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逃亡馬券生活   作者: 狂死狼
205/259

第9章  転がる石のように 20

「俺は殺人者だ。行方をくらませ裏街道を歩き、人目を避けて生きるしかない。本格的な投資馬券と命を食いつなぐサバイバルの日々を綴ってゆく」

2  逃亡の果てに 


 その7


「これまで、どういうファクターを重視して予想を組み立てていたの」

 俺は野村に基本的なことを問いかけた。二人で組んで馬券攻略をするという約束のもとに手探りで始めた馬券生活コンビだが1週間とたたずにつまづいた。野村の競馬に取り組む姿勢はあまりに幼稚だった。競馬好きにありがちな競馬にロマンを求めるタイプで、馬の能力や持ちタイム、脚質といった要素はほとんど無視していた。前走までの着順や相手馬との着差、血統などをさらりと触れた後はほぼフィーリングや勘だけの予想だ。一応パドックも見るようだが、漠然と眺めてスタイルのよさげな馬を選ぶといった程度だ。そんなもんで勝てるなら世話はない。世の中の全員が馬券師になってるだろう。

「それじゃダメなの。他に何を重視すれば勝てるんだよ。教えてくれよ」

 スタート当初からつまづいた。まあ一般的な競馬フアンとはこんなものだろう。よくこんなんで予想を売ろうなどと大胆な発想が沸くものだ。

「普通の人間が考えることを同じようになぞったところで勝てる訳がないさ。それで当たったとしても大勢が同じことを考えて買うんだから儲かるオッズになるわけがない。誰もが考えた通りの結果になるなら、不人気馬が来て高配当になることもないしね。人とは違う観点で競馬というものを解析しなければ駄目だって」

「そりゃあ理屈はそうだろうけど……そんなやり方どうやって見つけるんだよ」

「逆転の発想だよ。得意なファクターたとえばそれが血統だとしたら、その血統の馬が勝つのはどんな条件のレースなのかを考える。ダートの短距離で勝つ割合が高いと思ったら、過去のレースを振り返ってその血統馬のダート短距離戦の成績を出来る限りあぶり出す。それで回収率がどうなるかを数多く検証するんだ。100以上の対象レースで回収率がプラスなのだとしたらそれは必勝法といえるんじゃないの」

「なるほど……しかし大変な作業だな。それで勝てるようになるのかな」

「今は簡単にデータが取り出せるから、そんな方法はすでに多くの人間が取り組んでるさ。血統なんて必勝法にはなり得ないよ。ただ一つの考え方の例だし、その程度の手間暇を惜しむようじゃ一生競馬で勝つなんて無理だって」」

「ふーん。そうなのかあ」

「もっと違うファクター、あるいは全く異なる二つ三つのファクターを組み合わせるとかは有効性があるとは思うけど、ほとんど出尽くしてるんじゃない」

「じゃあ、狂ちゃんはいったいどんな方法でやろうと思う訳」

 いきなりちゃん付けできたか。馴れ馴れしい。俺はまだこの男を丸っきり信用などしていなかった。詐欺罪で捕まった男だ。軽々しく信用などできない。もっとも、殺人よりははるかにましな罪だろうが……。

「根本的な部分は言えないけど、馬の能力に脚質を加味してさらにアレをプラスアルファしてあれこれいじくったのがこれだ」

俺はPC画面にこれまでの集計を入力したエクセルの表を野村に見せた。それは2015年から2020年4月までの集計だった。大元の表は2000行を超えている。

「改定改良を繰り返していて、2017年3月から2018年12月までは未改定だからコピーして表から削除する」

 マウスポイントをクリックしてスライドさせ青く色が変わった行を削除した。

「ほらこれを見て」

三連複の合計が一番下に出ているのだが、107.8という数字が出ている。

「これは?」

「まだ集計してない2年分を削除した1200レース分で回収率が107.8%という結果だよ」

「え?」

「ただ、こんな程度の回収率じゃよほどうまく資金配分しなきゃ儲けにはならない……そこで」

俺はいくつかの項目をフィルターにかけて削除していった。最終的には600レース(行)ほどに減ってしまったが回収率は160%に変わっている。

「ほら、絞っていったら回収率が150%を超えただろう。この絞る要素も全部意味があってそれぞれが競馬の解析というか、木を見て森を見るといった観点で導き出したものだよ」

「へえーすごい。これだったら間違いなく勝てるね」

「ああ、そのつもりさ。けど、問題は資金配分だよ。ほら、ここ。的中率は20%を切るんだ。これが一番の問題。4万5万の万馬券が時々当たるものの、最悪30レースくらい不的中が続くことがある」

「へえ~それにしてもすごい。もしかして天才?」

「まだ儲かってないからね。これからだよ」

「じゃあさ、資金配分を俺は考えるよ。もちろん組むからには俺の資金もすべて差し出す。今の全財産は50万ほど。足りなきゃ消費者金融、街金でも借金してくる」

 詐欺で捕まるような奴が借金なんてできるとは思えないが、当面の資金が増えることはありがたい。

「それはそうとして、なんで俺が妹と、その……アレだってことがわかったんだ?」

「ああ、俺がけしかけてたからさ。お前好みのいい男が同じ宿にいるから、なにかあったら頼ってくれって。やくざなんかやめてさ、乗り換えたらって言っておいたのよ。2回目に面会に来た時の態度ですぐにわかったさ。ああ、いい仲になったなって」

この野郎め。なかなかの曲者だということが分かった。



  続く



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