13.冒険者対生徒
13.『冒険者対生徒』
学園生活も2年目を終え、3回目の始業式。入学式は私達生徒には関係なく出席する必要はなかった。
ちなみに2年目からの選択科目は冒険者を選んだ。今更だけどね。
ある程度力を抜いて授業に当たっているから変に目立つこともなかったはず。
先生も私の1年の頃の担任が冒険者の担当となっているから事情も分かっている。
その事情を知っているのに面白そうに活用しようとしているのが目の前にいるが。
「何でそんな目立つことを私がやらないといけないの?」
「いや、お前の実力をそろそろ公表しようかと」
「だからって生徒達の目の前で披露とか何を考えているのよ」
始業式は学園長挨拶と生徒会長の訓示、ホームルームで終わりなのが定番。
だけど今回は午後から、模擬戦闘を披露することとなったらしい。
冒険者ギルドに依頼を出して実力者を雇ったというのは今聞いたが、何故私も出ないといけない。
「よく考えてみろ。Aランクと生徒が模擬戦をしてまともな披露となるか」
「下手したら秒殺だね」
まだ雛である生徒にAランクをぶつけるのもどうかと思うけど。結果は想像がつく。
生徒側の惨敗というのが大方の予想であり、どう状況が転んでも変わらない。
それだと興醒めだし、実力差から生徒達のやる気を奪ってしまうことにもなり兼ねない。
「それに今回は本支部長、第1姫、第2姫やお偉い方が多数出席する。そんな中で無様な戦いは見せられないだろ」
「世知辛い世の中だね」
この学園は色んな所から出資してもらって成り立っている。国、ギルド、商業から。
その出資が無ければこの学園は運営することすらできない。
今回の戦いで生徒達が惨敗し、それで終わりというわけにはいかない理由がこれである。
だから私が戦いを披露することでそういった出資者達を納得させないといけないのだ。
「お前に断られると私も困るんだが。学園長として、協力者として」
「分かったよ、出ればいいんでしょ」
「ちなみにアリアちゃんは冒険者側として出てもらうよ。生徒達と戦った後にAランクとの実戦という流れ」
「生徒を相手にするのはいいけど、その冒険者は誰?」
正直それほどの実力がないと私も手を抜かざる負えない。手加減は疲れるから嫌なんだけど。
鬱憤も溜まるからね。エリスとの訓練でも全力は出しているけど、魔力は一切使っていない。
だからこの2年間、学園でのストレスはかなり溜まっている。
「通称、炎舞と呼ばれている者だ。相手にとって不足はないだろ」
その笑みが憎たらしい。また面倒な相手を呼んだものね。
私とも面識があるし、戦い方も分かっている。だから言える、かなり厄介な相手だと。
勝てるか勝てないかで言えば分らない。実戦形式なら尚更。
「気軽に行ってこい。ただの祭りだと思えばいいだろ」
「私はアリアちゃんの戦う姿を初めてみるから楽しみよ」
そういえばリーネさんや支部長の前で戦ったことなんてなかったね。
護身用に渡した魔法具も役立っていたから私の出る幕なんてなかった。
それじゃやる気を出して頑張りますか。
「それでは行こうか。そろそろいい時間だろう」
私の準備なんて時間掛からないからね。倉庫から必要な装備一式を取り出して着替えるだけ。
黒のコート、滑り止め用の革製の手袋、腰に双剣、足に投擲用の短剣5本を刺したものを巻く。
あとは適宜、倉庫から取り出したり仕舞ったりすれば大丈夫。
「制服姿は可愛いと思っていたけど、冒険者の格好だと凛々しく見えるね」
気に入っている装備を評価してもらえると嬉しいね。全部魔法具だというのがバレた時に怖いけど。
でも見た目からだと分からないだろう。知っているのはシリウスだけのはずだし。
あとは取り留めのない話をしながら会場である練武場へ3人で向かう。
「ここで別れるぞ。私は司会もしないといけないからな」
「分かった。私は入り口で待機していればいいのよね?」
「そうだ。実戦形式だから生徒達が入った瞬間に開始だ。それは生徒達にも伝えている」
強襲にはならないか。そうなれば対応次第で秒殺という最悪な結末は回避できるかな。
あとは相方次第か。彼女なら面白がって最初は手を抜くと思うから大丈夫なはず。
「ひっさっしぶり~。元気してた?」
「えぇ、変わりなく。リンこそ自然破壊はしていないよね」
「最近はしてない。そこまでの大物とも出会っていないから大丈夫」
以前に組んだとき高威力の火炎で森を焼き払ったことがあるから心配していたんだけど。
あの時の事後処理は大変だったな。色んなところに謝ったりお詫びの品を渡したりで。
生徒相手にそこまではやらないと思うから大丈夫だと思いたい。
「おっ、生徒達が入ったね。数は5、私が3人相手にしていいかな」
「構わない。なら私は2人を相手にする」
入ってきた生徒を確認して予定を決める。2人相手だとしても負けはしない。それはリンも同じ。
さて、どこまで成長したのか確かめさせてもらうよ。同じ寮のよしみで手加減はしない。
「それじゃ行くよ!」
「あいさ!」
私の合図と同時に2人は入り口から駆け出す。身体強化の影響でその速度は速く、あっという間に生徒を捉える。
前衛二人の男をほぼ同時に殴って吹っ飛ばす。うん、今の対応は駄目だね。減点っと。
「武器で防ぐのはいいけど、そういう時は刃を当てないと。こっちは素手なんだから」
素手で刃を殴ったら流石に無事とはいえない。手を使えなくなるから戦闘力が落ちる。
特にリンは拳法家だから手を使えなくなるのはかなりの痛手になる。
まぁいきなり相手を殺す覚悟でやりあえといわれてすぐに実践できるはずないけど。
「リーリエ魔術!エリスはアリアへ!2人はさっさと立ち直りなさい!」
動揺することなくオーフィリアが指示を飛ばしている。こうなることは想定内か。
火球が様子見している私達に飛んでくるけど、それは悪手。リンに火系統は通じない。
「生徒としては及第点かな。まだ練りが甘いよ」
リンが手を振るうだけで火球が消える。伊達に炎舞という字名で呼ばれてはいない。
修行の成果でこういったことができると本人はいっていたが、それはありえない。
何かしら特殊な能力を持っているとしか思えないけど、私も解明できていない。
よそ見している場合じゃなかった。エリスが突っ込んできていたんだ。
「訓練の成果、見せてよ」
「渾身の突きを避けておいてよく言う!」
突撃からの突きは直線だから分かり易い。横にずれるだけで避けられるよ。
問題はこの後だけど。突撃の勢いを殺して横薙ぎの一撃を双剣で受け止めて次の出方を伺う。
押すか、引くか。どちらかな。
「おぉぉ!」
押してきた。前の教訓から吹っ飛ばされないように私も踏ん張ろうとしたけど、止めて後退。
風の矢が私の目の前を通り過ぎていく。オーフィリアの援護か。
後退したことで周りを見てみれば、私の方にはエリスとオーフィリア。
リンの方には残りの3人だけど、リンに弄ばれているね。
「エリス、私も前に詰めます!」
剣と魔法の両方を使えるオーフィリアが合流すると面倒だね。先に潰すか。
エリスに直進すると見せ掛けてオーフィリアに向かう。ほぼ直角の移動だからエリスも予想できない。
複数の風の矢で迎撃してくるけど当たりそうなのを双剣で弾いて距離を詰める。
身体強化発動。今までと比べ物にならない加速で相手の意表を付いて距離を無くす。
「貴方、今まで手を抜きすぎですよ」
「それはゴメンとだけ言っておく」
運動エネルギーそのままに胸に掌底を放ってオーフィリアを沈める。
これで私の担当は残り1人。予想通りならエリスが私に向かって迫ってくるだろう。
今まで一緒に訓練をしているからこそ、この予測が外れることはないと思う。
「ブースト!」
やっぱり突っ込んできた。それも身体強化を施して。エリスはまだ長時間の強化を施せない。
まだ訓練してから半年では耐性が中途半端な状態であり、無理に行使し続ければ身体に変調を与える。
だから一時的な強化で『ブースト』と名称した。
「雷を纏え!」
二重駆動!?更に詠唱省略は流石に予想外だよ。訓練で使わなかったのは奥の手の意味か。
でも私も身体強化を切ってはいない。動きについていけないことはないが雷を纏った槍への対応をどうするか。
今までは避け続け、接触することを行わなかった。それは装備に問題があったから。
だが今の装備なら。
「なっ!?」
突き出された穂先を避けて逆に柄を捕まえる。雷の効果は微塵もない。
装備しているのは魔法具。雛鳥程度の魔術など通るはずがない。例外もいるがまだ出会ったこともないけど。
捕まえた柄を引き込み、エリスの体勢を一気に崩して鳩尾に双剣の柄を叩き込む。
これで担当している方の無力化完了。やっぱり2人とも腕を上げていた。もう少ししたら手加減が効かなくなりそうだ。
その前に自身の壁にぶつかるかもしれないが。
「あっちは、やっぱりリンが遊んでいるか」
オーリンとクロードの剣戟、リーリエの魔術をゆらりと柳のように避け続けている。
その顔は笑みを浮かべていて当てられるものなら当ててみろと言わんばかり。
実力をアピールしないといけない生徒側から見ればムキになるが、そうなった所で状況は変わらない。
「それじゃ私も終わらせますか」
途端に動きを止めて、挑発するように右手を招くように動かす。
それに反応したのはオーリン。上段からの一撃でリンを仕留めようとするが、軽く手の甲で弾かれて体勢を崩される。
「いや、あの速度と質量を手の甲で弾くとかないから」
見極めが少しでも狂えば自身の手が切り落とされる。見切りと力、両方を相手より上でないとできない技法。
何より平然とそれを行えるだけの胆力が凄い。
隙だらけのオーリンの顎を拳で貫き、無効化。続けざまに隙を伺っていたクロードへ一気に迫り、反応する前に胴を蹴り抜く。
これで二人目。また駆け出すと速度に全くついて来れていないリーリエの首筋を叩き、意識を絶つ。
「まさに秒殺」
「いやぁ若いっていいね。あの子達は伸びるよ」
こちらに合流したリンが嬉しそうに喋るが、実力差をありありと見せつけられた生徒達はどうなのだろう。
悔しさをバネとして伸びるか、失意のまま諦めるのか。
それは本人達の勝手だから私もリンも全く考えていない。止めるのならそれまでの覚悟だったという事だけ。
「素晴らしい戦いをありがとう。炎舞・リン、千刃・アリア。君達の戦いが生徒達の活力となるのを祈る」
リジェネの言葉で私にも通り名が付いていること分かってしまった。というか知りたくなかった。
そういったのは恥ずかしい。何がっていう理由はないけど、生理的に受け付けないのだ。
「確かに生徒達は惨敗した。だが内容はそれほど酷かっただろうか。二重駆動などの面白い技巧もあったが、それよりも彼らの動きは本校の代表として恥ずかしいものか。
冒険者組の動きがあまりに素晴らしく見えるために霞んでしまっているのは分かる。だがそれでも生徒達を正当に評価してほしい」
生徒としてあの動き以上のことを在校生達が出来るかといえば難しいだろう。何より寮で一緒に生活しているから連携も悪くなかった。
単純に相手が悪すぎたんだ。それをリジェネは言葉にして集まった一同に説明している。
Bランク位の冒険者が同じ条件で戦っていたら下手したら勝っていたかもしれない。それだけの実力を彼らは持っている。
「素晴らしき戦いを見せてくれた生徒達に盛大な拍手を!」
本人達、まだ気絶しているけどね。それに向かって拍手を送るのは送られる側も送っている側もどう思うだろう。
釈然とはしないだろうね。さて次は私が頑張らないといけない番か。面倒だなぁ。
「アリアと戦えるなんて私は幸せ者だなぁ」
「こっちとしては願い下げなんですけど」
「アリアと戦いたい人は結構多いんだよ。半分以上は実力に不満を持っている人達だけど」
「それは分かるから全部断っているの。一々相手にしていたらキリがない」
あまりに頭にくることを言ってきた奴は瞬殺してきたけど。私だって怒ってキレること位ある。
私をどっかの聖人君子だと思うなよ、クソ野郎ども。もちろん本当に殺してはいない、半殺し程度に済ませている。
リンに関していえばただのバトルジャンキーだから強い者と戦いだけだろう。
「それではこの後、冒険者同士の戦いを行うので5分ほど待ってくれ」
お偉い方もいるというのに全く口調が分からないのもリジェネの特徴だよね。本人は気を遣うのが面倒だと言っているけど。
でその5分の間に気絶している面々を教師達が担いで連れていく。どうせやる場所は変わらないから私もリンも特に何もしない。
ただいつ戦いが始まってもいいように警戒だけはしている。
本当に5分後なのか、開始が早まるのか分からないのだから当たり前の心構えだ。
さて、全力で挑みますか。
明日には話数を直します。
あとは暇を見て文章を直していこうかと。




