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03.常識を知ろう

03.『常識を知ろう』


浮遊魔法と徒歩を交互に行う事で4日で街らしいものが見えてきた。

魔法を使ったのは歩き続けるだけの体力が持たなかったことが要因。

やっぱり体力作りは重要だと実感した。

食事とかは倉庫に保存食があったから食い繋げたけど、味がやっぱりいまいち。

今日くらいはまともな食事がしたいと思った。


「やっと着いた」


見上げる城壁。目指していた街が意外と大きかったことに驚きがある。

最初に見た村があまりにも貧困だったので文化レベルが大分下がっていると思ったからだ。

だが今目の前にある街は防壁に囲まれた立派なもの。

河川も整備されていて魔物の進行でも十分に防備が整っているといえる。


「検問とかはしていないみたい」


現在の時刻は大体昼頃だろう。時計が無いから正確な時刻は図れない。

それでも防壁を潜る人の数は意外と多い。

商業都市なのかもしれない。

でも検問を行っていないのは良かった。こちらは身分を示すものが何もないのだから。

服装に関しても歩きながら観察していたが昔よりも服飾技術が低下している思った。

それでも物珍しく見られるだけで特に問題はなかったと思う。自信はない。


「最初はやっぱり換金場所かな」


時代を知ろうにも図書館などが有料だとしたらやっぱりお金が必要。

お金がないと何もできないのはいつの時代でも変わらないはず。

商店で直接換金してくれるのか、それとも特定の場所でしかできないのか。

それを知るのが今は一番の目的。


「あの、魔石の換金するにはどこに行けばいいんですか?」


防壁の入り口に立っている兵士に声を掛けてみる。

年齢は若そうだし、来る人に対してにこやかに挨拶している様子から大丈夫と判断した。

それはやっぱり正解だった。


「魔石の鑑定もあるから冒険者ギルドが一番だよ。何だいお嬢さんはお使いかな?」


「そんな所です。ところで冒険者ギルドはどちらですか?」


「この通りを真っ直ぐ行ったところに噴水がある。その斜め右くらいの場所にあるよ」


「丁寧にありがとうございます。それでは失礼します」


小さな子にも親切なのはやっぱり好印象。お辞儀をして去ると兵士は手を振って送り出してくれた。

兵士の態度からこの街は治安がいいのかもしれない。

治安が悪い街は往々にして兵士がピリピリしているか、態度が悪いはず。

通りを歩けば最初に露店が広がっており美味しそうな匂いが鼻孔をくすぐる。

だが悲しいことに無一文では何も買えない。残念。

噴水に近づくにつれて今度は商店が増えてきた。

武具を扱っていたり、服を並べていたり、アクセサリーショップもある。

結構充実していると思うが、内容までは分からない。入ったとしても金のない客には冷たいだろう。

子供1人であるという点もマイナス評価を与える。


「あれかな。私が凄い場違いだと思うけど」


屈強な男性や女性、魔法使いみたいな人達が出入りしているからすぐに分かったのはいいが入り辛い。

冒険者ギルドが一体どういったことをやっているのか分からないが子供が入る場所でないことは見れば分かる。

それでも背に腹は代えられない。お金は絶対に必要だ。

意を決して中に入るとやっぱり視線が集まってくる。気にはしないが。


「あの魔石の換金をお願いしたいんですが」


「お嬢さん一人?」


近くにいた受付の人に声を掛けてみた。やっぱり不思議がられている。

それに受付の女性はエルフだったことに驚く。異種族が交流しているということが前世ではあり得なかった。

保守的と言っていいほど自分たちの技術を外に出そうとはしていなかったはず。


「はい、1人です。頼まれてきたのですがやっぱり無理ですか」


「無理じゃないけどちょっと対応がね。あとで私が事情を聞くからあっちで待ってくれるかな」


親切な女性で助かった。これで門前払いだったらどうしようかと思った。

支持された場所に椅子があるので観察がてら座っていよう。

どうやら今は結構混む時間帯だったみたいで、受付の人達もあまり余裕がないのだろう。

それと観察していて分かったのだが、意外と異種族が混ざっている。

エルフに獣人、争っていたはずの魔族までいたのは流石に驚いた。

あの戦争の後に一体何が起きたのか知りたくなる。


「待たせてごめんね。私はリーネ、よろしくね」


1時間くらいしてから先程の受付エルフが来てくれた。丁寧に対応してくれるのは有り難い。

そういえば自分の名前を教えていなかったことに気づく。

道中暇だったので名前は事前に考えていた。前世の名前は使わないことにしている。

仮に歴史などに自分の名前が残っていたら面倒になりそうだと思ったから。


「アリアです。それで先程の話なんですが」


「換金自体は出来るわよ。ただ身分を証明するものはあるかしら」


「ないです。最近捨てられたので」


事実をそのまま伝える。言ってみて思ったけど結構酷い状況だと思う。

捨てられて身分の証明ができない。社会的に死んでいるようなものだ。

でやっぱり同情的な目で見られる。


「うーん、それはちょっと困ったかな。取り敢えず魔石を見せてくれるかな」


腰に着けているポシェットの中身を見せる。9級が12個、8級が3個。

此処に来るまでに魔獣に襲われたので増えていた。もちろん魔法で倒している。

ただ魔石の数でリーネは驚いているようだ。何故かな。


「確認だけど魔石はどうやって集めたのかな?」


「魔獣を倒す以外に方法があるんですか?」


疑問を疑問で返すとやはり驚いている。この位の年齢で魔獣を倒せるのはやっぱり常識外れなのかな。

前世では結構な人がこの位の年齢で魔獣と戦っていたこともあったけど。


「ちょっと移動しようか。別に変なところに連れていくわけじゃないからね」


若干冷や汗を流しながら手を握って歩き出した。

やっぱり魔獣を倒したというのは駄目だったかな。ただ落ちていたのを拾いましたというは無理がある。

それに継続的に換金すると絶対におかしいと思われるだろう。貰いましたも不自然だから却下。

というか階段を上っていくのはいいけど、一体どこに連れていかれるのだろうか。


手を引かれて連れてこられた部屋のプレートには支部長室と書かれていた。

何故子供が換金するのに一番偉い人の部屋に連れてこられたのだろうか。

確かに身元不明の子供で、魔獣も倒すとなると怪しさ満点だけど。


「支部長、お時間いいですか?」


「構わない、入りたまえ」


老齢のとはいえない、結構若い声で帰ってきた。

偉い人はお年寄りという考え方は古いらしい。


「それで用件は何かね?」


「将来有望な少女を確保しましたのでお連れ致しました」


「ふむ、実績は?」


「魔石15個を所持。事実確認は行っておりません」


滅茶苦茶見られているんだけど。年齢は40代後半かな。

オールバックの茶髪に少々白髪混じっているけど精悍な顔つきには似合っている。

それに隙が無いように見えるから元々は結構な実力者だったのだろう。

あとはその支部長の向かいに座っている女性も気になる。


「君はどのような手段で魔獣を倒したのかね?」


「魔力で。腰の短剣は飾りです」


魔法という言葉は使わない。もしかしたら忘れられた技術かもしれない。

それに今からこちらの手札を見せる必要性も感じられない。

駆け引きはいかに手札を出さずに勝つか。誰かがそんなことを言っていた気がする。


「その歳で魔術師か。確かに魔術師ならば魔獣を倒すことも可能だろう」


「魔術師?」


聞き慣れない単語が出てきたので思わず聞き返してしまった。これは悪手だ。

せめて知っているように装わねばならなかった場面だと反省している。

ただこういった時に小さな体が役立つ。


「すみません。最近捨てられたので世間一般に疎いもので」


「捨て子だと。村の位置などは分かるかい?」


「眠っているところを担がれたので全然分かりません」


記憶喪失とかいうよりは真実味があるだろう。村の名前すら分からないのだから。

今更あの村に戻る気はサラサラないし、無意味。

ただ捨て子という単語は思いの他、効果があったようだ。

支部長の表情が同情的なものになり、次に笑顔で対応した。


「ならばまずは君の魔術を見せてくれ。それで今後どうするか決めよう」


「つまり合格すれば誰かが身元保証人になってくれるということですか?」


「その通りだ。部屋で出来ないのであれば外に行こうか」


「結構です」


室内で行使するとなるとやっぱり魔刃だろう。刃渡りは50㎝位でいいだろう。

これなら属性は関係ないし、魔術がどういったものか分からないが、簡易的な魔法だから違いがないだろう。

あとは構築時間を少し遅めでやれば問題ないと思う。


「魔刃展開」


いつよりゆっくりと構築して刃を展開。天井に向けているから誰かに当たる心配もなし。

問題はないはずだったけど、受付嬢と元から座っていた女性が凄い表情をしている。

何か失敗しただろうか。


「ちょっと詠唱は!?何でそんなに早く魔術を行使できるの!?」


「それに見たことがない魔術だが、それは一体……」


アウトだった。展開速度はゆっくりだったから3秒だし、無詠唱なんて当り前じゃないか。

それにただ魔力を練って刃の形にしているだけだから簡単だと思ったんだけど。

どうやら魔術でこれを作り出すことは出来ないみたい。さて何て言い訳しよう。


「何より君は、どこから魔力を集めた?」


女性の言っている意味が分からない。魔力とは自身の中で練り上げ体内に貯蔵しておくのが普通のはず。

それ以外の方法だと空気中に含まれている魔素を行使する分だけ体内に集め、魔力として圧縮。

魔法の行使に使うが、かなり効率が悪いし、時間が掛かってしまう。

もしかして今はこっちが一般的なのだろうか。そうだとするとかなり衰退している。

もう面倒だから暴露しようか。魔法が使えると。


「えっと、お名前を聞いてもいいですか?」


「あぁ、すまない。リジェネという。これでも魔術師で冒険者の中では上の方なんだが」


「それではリジェネさんに質問します。一般的な魔術の使用方法を教えてください」


誰かに聞かないと違いが分からない。先に調べる方を優先した方が良かったか。

お金に目が眩んだといわれても仕方ない。何よりまともな食事がしたかったのだ。

そして聞いてみるとやっぱり効率の悪い方法が一般的らしい。

そりゃ衰退もするわ。


「魔力とは体内でも練成できるんです。それを自身の貯蔵領域に貯めておく。そうすることで魔素を集める必要はなく効率よく魔力を運用することができます」


「そんな話は聞いたことが無いな。君の師匠は誰だい?」


「一か月位教えてもらったら放置されましたから、ほぼ独学と変わりません。心構えだけ学びました」


あっ、今度は全員驚いている。基本を教えてもらったら独自開発で色々とやっていたら勘弁してくれと言われた。

効率悪かったから、効果的な運用を開発したり色々とやらかしていた。

そういえば前世も開発した術式を公開したら色々と驚かれていたなぁ。世紀の大発見とか。

でも時間が足りなかったからあまり普及しなかったはず。すぐに戦争だったし。


「ちなみに君の年齢は?」


「5、6歳くらいじゃないかな。数えていないので分かりませんが」


転生直後に速攻で捨てられたのだから聞く暇もなかった。

ただ年齢を答えてから気づいたが、今の私はかなりおかしいと思われているんじゃないかな。

だって推定6歳児が大人3人相手に物怖じせずに説明をしている。

端から見るとおかしな光景だろう。絶対に何か聞かれるな、これは。


「支部長、彼女の身柄は私が預かってもいいだろうか?」


「それは願ってもないことだが、理由を聞いてもいいだろうか」


「知的探究心を刺激された。それだけさ」


いいことを言うね。知らないことを調べて分かった時の高揚感は得難いもの。

それに形として残せればなお良し。やっぱり時代は変わってもこういう人はいるんだね。

それじゃ私からも要求を言おうかな。もう開き直って色々と喋ろう。


「それでは私からも。常識の提供と金銭的な援助を要求します」


「ずいぶんと厚かましいが、いいだろう。他に何かあるかい?」


「他はどうとでも。そうだ、此処の説明もお願いします」


「それは後日リーネから説明させよう。君が将来的に所属してくれると支部長として鼻が高い」


リジェネから了承も貰えたし、支部長からも許可は得れた。

リーネはまだ驚いたままの表情だったが、満面の笑顔で頷いている。後日に色々と聞かれそう。

どこまで説明するのかも考えないといけないな。前世の歴史は教えない方がいい。

技術については選んで説明かな。この方針で行こう。


「それではまた明日来ます。リジェネさん、どちらに」


「君に仕切られるというのもおかしいな。私は銀熊亭に宿を取っている」


「ならそこで説明します。色々とね」


連れ立って立ち上がる。どうも知的探求心という同じ趣味がある為か連帯感が生まれていた。

支部長とリーネは母と娘のような見た目なのに、中身が釣り合っていないと思えた。

どちらかというとアリアの方が立場的に上に見えてしまう。

戦闘方面の経験は戦争を経験しているアリアの方が上なのは他の誰も考えられない。

ただアリアにとってこれからが本番であるのは間違いない。

どうやって誤魔化しながら真実を交えて話していくか。


(どうしようかなぁ)


頭が痛くならない程度に考えよう。面倒になれば暴露しよう。

あとはリジェネという人物を観察して信用できるかどうかも重要な要件。

信用できるのであればある程度の技術も提供しようと思っている。

ギブアンドテイク、信頼関係はやっぱりこの形が一番だろう。

さて、色々と対策を考えましょうか。

ツルハシで氷を砕くだけの仕事。

腕と腰が痛い。

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