20.乗り込もう、王城へ
20.『乗り込もう、王城へ』
衝撃的な話題から立ち直らない二人を強引に馬車に詰め込んで溜息を吐く。正直私もミーシャさんの話には驚いた。まさかお世話になっている人が魔王軍の人だとは思っていなかった。
というか魔王がこの国に来訪するの良いのだろうか。いや、明らかに駄目だと思う。
「それじゃ説明してもらおうかしら」
「私にも分かるようにお願いします」
説明も何もカスミには私について最初から話さないといけない。でもそれは私との繋がりが強まってしまうから思いっきり私の事情に巻き込むことに繋がる。
そこを了承してくれるかどうかによって話すか話さないかも決まってくるんだけど。
「ハッキリ言ってこれから巻き込まれると思うんですけど。話から推測してアリアさんは王に喧嘩を売りに行くんですよね?」
「んー、そうなるね。暴れること前提で考えているのが間違っているというのは分かるんだけど。私は理不尽な王は嫌いだからさ」
「なら一緒にいる私にだって何かしらあるはずです。それを考えると巻き込むとか考えるのはすでに遅いのでは」
確かにそうだね。王が変なことを要求して来たら全力でカスミを保護することにするつもりだし。そうなれば自動的にカスミも王に反逆したことになる。
何だ、そう考えれば今更な話だね。
「じゃあ話すけどこれから話すことは口外しないこと。これを約束してね」
「分かりました」
そして私は前世で歴史に残るほどの悪行を残すほどの悪い魔女であったと説明した。もちろんそれが表向きの事情であり、真実の方も忘れずに話している。
意外だったのはオーフィリアも相槌を打ちながら話に聞き入っていたこと。そういえば賢者の話以外で彼女に私のことを話していないことも忘れていた。
「つまり理不尽に処刑されたはずなのに何故か今の世に記憶を持ったまま転生したという事ですか」
「そういうこと。原因については私もサッパリなんだよね。それにしてもカスミの慣れは凄いね。普通なら否定から入るはずなのに」
「前にもいいましたが、そういった物語は私の世界で豊富にありますから」
「本当に凄い世界だね」
「それで貴方と魔王の関係は?あと今だから聞いておくけど他に多種族の王と交流があるの?」
「オーフィリア、悪いんだけど魔王との回顧は3000年前の戦争に直結するから他の皆が集まった時にまとめて説明する。他の王は全部かな」
「ぜ、全部?」
我ながら前世は結構アグレッシブに世界を漫遊していた気がする。その所為で多種族の問題に首を突っ込んで王族とも色々と関係を持っていた。中には戦った王もいたけど。
そうしたら例外なく気に入られて私の国に所属しないかとお誘いを貰ったけど、他の国からの横やりやらで結局私の所属はないことになっていた。
つまり私は何処の国にも所属せず勝手に戦争に参加して、勝手に人間の王様に罪を被されて処刑されたことになっている。そういえば多種族はそのあとどういった対応をしたんだろう。
「でもあれからかなりの年数が経っているから生きている王はいないはずだよ。あっ、竜王は例外かな」
あれも確か不老とか言っていたはず。元気がいいおっさんだったけど、バトルジャンキーとかいう厄介な性質の持ち主だった。さらに近接戦闘が得意であの当時の私では遠距離からの多重砲撃で吹っ飛ばさない限り勝てなかったほどの強者。
今回も会った瞬間に喧嘩を挑んできそうで私的にはあまり会いたくない吾人なんだけど。今も変わらず元気かなぁ。
「貴方の交友関係の広さに驚きよ。でもそうなると今繋がりを持っているのは魔王と竜王ということかしら?」
「多分だけどエルフも私のことを知っているはずね。あそこは長寿だからそこまで世代が変わっていないはずだから」
「それでも三か国は貴方との交友を持っているという事ね。真面目に貴方と事を構えると国が滅びるわ」
「そんな大袈裟な」
言っている私も正直な所は嬉々として魔王と竜王は戦争を仕掛けると思う。あの二人は思い立ったら吉日とばかりに速攻で動くからね。動いた場合がどうなるかも容易に想像できる。
連携を取らずに各方面から一気呵成に攻め込んで王城をあっという間に占拠して魔王と竜王が戦う姿が目に浮かぶよ。
「それじゃこの話はここで終わり。次は王城での行動について話をしよう」
「そうですね。何も決めないで行くよりはいいでしょう。といっても私はお二方の意見を聞くしかなさそうですけど」
「カスミには悪いけどそうなるわ。それでアリア、方針はあるかしら?」
「そうだね。まず何か渡されてもそれを身に着けたり、食べ物飲み物は一切口に入れちゃダメ。簡単に了承しないこと。頷く行為だけでも了承と受けられるから微動だにしないこと」
私の台詞にオーフィリアはうんうんと頷き、カスミは若干引いている。でもね、こうでもしないと何が原因か分からないままに勝手に話が進んでいくんだよ。
了承した覚えもないのに勝手に言質取ったとかマジで訳が分からない。それが王族との交渉なんだから。
「あとは全部私が代弁する。カスミは言葉が分からないという設定でお願い。オーフィリアもそれでいいわね?」
「そうね。正直お姉さま達も一緒なら良かったんですが生憎急遽用事が入ったとかでご一緒できません」
「うわぁ、お先真っ暗じゃない」
恐らく姫様が邪魔であろうと考えている人物がいたのであろう。あの姫様なら民衆に負担の掛かるであろう無意味な法案を事前に防ぐぐらいのことはしているだろう。
そしてそういった姫様を今回の件に関わらせたくなく先手を打とうと考えているのだろう。なら姫様が来るまで時間稼ぎを行うかといえばそんなことは出来ない。
いつ帰ってくるか分からない人物を待つほど悠長に構えてられない。
「これは本格的に事を構えないといけないか。悪いんだけど王城吹っ飛ばす位は覚悟しておいて。私の理性が持てばだけどね」
「そこまで愚かでないことを祈るしかないわね。姉様からも好きになさいと伝言を受け取っているわ」
「それはありがたいね。それじゃどうやら到着したみたいだし乗り込みますか」
音遮断の魔法を使っていたから今までの会話が外に漏れている心配はない。迎えに来ていた中に悪いこと考えている人の諜報員がいないとも限らないから。
一応周囲を警戒しながら王城の中を進んではいるけどやっぱり違和感があるね。だって常駐しているはずの騎士は居ないし、侍女の方々ともすれ違わない。
明らかに何かを企んでいるのが丸分かりな時点で、馬鹿じゃないのかと思う。
「お待ち下さい。謁見の間に入る前にこちらをお付けください」
「これは?」
「魔封じの首輪です。王がいる場で自由に魔術が使われることが問題ですので」
へぇ、謁見の間の前にいる騎士さんは面白いことを言うね。これが魔封じの能力を持っているとかアホかと。カスミは訳が分からずに渡された首輪を眺めているだけだから事前に言った約束を守っている。
さて姫様も一緒にいることだから畳み掛けますか。
「これで魔術を封じるなんて嘘ね。これに付けられている効果は隷属。奴隷などに付けられる隷属の首輪のはずなのに」
「貴様!我々近衛兵を愚弄するか!」
「愚弄も何も事実だし。なら騎士さん二人の内、どちらかこの首輪を試しに付けてください」
「そ、それは」
動揺している時点で黒だと把握。私相手に魔導具の解説に嘘を混ぜるなんて馬鹿でしょ。伊達に魔法具の開発とかしていたんだから隠蔽とか掛かっていない限るモロバレだね。
初手でこれなら要求自体も想像できる。それに隷属の首輪を二つ渡している時点であわよくば私のことも確保する気満々だったのだろう。Aランクを手中に収めることが出来れば戦力の大幅アップが見込めるだろう。
「それで付けないんですか?」
「王の命令に逆らうのか!?」
「王の命令ねぇ。実際はどちら様の命令なのか」
「その前に私がいる目の前で不正を働くなど言語道断です。それとアリアが言っている通り本当は誰の差し金なのですか?」
「ひ、姫様は私達近衛兵よりそちらの者を信じられるのですか?」
何か馬鹿なことを言っているね。今の姫様は今回の件でいかに私の機嫌を損なわないようにするかを考えている。さらに王のことを疑っているのだから答えなんて決まっている。
「なら付けなさい。それが貴方達の証明になるのですから」
オーフィリアの言葉に近衛兵が項垂れた。やっぱり首輪の能力について知らされていたか。召喚者は何も知らないから下手したら騙されて付けているだろうね。
カスミも少々怒っているようだし同情はするよ。騙される方も悪いけど。
「それじゃこの首輪は貰っていくよ。証拠品だからね」
白塗りの首輪。見た目的にはアクセサリとして通用するかもしれないけど、本来隷属の首輪は黒色で若干禍々しい印象を与えるから分かりやすい。
近衛兵も何も言わないからカスミの手元から首輪を回収しておく。他にギミックが施されてはいないけど持たせていても意味がないからね。
「それじゃオーフィリア、殴り込もうか」
「ちょっと、アリア!?」
初手からこれなんだから形式ばったことなんて意味がない。この調子ならまともな交渉だって出来るはずもないんだから最初にインパクトのある登場の仕方をしよう。
ということで謁見の間の扉を蹴破る。中にいる者達が慌てふためいているがそんなの関係ない。もう交渉は決裂しているのだから。
「何者だ!ここが王の御前だと知っての狼藉か!」
「はいはい、そんなことどうでもいいよ。それに呼んだのはそっちじゃない」
何か王の隣にいる人が憤慨しているけど誰なんだろうね。あとでオーフィリアに説明してもらおう。それで見渡してみれば物の見事に知っている人がいない。
つまり全部が敵であると思って間違いないかな。
「無礼者!これが召喚者の礼儀だと言うのか!」
「召喚者じゃないし、漂流者だよ。それに礼儀というのならこの部屋に入るには誰彼かまわずに隷属の首輪を付けないといけないんだ。よくそんなので外交が成立しているね」
首輪を指で回すとさっきまで喋っていた人の顔が引き攣っている。なるほど、あいつか。他の人達の反応は首輪に対する反応が無くて登場の仕方に反応しているから間違いないかな。
「オーフィリア、さっきから騒いでいるあのバカは誰?」
「宰相のガストよ。第一容疑者?」
「そうなるね。それでこの首輪に関する説明はどうなの?」
「そのようなものは知らん。それよりもお主が召喚者か?」
王様が流れをぶった切って話を逸らしやがった。それで私が召喚者。というかあくまでもこの国に現れたのは召喚者として扱う気でいるのも分かった。もう駄目だこの国。
国外への見栄の為に力のない者を強制的に偶像に仕立て上げるとか最悪。尚且つすぐに嘘だと分かる内容であるのも悪い。
王の言葉に頭を抱えつつ手を振って横のカスミを指さす。それに合わせてカスミが頭を下げるけどそんな必要ないよ。
「ならお主は黙っていよ。我が用があるのは召喚者のみよ」
「失礼ですが父上。私の報告では漂流者として伝えていたはずですが」
「そのような報告は知らん。あくまで私の所にきた報告は召喚者が現れたということのみ。分かればお主も黙っていよ」
「黙れ愚王。そっちの招集に付き合っているだけ有り難いと思え。こっちは茶番に付き合っている暇もないのよ」
流石に私の発言に王のこめかみに青筋が浮かび上がっている。でも私の言っていることは真実なんだよね。別に付き合う必要性もないし無視しても何の問題もない。
オーフィリアからの願いだから聞き入れただけで他の人が来たところでぶっ飛ばしていただろう。
「ほら、ちゃっちゃと要望を言えばいい。ちなみにこっちの子は言葉が分からないから私が翻訳者ね。それでもいいのなら黙っているけど」
「ぬぅ、ならば構わぬ。我からの命令は一つ、我が国に協力せよ」
「誰が命令しろといった。やっぱり馬鹿でしょ。大体からして最初からそっちの要求を聞く気なんてないから」
あっ、オーフィリアも引き攣っている。でも当然でしょう。だって馬鹿の行動に付き合って何で一緒に共倒れしないといけないのよ。いやよ、そんな人生を棒に振るようなこと。
それにしても意外と忍耐力あるねぇ。全員怒りに震えているのに実力行使しようとしないなんて。まぁ、それをしたら終わりなんだけどね。
「我はこの国の王だぞ。国王の命に従えぬというのか」
「そんなの関係ないし。この国にはいるけど別にだからって王命に従う理由にならない。私達は奴隷じゃないんだから」
「民とは国の物、引いては王の物である。なれば主も我の物であろう」
あぁ、家臣に騙されている可能性もあったけどこれで決定的だね、この勘違い王は。私の顔も引き攣ってきたよ。民が王の物だってさ、笑えるね。
民があってこその国であって、王とはあくまで道を指し示す存在であるだけ。それが分かっていない時点で王たる資格すらない。このままこの馬鹿が国を治めていたらこの国は沈むね。
それでもその娘たちが優秀だから死んだ後は安泰だろうことが唯一の救いかな。
「ねぇ、オーフィリア。凄い暴論を聞いたけどどうすればいいんだろう」
「ごめんなさい、私も言葉が出ないわ」
「私も流石にこれはないと思います」
オーフィリアも同意してくれるし、カスミも聞こえないように呟いている。これで協力しようと思う人がいるのかね。どう考えても無理でしょ。あっちの忍耐力も先に私がキレそうだよ。
でもあっちから何かしらして来ない限りあまり手を出したくないんだよね。あくまで正当防衛を主張したいから。でもどう見ても罠を張っているのは分かっているから我慢しているけど。
「我の命令に従う気はないという事か?」
「無い!それに戦争するなり戦力を誇示するの前に武器庫と魔導具貯蔵庫を何とかしなよ。殆どイミテーションでまともな戦力を保有してないんだから何をしても無駄よ」
ため息と共に吐き出した言葉に謁見の間が騒然としていた。オーフィリアなんて口をパクパクとさせて余程言葉が出ないんだろうね。でも私が言ったことは事実だよ。
自国の戦力を自分達で減らすなんてよっぽど馬鹿なんだろうね。私腹を肥やすことしか考えていないのだろう。ちなみにこれはさっさと手を出して欲しくて私の切り札の一つ。
不祥事だらけだからね、この王城内は。
「ねぇアリア。ちなみに配分はどの位?というかいつの間に調べたの?」
「武器庫は本物の魔剣が5本しかないという悲惨さ。魔導具は半数が偽物だね。調べたのは宝物庫の一件が気になって勝手に忍び込んで調べさせてもらったよ。まぁ犯人は考えるまでもなく管理者だろうね」
「でたらめを言うな!お前みたいな下賤な輩が本物と偽物の区別が付くはずがなかろう!」
あちらに見えます立派な鎧とマントを付けている方が容疑者の一、騎士団総長であります。うん、無いわぁ。どう見てもコネと金の力でそこまで上り詰めたのが分かりますよ。
他の騎士団の団長たちの方が強いね。それでその隣にいるローブを着こんだ豚が魔導師団総長だね。こっちは脂汗を大量に浮かべながら慌てている。こいつに関しては本当に魔術が撃てるのかと思うほどに致命的。
両方に関することだけど、見ていて不快。
「嘘か真実かは後で姫様達に調べて貰えば一発で分かるね。さてそうなるとお前達の処遇は一体どうなるか」
ま、処刑だろうね。何処に売ったかまでは分からないけど国の戦力をそれも大規模に損失させたんだから当然だけど。さてそんな状態で戦争状態に突入すればどうなるか、負けます。
しかも相手はそれぞれの得意分野に秀でている大国。幾ら特化戦力を持っていても武器がないんじゃどうにもならないさ。
というか私がこの事を喋ったことに王は驚いていたけど、二人に対する問題の追及がないとかお前もグルかよ。
「オーフィリア、もうこいつらぶっ飛ばしていいかな。悪性の腫瘍だよ、これ」
「本当なら姉様の判断を仰ぎたかったのですが。まさか実際にこの目で見るまで信じられませんでした。アリア、後のことは私達で何とかしますからやってしまって構わないわ」
「ということで許可も貰ったことなんでここにいる方々、近衛兵も含めて捕縛するよ」
「馬鹿が、我々が召喚者を相手に罠を張っていないと思っていたか!」
豚の魔術師が声を張り上げると私達の足元を大規模な魔術陣が展開されていた。うわぁ、これが罠なんだ油断したなぁ。
知っていたけど。身体が動かないよ、魔力が上手く練れないよ。
私が頑張って焦った表情を作ると周りの奴らの優越に浸ったような顔が凄いムカつく。しかし何人かはまともな人がいるかと思ったら全員敵でしたか。徹底しているねぇ。
「捕縛の陣だ。私が精緻に刻んだ陣であるのだからお前達ではどう頑張っても動くことすら出来ないだろう。ふふっ、この間に隷属の首輪を掛ければ貴様らは我々の傀儡よ。まずは生意気な貴様を凌辱して身体の髄まで我々を愚弄したことを後悔させてくれるわ!」
「ならば召喚者も同じ目に合せて我々に逆らえぬようにしようか。それに姫様も巻き込めばそういった趣向が好きな者達から金を貪り取れるだろう」
優位に立ったら途端に口が良く回るね、魔術師総長と騎士団総長は。それと私達の我慢も限界を突破した。確かに手を出されたらと考えていたけど正直今の台詞だけでブチ切れた。
それはオーフィリアもカスミも同じ。どこまでも冷たい目で見据えているから心底軽蔑していることだろう。
「黙れクソ共が。耳障りだ」
正当防衛が成立したのだからもう遠慮はいらない。私の言葉と共に蹂躙は始まる。
本当なら一話で王様をボコボコにするつもりだったのですが、予想外に長くなったために分けます。
台詞を書けば書くほど予想以上に長くなるのは何故なんでしょう。
しかし、冷房の無いこの部屋は暑い!




