によって眠らされているようだった。身動きもしないで横たわっていた。

 ベッドの両脇にはたくさんのろうそくが用意され、それぞれに火がともされた。同時に事務所内の明かりは消え去った。ろうそくの炎の揺らめきに老人とチンピラ二人の影が揺れていた。

「さあ、妈妈ママ準備はいいかい」

陳さんがそう言うと、しわくちゃの婆さんが椅子ごと移動してきてベッドの間に陣取り、何やら呪文のようなものを小声で唱え始めた。口の中でもごもごつぶやいているので何を言っているのかはほとんど聞き取ることはできなかった。

「アーモンドアイコントレイルーラシップリンセスシバルスーパークリークデアリングタクト―センボーイ……」

長々とつぶやくような呪文が終わると突如口調が変わり、今度は甲高い奇声を出し始めたた。

「ホンニャラカハンニャラカハムヨツヨナレライネンコソユーショーハンカチサイトークリヤマラブッウウッウグッ」

 婆さんは突然目を向いて泡を吹いたかと思うと、背もたれに背中を打ち付けるような上下運動を開始た。白く長い髪の毛を振り回してヘドバンを繰り返すのだった。

「キイエエエエエエッ!」

金切声を叫んだかと思うとばたりと椅子の上に倒れ込んだ。

いったい何が起こってるというのだ。陳さんとその妹は真剣なまなざしでそれを眺めていた。

 ゆっくりと時が流れた。俺はただ沈黙していた。やや30分も経った頃だろうか。山本がゆっくりと体を起こした。

「あ。あああ? ここはどこだ。俺はどうなったんだ。あ、あれ。あれまあ。ほほう、こりゃあ愉快だ。おおう、体が軽いぞ。あへあはあはは。なんだこれ。わしがわしじゃないじゃないか。あはははは」山本はいやらしい笑い声をあげた。何となくその声は俺の癇に障った。

「あ、あなたは堂上さん、堂上清太郎さんですか」

 陳さんが声をかけた。

「いかにもそうだ。わしゃあ清太郎じゃ。あはは。若返ったぞ。うむ、こりゃえらいこっちゃ」

 山本が本当に堂上という老人と入れ替わったというのか? なんだそれ。俺はにわかには信じることが出来なかった。

「やったぞ。あそこも元気だ。ほらほらちょっと触ったらほら、こんなに」

 なにやら下半身を弄びだした。もう見たくはなかった。それよりも、そっちはどうなんだ。そっちの老人、つまり元堂上清太郎とかいう男は。身動きもせずじっとしていた元堂上はぎろりと俺を睨んだ。しかし、腕も足も顔もこわばったように震えるばかりだった。思うように動かせない自分の体に苛立ちと怒りがこみあげているようだった。そしてその眼からは大粒の涙が…この二人の身に起こった信じられない出来事が一体何なのか……次第にこの俺にもわかってきた。わかりたくもなかったが……。


 

  続く


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