11.虚実の真実
11.『虚実の真実』
第2姫に連れて来られたのは第1姫の私室。無駄に広いな、ここまで広いと逆に落ち着かないんだけど。
中央にテーブルと椅子を用意している様子からただ話すだけなのかと考えてしまう。
でもテーブルの上には質素な箱が置かれていた。あれが相談事かな。
「お招き頂きありがとうございます。それでどういったご用でしょうか?」
「話し方は普通で構いません。私は貴方と友人として接したいと考えていますので」
気を遣わないのはありがたい。堅苦しいのは私も苦手だから。
でも公共の場なら敬語を使おう。変に勘ぐる人が絶対にいると思うから。
特に後ろにいる第3姫なんて最もたる人物だろう。
「それで私に話があるのはその箱?」
「えぇ、そうです。その前にまずはお茶の準備をしましょう」
手を鳴らすだけで控えていた侍女がティーセットを用意して各々にお茶を入れていく。
いい香り、やっぱり素材は最高級品かな。入れ方も丁寧で不味くなる要素がない。
「美味しい。でもただ甘えているだけのも悪いので」
「そうですね。それでは依頼なのですがこの箱を開けては貰えないでしょうか」
箱を手に取って観察してみればすぐに開けられない理由が分かった。開閉口がないのだ。
つまり入れた物を出すことは出来ないし、どうやって中に物を入れたのかも分からない。
材質は金属だが、木箱と変わらないだけ軽いから何かしら術式を施している可能性も高い。
「これは何処から?」
「宝物庫からです。やはり整理していて出てきたものですが、用途が全く分からないのです」
屑と一緒に出てきた箱か。物が出し入れできない箱ほど要らない物はないだろう。
ぐるぐると回しても鍵穴すら無いのだから物理的な方法じゃ無理だね。
となると魔術的要素だけど私に魔術は扱えない。でもそれは姫様も試したことだろう。
それでも開かないから私に頼んできたということだと思うけど。
「一応言っておくけどこれから私がやることは他言無用で」
「心得ています。シーフィリアもオーフィリアもいいですね」
2人が頷くのを確認してから行動を開始する。まずは箱に掛かっている術式を解明していこう。
箱に魔力を纏わせて、流れを確認していく。術式に魔力が満ちて発光させることによって術式が鮮明に現れてくる。
この方法はまだこの時代では解明されていないらしい。魔力は放つだけという常識が駄目にしているのわかるけど。
腐食減衰と開閉用の術式を確認したらさっさと開けますか。
「これは、手記?」
「あっさりと開けましたね。やっぱり貴方に頼んで正解でした」
人を便利道具だと思わないでほしい。ただ魔力で開く方に術式を切り替えただけなのに。
やり方さえ分かれば誰にだって開けられる仕組みなのに。
「それでは失礼して、……古代語ですね。解読には時間が掛かりそうです」
一度文化が壊滅したために当時の文字も失われたものとなっている。私は普通に読めるけど。
それにしてもその手記はどこかで見たことがあるような気がする。
私の記憶にあるということはやっぱり3000年前のものだと思うけど。
『それって、賢者のじゃねーか?』
「あぁ、どうりで見たことがあるわけだ。でも何でこんな箱の中に」
屑の発言に同調してしまったが、思いっきり失言だった。最近隠す気がないのではと自分でも思ってします。
油断大敵。でも第1姫以外は何のことを言っているのかサッパリといった感じだからセーフかな。
さて、それで手記の中身は私も気になる。賢者は国に仕えていたから色々と書き留めている可能性が高い。
「サーフィリア、私が見てもいいかな」
「そうでしたね、貴方は読めるのですね」
十年くらい経っても日常的に使っていた言葉だからそう簡単に忘れることはない。
それで内容だけどざっと目を通せば研究していた成果と、……歴史に関すること。
研究成果はどうでもいい、歴史に関することから目が離せない。これが事実だとしたら。
「何で泣いているの?」
「えっ?」
第3姫に言われるまで私は泣いていることに気づかなかった。それだけ書かれている内容が胸を打つ。
だって馬鹿なことをやっていると思ったから。賢者も英雄達も。
何でこんなことをしたのか分からない。私のことなんか気にしなければよかったのに。
『全部書いているのか?』
「戦争の真実に、その後の戦争について思ったことをそのまま書いている」
この国に伝わっている災厄の魔女に関することを否定するものばかり。歴史の真実をこの手記は有している。
更にその後の戦争が何故起こり、どうやって終戦したのかまで事細かく記されている。
だけどこれを公開していいのだろうか。この国にとって不利益となる内容なのは間違いない。
「サーフィリア、本当に感謝します。私にとってこれほどの宝といえるものに出会ったことがありません。ですが内容の公開については」
「この国にとって害となる内容ですか。それに貴方の秘密についても」
「そうです。この国の過去の罪について書かれているといっても過言ではありません。私の秘密についてはこちらを譲ってもらえれば話しましょう」
私にとってそれだけの価値がこの手記に詰まっている。正直強奪したいほど。
でもこの手記と引き合わせてくれたサーフィリアに手荒い真似はしたくない。そして感謝の為に敬語を使っている。
話し方はまた戻るけどね。
「構いません。私はこの国のこと全てを知りたいと常々思っており、歴史の研究も行っております。その中で歴史と齟齬があるのも分かっています」
「だけどそっちの2人はどうする?」
「私の命に懸けて公言させないと誓います」
そこまでしなくていい思うけど。ただその言葉は2人にとってかなり重大な意味を持っているのだろう。
居住まいを正して私のことを真っ直ぐに見てくる。言葉も頷きもないけど、確かな覚悟を感じる。
家族は大事か、いいこと。
「それじゃ手記の説明をするよ。シリウスは補足をお願い、私じゃ足りない部分が出るかもしれないから」
『分かった。だが次の戦争について語れることは少ないぞ。俺は戦争に入る直前の転写だからな』
そうなのか、そうなると頼りとなるのはこの手記だけとなる。
本当なら次の戦争について詳しく説明を聞きたかったのだけど。
「それでは始めます」
3000年前の歴史、そして私の知りえない次の戦争について始めます。
『魔女が処刑された。王に何度進言しても考えを変えてもらえなかったのが悔やまれる。
彼女が何をした。彼女がいなければ防衛戦で早々に瓦解して魔族との戦争に負けていただろうに。
だが国王は彼女の力を恐れた。いや、彼女の作った魔法具を欲しかったのだろう。
あれだけの力を秘めた魔法具を彼女は安易に使わせなかった。むしろ封印していたように思える。
国王はあれが欲しかったのかもしれない。彼女が死んだ後にすぐに工房を襲ったのだから。
それから国王は近隣諸国を襲うよう指示を出した。臣下の誰の忠告にも耳を貸さず。
むしろそういった臣下を殺していた。私も幽閉される身となった。
英雄達が国を相手に宣戦布告した。それを魔女から教えてもらった遠見の魔法で知った。
私は密かに彼らと連絡を取り合って事情を聞いた。魔女の弔い合戦と。
英雄達は彼女を死なせたことを嘆いていた。戦争の後に近くにいなかったことを後悔していた。
だから有志を募って戦争を起こすと。この国は終わったと私は思った。
それだけ英雄達の力は凄まじく、国が相手をして勝てるとは思わなかったからだ。
初戦で英雄の弓と斧が死んだ。その事実に私は嘆き悲しんだ。
国はこうなることを予測してある兵器を開発していた。魔女の複製を。
人工的に魔女には劣るが力ある人形を創り出していたのだ。ホムンクルスというものを。
姿まで彼女に似せて英雄達と戦わせたのだ。どこまで残酷なんだ、この世界は。
ただそれは火に油を注ぐ行為と同じだった。英雄達の怒りが爆発した。
討ち死にすることを厭わずホムンクルスの研究所を壊滅させた。私も情報を提供した。
こんな腐った国は滅んで当然だと思った。研究所には他にも非人道的な研究があったから。
だが研究所の壊滅で槍、双剣、盾が死んだ。英雄軍の数も一気に減ってしまった。
ホムンクルスはまだ残っている。しかし英雄軍の士気は一向に衰えない。
何処までも彼女を愚弄する国を許すことは出来ない。そしてホムンクルスは全滅した。
大槌、魔弾も死に残ったのは剣だけだが私は幽閉された場所から脱出して合流した。
後は残った王国軍だけだが、このままでは英雄軍の負けは必然。だから特攻する。
剣と2人で王城に乗り込み、せめて国王だけでも討とう。諸悪の根源たる王を。
この手記はここに残す。もし間違った歴史のまま彼女を貶める内容だったのならば正してほしい。
彼女はあの戦争での希望だった。万の軍勢を防ぎ、味方を鼓舞し、敵を討つ。
何故誰も彼女を守らず、死なせたのか。彼女がいればこんな歴史になどなるはずがなかった。
だからこそ彼女のことを知ってほしい。災厄などではなく、希望の魔女だったと』
手記を朗読して私はお茶を飲もうとカップを掴むが手が震えて持ち上げられない。
あの英雄達がこんなことをしているとは思わなかった。
『戦後処理で誰もお前の近くにいなかったのが原因とはいえ、俺達は自分達を責めた。
あの戦争でお前に感謝していない兵はいなかったからな。その恩賞が処刑とかマジでくそったれな内容だ』
「それで貴方達が死んでは元も子もないけど。でも感謝はする。私の為にありがとう」
『好きでやったことだ。ただ賢者がこういった手記を残しているとは思わなかった』
私が教えた遠見の魔法で戦場を把握できた賢者は軍師として有能だったし、何かしら書き留める癖もあった。
だけどそれを公開するのはいつも渋っていたからこういったものは残っていないと私も思っていた。
しかし希望の魔女か。そういう風に思われていたというのが私の心を温かくしてくれる。
「ですが歴史は変わらずに伝わっているということは王を討つことは出来なかったのではないでしょうか」
「いや、王は確実に討ったと思う。剣と賢者が揃ってできないとは思えない」
サーフィリアの言葉を否定する。優秀な軍師と無敗の剣聖が揃ってできないことはないはず。
ただ剣聖が傷を負っていた可能性も否定はできない。だから思うのだ。
「王だけを討つことは出来たけど、臣下全員を粛清するだけの余力はなかったと考えられる」
『正直初手で負けたのが痛かった。あれで完全勝利の可能性が消えたからな』
予想外の戦力であるホムンクルスの存在が英雄軍を一気に削ったのだろう。だから剣聖は後世のことを考えた。
しかし私の姿と能力を真似た存在ね。英雄達の存在も真似ていたら壊滅していた可能性も高い。
どれだけ屑なんだ、あの王様は。
「話についていけなくてすまないが、アリアが災厄の魔女であり、だが災厄ではなく希望だというか」
「ややこしいから魔女でいいよ。確かに私は過去にいた魔女と同じ存在よ。何でこの時代にいるかは私も分からないけど」
「あの、こんなことを私達に話してもよかったの?」
第3姫よ、何を今更。ここまで語って聞いたから殺しますとか言わないよ。そんな外道じゃあるまいし。
それに約束はちゃんと履行してもらう気だしね。
「誰にも喋らないと誓ったじゃない。それで十分よ。何か不都合があるかな?」
「いえ、何もありません。それと今までの非礼を詫びます。私が浅はかでした」
謝れても困るんだけど。でもこれで考え方を変えてくれるのならいいことかな。
人を見かけで判断しては駄目。そのいい例だとしてこれから役立ててくれればいいよ。
あぁ、少し落ち着いてきた。色々と思うことはあるけど今日はもう帰りたい。
「ちょっと体調が悪いので帰ります」
「色々と貴重なお話をありがとうございます。その手記はどうぞお持ち帰りください」
「ありがとう。もし必要になったら言って。その時は持ってくるから」
仮病でも使わないと帰れない雰囲気だったから言ってみたけど、サーフィリアは空気を読んでくれた。
聖剣を優しく一撫でして、私室から退室して逃げるように走る。
落ち着いたといってもまだ感情の整理ができない。だから我慢して走る。
今にも溢れそうな涙を誰にも見せないように、寮ではなく、1人になれる場所へと。
『正直俺はこの話をあいつに話す気はなかった』
「何故ですか?自分の為に仲間達が立ち上がってくれたことは喜ばしいことでは」
『そんな単純な話じゃない。あいつは絶対に自分を責める。そういう奴だから』
自分の為に仲間達が死んだと思うだろうな、あいつは。
あの時に抵抗してでも生きていれば歴史は変わり誰も死ななかったのではないかと。
だが過ぎてしまったものは戻らない。それにあいつも気づくだろう。
だからこそ今日位は誰にも邪魔されずにあいつを1人にさせてほしい。
1人にさせて後悔させて、ちゃんと考えて欲しいと。
それがこの時代でたった一振りの戦友としての願いだ。
閑話にする必要がないと思った。
見切り発車はやっぱり駄目だね。




