16.外部実技初日
16.『外部実技初日』
王都郊外の森、そこには魔物が住んでいて定期的に冒険者が間引きしながら増殖を防いでいる。
私も最近はこの仕事しかしていない。遠出が出来ないから仕方ないとしかいえない。
今は今年入ってきた一年生を引率して森にやってきて人数を限定して戦わせている。
「予想はしていたけど暇だね」
「仕方ないさ。魔物の誘導さえ終われば後は生徒達の出番だから」
やっていることは簡単。決められた場所に魔物を連れてくればいいだけ。
本来は一撃を与えて気を引いたら指定場所まで誘導してくるのだが私のやり方は違う。
「ここまで蹴り飛ばしながら連れてきたのはアリアが初めてよ」
「だって面倒臭かったから」
私の姿を見た瞬間、逃げ出そうとしたんだから仕方ないじゃない。
あの状態じゃ一撃入れたところで逃げられるのが目に見えている。
どうやら暇潰しで仕事していたのが裏目に出ているようだね。止めないけど。
「というかあんな腰が引けている状態で戦って大丈夫なの?」
「誰だって最初はあんなものよ。本当に危ないなかったら私が救援に入るけど、あの状態の魔物なら心配ないでしょ」
ちょっと蹴りが強かったかな。動きが悪いから慣れていない生徒達にはうってつけといえる状態。
次は押し飛ばすくらいで蹴っていこう。釣るのはどうにも好きになれないから。
あっ、前衛が吹っ飛ばされている。盾で防いでいるから大丈夫だろうけど前線が崩壊したらどうなるか。
「救護必要だね」
魔物の上空に展開していた剣を降下させて生徒に危害を加えようとした魔物の右腕を切り飛ばす。
あくまでとどめは刺さない。それじゃ授業の意味がないからね。
「それにしてもアリアの能力は便利よね」
「便利なのは否定しないけど、思考をそっちに割かないといけないから頭が疲れるの」
別に剣が自動的に動いているわけではない。私がこう動けと指示を出さないと全く動かない。
動かない分には盾として使えるけど、やっぱり攻撃としても扱わないと意味がない。
数を出せばその分だけ思考を割かないといけないから自衛用も兼ねると二桁の数は厳しい。
別に魔法で自動行動を付けることは出来るんだけどね。
「それで先生。魔物が倒されたんだけどこれからどうするの?」
「時間的にはまだだから、また釣ってくるのよ」
「はいはい」
さっきは熊を釣ったから今度は別のを釣ろう。というか一年生達を見ると大分疲れているね。
初の実戦だから精神的にも来るものがあるだろう。
慣れている生徒もいるだろうけど、周りに足を引っ張られているのか動きが悪い。
どちらにせよ、あと一回やれば限界を迎えるだろう。
「というか先生は違和感に気づいている?」
「違和感どころでは無くなっている気がする」
足裏に伝わる振動。それは私が熊を釣ってから僅かに感じられるほど微弱なものだったはず。
なのに今は感じない方がおかしいほどの強さになっている。それと音も。
何かがこちらに猛然と近づいてきているのは分かっているけど、途中で止まるだろうと高を括っていた。
どうやら真っ直ぐにこちらに向かってきているみたい。
「行動から察するに、ビッグボアかな」
「木々を薙ぎ倒しながら向かってくるとなるとそれ以外にないだろうが、何故この近辺に?」
ここは森の入り口近く。ビッグボアという体格が大きい猪は森の奥に生息している。
それが入り口に向かって走ってくるのは何かしらの異常事態が発生していると考えられる。
狙いが私達というのもおかしいし、奥に天敵でも出たのだろう。
「生徒達の避難は必要か?」
「一か所に集めてくれるだけでいいよ。面白いの見れるから」
ビッグボアは通常の猪を3倍ほど大きさを誇る。あと特徴的なのは眼前に立派な牙を生やしているくらいだろう。
あの突進力と牙の威力は大木など余裕で吹き飛ばし、人間となれば四肢がもげる程度では済まない威力がある。
でもその突進力を利用すると大変珍しい光景が拝めるんだよね。
「大地構築」
おおよそこの辺りを通るであろう場所に地面を操作して上り坂を構築する。手順は以上。
もちろん上った先に道なんてない。崖を形成しているからあとは落ちるのみ、普通ならね。
周りの生徒達は何をやっているのだろうと不思議がっているが、ビッグボアのことを知っている先生は納得している。
「はい、まずは一匹目」
木々を薙ぎ倒しながらビッグボアが上り坂を駆け上っていく。
ビッグボアの特徴として何かにぶつかるまで突進を止めないのだ。だから池に落ちたり、崖下に落ちるなど日常茶飯事。
それが今の光景を創り出している。猪が空を舞うという珍事を。
通常の倒し方は突進を躱して脇に刃を突き立てるなど、真正面からは絶対に戦ってはいけない。
牙もそうだが、頭部も無駄に固いから。逆にそれ以外の部分は比較的脆いのも周知の事実。
「何回見ても笑えてくるね」
空を駆ける猪。でも次に起こるのは盛大な激突音と骨の折れる鈍い音。
体格の割にビッグボアの足は細い。自重を支えながら猛然と走れるのに意外と衝撃に弱いのだ。
それによって飛んだあとの着地はビッグボアにとって致命的なダメージを受けることになる。
自重を支えきれずに四肢はあらぬ方向に曲がって立ち上がることすら出来ない。
あとは捕食者によって狩られるのを待つだけの状態。
「本当に間抜けだよねぇ」
「アリア以外にこの方法を取った奴はいないけど、えげつない」
まな板の上の鯉状態。あとは煮るなり焼くなり切り刻むなり好きなように出来る。
折角だからこれを授業に取り入れよう。あくまでも魔物を切ることに慣れるさせるために。
後続も飛んでくれればの話だけど。
「アリア、一匹抜けた」
「了解!」
二匹ほど追加で飛んでくれたが、一匹だけ進行方向がずれていた。
適当に設置した坂だから仕方ないんだけどね。取り敢えず被害が出る前に仕留めますか。
剣を魔法で構築して上空からビッグボアを貫く。身体の中心部に突き刺さり、ビッグボアの勢いで後ろ側だけ割けるように真っ二つ。
自分でやっておいてなんだけどグロイね。
「生徒達、その猪たちはもう襲って来ないから好きにしていいよ」
「あとで食うから教えた血抜きの方法を試しておくように」
私、先生と続けて声を掛けると今まで怖がっていた生徒達が少しずつ転がっている猪に近づいていく。
言葉の通り、猪は転がることしか出来ないのだ。足が折れているからね。
さてここからは冒険者としてのお仕事。何で奥に生息しているビッグボアがこんな入り口に出没したのか。
天敵といわれるので該当するのであれば上空を飛べるもの。
空を飛ぶ敵に対してビッグボアは何も出来ないし、一方的に狩られるだけの存在。
だが飛行できる大型の魔獣がこの近辺に現れたという報告も上がっていない。
「最近になって越してきた感じかな」
「気軽に言っているが飛行できる大型魔獣となると結構な騒ぎになるぞ」
「大型じゃなくて中型が濃厚じゃないかな。幾らなんでも大型が目撃されていないというのはおかしいから」
「確かに。となると何がここに現れたかが問題か」
「確認するまでもなくあれだね」
先生にも分かるように飛んできたであろうものを指さす。
釣られてそれを確認した先生の顔が引き攣っているのが分かる。まぁそんな相手だ。
こんな入り口の、ましてやこの森には現れないはずの魔獣が出てきたんだからね。
「何でグリフォンが」
「追っていた獲物を取りに来たんじゃないかな。はーい、生徒達一旦戻って。戻らないと襲われるよー」
猪に群がっていた生徒達に声を掛けるとすぐに集まりだす。
先程の一件で警戒心が高まっているのだろう。転びそうに走るのはいただけないが。
さて問題のグリフォンは私達の上を旋回していて近寄って来ない。警戒しているのが分かる。
なら降りてきてもらおう。もちろん暴力ではなく、知的に。
「おーい、獲物を取りに来てもいいよー」
先生と生徒達が転びそうになった。うん、それが普通の反応だろうね。
魔物に声を掛けるなんて真似、普通はしないだろうけど私にとっては当たり前なのだ。
魔物の全てが人に危害を加えるのではないのだから。
現にグリフォンは警戒しつつも解体されかけていた猪の近くに降り立っている。
「グリフォンって賢いからこちらの意思はちゃんと伝わるよ」
「いや、だが魔物だぞ」
「私は竜とも会話したことあるよ」
先生が愕然としている。もちろん前世での話だけど、私にとっては魔物と生物の境目が分からない。
人を襲うのが魔物だとしたら、狼などの獣はどうなのだろうか。以前からそれが疑問だった。
かといって魔術などを扱う魔物だっているのだから、人だってその範疇に入るのではないか。
これは前世でも議論に上っていたが結局は謎のまま。共生できるかもしれないが、出来ない魔物だっている。
結局は相互の理解次第となっている。
「あんまりこっち側に来ると人に襲われるかもしれないから気を付けた方がいいよ」
『キュイ!!』
理解しているのか分からないけど、一声鳴くとグリフォンは一頭を足で掴むとそのまま森の奥へと飛んでいった。
その内討伐依頼が出るかもしれないけど私は受けるつもりはない。
恐らくグリフォンも今回の一件で危機感を感じ取るかもしれない。
なら巣に近づく前にいなくなっている可能性が高い。つまり徒労に終わる可能性があるのだ。
そんなのに付き合う気もないし、声を掛けておいて私が狩りに行くのもおかしい。
「さて危険もなくなったし、どうしようか」
「そんな気軽に聞くアリアに驚きよ。取り敢えず実戦は終わりにしよう。それどころではないようだし」
「襲われなかっただけ良しとしようよ。グリフォンの風を受けていたらただじゃすまなかったんだから」
「そうね。それじゃ撤収準備!」
先生の掛け声でも生徒達は中々動こうとしなかった。というか何人かは腰を抜かしているみたい。
何も知らない人達から見ればグリフォンと遭遇したら誰かを囮にして逃げる事位しか出来ないほどの存在だからね。
確かに見境なしに襲ってくるグリフォンはいるが、大体は知的で逆にグリフォンの方から近寄ってくるのは稀である。
過去には騎乗して一緒に戦っていたほどにグリフォンとは賢いのだ。
「それが今だとこの扱いか」
「んっ?アリア、何か言ったか?」
「何も。それより残ったビッグボアは持ち帰ろうね。焼肉パーティーというのも乙だし」
「酒や他の持ち物込みでアリア達の寮でやれないか?」
「寮長が許可を出したらね。その時は今回参加した生徒達だけご招待ということで」
私の言葉に目に見えて生徒達の動きが良くなった。グリフォンの来訪で中途半端に実戦が終わってしまったことに対するお土産みたいなものだったんだけど。
あとは寮の面子が学園での有名人みたいなものだからそっちにも期待しているのかな。
まだ入ったばかりの新入生にとっては憧れの対象だからね。私はひっそりと食べさせてもらおう。
それにしても魔獣とは忌避して狩るだけの存在だという認識は何とかならないのかな。
友好を結べる魔獣だっているのに。そういった理解がどこで失われてしまったのか、探るのもいいかな。
連日更新は無理ですがなるべく早めの更新を目指したいです。
あとは他の作品も書きたいと変な欲求が生まれてきました。




