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17.転移者と漂流者

17.『転移者と漂流者』


寮の面々は困惑していた。

夜の歓談の時間。各々が今日何をしていたのか、それについてどう思うかの意見交換。

それによって欠点が見え、教え合い、それぞれで創意工夫することで実力を上げる。

そんないつものことをしている時にそれは現れた。


「えっ?」


最初に異変に気付いたのは私。違和感を感じ取って確認してみれば黒い穴があった。

空中にぽっかりと空いた穴。でも魔力も何も感じない。ただ違和感があるだけ。

それは異常。魔法や魔術的な現象ならば必ず魔力感知が動き、解明する。

それが一切働かないとなると目の前の現象は一体何が動力となって発生しているのか。


「何あれ?」


私の視線が釘付けとなっていることで他の面々も異常事態に気付いた。

ただ私みたいな疑問ではなく、気味悪い現象程度にしか考えていないだろう。

実際、黒い穴は発生してから動くわけでもないし広がるわけでもないのだから対応に困る。

それぞれですぐに動ける体勢を取ってはいるが、動けない。


「何か出てきた?」


最初、黒い穴から黒い水でも流れてきたのかと思った。でもそれは少ししてから違うと気づいた。

最初に出てきたのは黒い髪の毛だったのだ。その後に頭が出てきたから気づいた。

つまり黒い穴からは人間が出てきているという事。ズルズルとゆっくりと頭から上半身。

そこまで出てきてから気づいた。この人間は生きているのかと。

死人のように全く力が入っておらず、意識があるようにも思えない。または人間ではない何かか。

下半身をぺっと吐き出すように出した後、黒い穴は無くなっていた。

前兆も何もなく、気づいたら消えていた。気味が悪い。


「ねぇ、これって人間かな」


穴から吐き出された人物。姿は確かに人間の女性で恰好は何処かの学校の制服だろうか。

線は細く、黒い髪を肩位で切り揃え、顔も悪くはない。顔色は悪いけど。

ただ出現の第一印象が最悪なので、容易に近づけないでいる。

そこで私はあることを思い出した。過去に事例が存在しているこの世界の不思議。


「もしかして漂流者かな」


私の言葉に周りは全く知らないのか疑問符を浮かべている感じ。私だって初めて見るけどね。

ただそう考えれば辻褄は合う。原因の解明には全く役に立たないけど。


「漂流者というのは別世界からこの世界に流れ落ちてきた者のこと。記憶が抜け落ちていたり、情緒不安定だったり、変な知識を持っていたりするの。

今回のケースがどれに該当しているのかは分からないけど、共通しているのは別世界で死んだという事。

つまり輪廻転生のシステムから何らかの理由で落とされ、この世界に迷い込んだといったところかな。

あとは任意の転移者に巻き込まれてこちらに迷い込んだというケースもある」


最後の私の言葉にオーフィリアが目を見開いて驚きを露わにしている。あれで通じるのだから流石は国を支える姫というところかな。

事実かそうでないのかはさておき、確認はしておかないといけない事案だからね。

全く今の平和な世の中に争いの火種を生むような真似はしてほしくはなかったんだけど。


「私は急用ができましたので王城へ行ってきます。アリアは学園長に報告をお願いします」


「了解。ミーシャさん、この子を私の部屋で休ませてくれませんか」


「承りました」


さてリジェネになんて説明しようかな。偶然こちらに流れ落ちてきたのなら説明も楽なんだけど、巻き込まれてこちらに落ちてきたのなら各国の対応が取られる事態に陥る。

そこは事実確認が終わらない限り分からないことだけど。正直そっちの事態は面倒臭い。

何よりこの国が蚊帳の外に置かれている事態にもなっていれば更にややこしくなる。


「リジェネ、大変なことが起こったから報告にきたよ」


「そんな気の抜ける声で大変だと言われても緊張感が感じられないのだが、構わず入れ」


リジェネの私室。リーネさんが幾ら毎日掃除をしているといっても入るのに戸惑う。

あの惨状を毎日見ていた私ですらこの反応、初見の人達はただ絶句することしかできないはず。

ゴミ山でドアが開かなかったこともあったからね。


「流石に掃除してから数時間後位だとそこまで散らかっていないね」


「明日の朝になると散らかっているのが不思議だがな」


夜の晩酌だろうお酒を飲みつつ返事を返してくるけど、その周りが散らかりだしていることについて何も言わない。

本当に整理整頓とか掃除とかの言葉を知らない人だ。もう慣れたけど。


「それで報告というのは?」


「前に二人で調べた漂流者が現れた。それに関連してシーフィリアが王城へ走った」


「つまり周辺国への対応か。なら勇者召喚を行った馬鹿な国があるかもしれないということだな」


「過去の資料で勇者召喚を行うと漂流者も結構な数が流れ落ちてくると分かっているからね」


「だが気になるのが何故この時期なのかということだな。魔物の被害が頻発しているわけでもないだろう」


「もしくは戦争利用のためかな。悪魔に支配された国を救え、そのために勇者は召喚に応じてくれたとか」


「そう考えると標的はこの国になる可能性が高いな。何せ連絡がないのだから」


異世界から呼び寄せるのだから周辺国に通知を出して大々的に告知するのが当たり前。それがこの国だけに連絡をしなかったのかは分からないけど、そうであれば由々しき事態。

それに周辺国といっても小国には召喚を行うだけの力がない。となればこの国に匹敵する大国が行ったことになる。

問題となるのがこの国と大国の二国とは仲が悪いのだ。一方的に二国が嫌っているともいえる。


「本当にこの国の王様は代々くだらないことをやっていたよね」


「全くだな。巻き込まれる民衆にとっては堪ったものじゃないだろう。ただここ何代かはまともだがな」


力があれば戦争をする、力が無ければ力を作ろうと暗躍する。遥か昔からこの国の王は破滅へと突き進む。

何かに呪われているのかと思ってしまうほど。今の王はまともだし、その下にはあの三姫がいるのだから暴走することはないだろう。

ただ今度は周りが暴走している可能性があるけど。


「私達が可能性を考えても仕方ない。結局は連絡を待たない限り事実は分からないのだから」


「そうだけどね。あとは漂流者の扱いをどうするかだね」


「過去の記録では一般人扱いだな。そこも国側でどう対応するかだな」


「結局私達ができることなんて無いんだね」


学園長と冒険者。この肩書ではとてもではないが国相手に発言することは許されない。

確かに姫達とは友好関係を築いたといってもそれだけなのだ。国が決めたことに対しては無力。

武力行使すれば言うことを聞かせることが出来るかもしれない。ただそれは侵略行為。

行った後にはそれ相応の報いを受けることになる。


「もしかしたら自国防衛のために召喚したのかもしれない。あるいは漂流者自体が巻き込まれてではなく偶然流れ落ちた可能性だってある」


「全ては可能性の話か。なら今ここでグダグダと意見していても意味ないね」


「報告自体はありがたい。後手に回るのだけは勘弁してほしいからな」


「そうね、また何か分かったら来るよ。お酒もほどほどにね」


酒を飲みつつ、リジェネは苦笑いを浮かべるだけ。これからの最悪の事態を想像して憂鬱になっていることだろう。

私も部屋を出て寮へと歩きながら今後のことを考える。

仮に戦争になればどうなるか。私のいる大国は何かに突出した技術はなく、高ランクの冒険者を保有しているだけ。

冒険者を戦争に駆り出すことはできるが強制ではないため、数が揃うとも思えない。報酬の額だって相当な金額となるだろう。

仮に二大国、魔大国アルディア、武大国カサレアならどうか。

魔導具保有数、魔術の先進国たるアルディアなら勇者召喚という技術を保有していても納得できる。

まともに戦ったところで魔術の大火力で圧倒されるのは目に見えている。勝つためには撃たれる前に討つ必要がある。

主に奇襲、夜襲など卑怯な手を使わないといけない。確かにこの国にも魔導具はあるが、長期戦となれば数が心許ない。

宝物庫にある魔法具も中身の解明が出来ていないのであれば宝の持ち腐れだ。

なら武大国カサレアならどうか。確かに正面から挑むことはできるが、兵士の練度が違うだろう。

カサレアには武術の道場が数多くあると聞いている。兵士達はそういった道場へ派遣され腕を磨いている。

逆にこちらは一般公募で集まった兵士。教えているのも王国の兵なのだから技術からして違いすぎる。

どちらと戦うにせよ、勝利することは難しい。更に勇者まで加わるのであれば無理かもしれない。


「これが一般的な考え方だけど、どうしてこの国には一芸に秀でた者が集まるんだろうね」


一般的な兵士の質でいうのであれば確かに負けている。だがそれを支える将の質でいえば負けていないどころか上回っているかもしれない。

第一騎士団の雷槍、第二騎士団の豪剣、第一姫の魔術、第二姫の剣術と魔法剣、リジェネの混合魔術、そしてなりふり構わなくなった私の存在。

あとは協力的な高ランク冒険者でも揃えば単騎撃破で司令官を潰して回ればいけないこともないと考えている。

それでも勇者をどうやって撃破するかが問題になる。

前世で私は勇者と会ったことはない。保有していた戦力が多かったことであの当時に勇者召喚は行われなかった。

ただ過去の資料や、今の資料からいって戦力としては莫大な価値があるのは知っている。

持っている力は召喚される度に違っているが、精霊術を行使するもの、巨大な光の剣を操るもの、極大魔術を難なく扱う者。

皆が規格外の力を有しているのは間違いない。正直それに対抗できるだけの個人はこちらに私以外にいない。

シリウスの教えが全て終わっていれば第二姫でも対抗できるかもしれないが、時間が足りなすぎる。


「人と人との戦争か。もしこれが起これば他種族だって黙っていないと思うのに」


三大国は三角のような位置取りで大陸に存在している。それを囲むように四種族が各王国を監視している。

それは度重なる戦争によって他種族へも被害が飛び火しているから。各種族たちも今回の勇者召喚については思うところがあるだろう。

ただこれも戦争が起こればという仮定の話。幾ら考えたところでまだ現実になっていないのだから無駄ともいえる。


「戦争が起こる前に墓参りも兼ねて他種族を見て来ようかな。リジェネには悪いけど学園は自主退学ということで」


最悪が起こる前に行動しないと全てが手遅れになってしまう。そんな不安が胸の中にある。

戦争に対する不安じゃない。もっと何か異質な存在がある気がしてならないのだ。

それは前世でも感じたことのある不安。


「まさかね……」


三千年前と同じような戦いが起こる。それも内部がガタガタな今の状態で。考えるだけでもどれだけの被害が出るのか分からない。


「そうならないように祈るしかないか」


あの地獄のような戦いが再び起きないことを、祈る以外に今は術がない。


段々と脈略が無くなってきた気がする。

何処に向かっていくんだろう、この作品は。

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