【番外編】幼馴染の恋路に巻き込まれた私の受難(と、荒らされたベッド)
私はメリーナ。ルディウスとエミルとは、幼い頃に同じ孤児院の前に捨てられていたらしく、それ以来の幼馴染だ。
そんな誰よりも二人を近くで見守ってきた私は、かなり早い段階で悟っていた。
二人はどう見ても両想いである、と。(……五歳くらいからだっけ? てか紅一点の私に一切目もくれないのは、乙女心としてなんだか納得がいかんのだが)
ルディウスは好意を隠す気すらないし、エミルは無駄に鈍感だし。
「はぁ、ジレジレしやがって……」と思いながら見守る日々を送っていたのだが。
十五歳のある日、関係が一向に進まないことに痺れを切らしたルディウスから、とんでもない提案を受けた。
「お願いメリーナ! 頼むから僕と恋人のフリをしてくれ!」
「……は?」
バカげた提案だと思った。けれど、面倒な男除けにはなるし、長年二人を見てきた姉的立場として一肌脱いでやるか、と軽い気持ちで引き受けてしまったのが運の尽きだったのだ。
それからというもの、エミルの前ではできる限りルディウスと恋人らしく振る舞った。
エミルは見るからに傷ついて顔を伏せているし、ルディウスはそんなエミルを見て呑気に「可愛い……♡」とか悶絶している。バカバカしくて「いい加減ネタバラシしなよ!」と何度もキレかけた。
しかし、ルディウスに「あとちょっとだけ付き合って! なんかもうすぐいける気がするんだ! これでダメなら素直に僕から告白するから!」と拝み倒され、仕方なく頷いてしまった。
——そして、あの潜伏先での『ブスリ』である。
「冗談じゃないわよ……」
冗談めかして言っていた自分が嘘のように、息が絶える瞬間、エミルをどれほど追い詰めてしまっていたかを痛感して猛烈に反省した。ごめんエミル、私たちが愚かだった……。
◇
……はずだったのだが。
目を覚ますと、見覚えのある天井とベッド。姿見を覗き込めば、十五歳のあの頃の姿に戻っていた。
「二人のかわいそうな恋愛ごっこに巻き込まれた私を、神様が哀れんで救ってくれたのかしら?」
なんて悠長なことを考えていたら、ドカンッと無遠慮に部屋のドアが開け放たれる。
「メリーナ!!」
「ちょっと! 仮にも乙女の部屋にノックもなしに入ってんじゃないわよキレるわよ!?」
今にも怒鳴りつけようとしたが、ルディウスの青ざめた必死な表情を見て、ピンと察した。
(あ……察し。コイツも『やり直して』やがるな?)
それからは怒涛の反省会だ。
ルディウスは私を巻き込んだことを土下座勢いで謝ってきたし、私も私でノリノリで乗っかっちゃったのが悪かったから「いいよいいよ、気にしないで」と許した。
「で? 一番かわいそうなのはエミルでしょ。どうすんのよ」
「今度こそ、正攻法で正々堂々とオトす……! メリーナには二度と迷惑はかけない!」
ルディウスは並々ならぬ気迫でそう宣言し、私は今世ではただの微笑ましい傍観者でいようと決め込んだのだった。
それからのルディウスは、凄まじかった。これでもかとエミルに分かりやすい好意を向けまくり、距離を詰めていく。「うんうん、あとは時間の問題ねー」なんて気楽に構えていた、のだが。
ある日私は、悲壮感ただよう表情で教官室から出てくるエミルを目撃してしまう。その手には『遠征部隊の志願書』が握られていた。
「あ、これ、絶対いかんやつだ!!!!」
嫌な予感がして、私はすぐさまルディウスの元へダッシュした。
◇
あとは二人に任せようと部屋で待っていたのだが、戻ってきたルディウスは右頬を派手に赤く腫らしていた。
話を聞けば、エミルもまた『死に戻って』いたらしい。そして前世の記憶を持ったまま、一人で傷つき、自分を責め続けていたのだと。
「……こりゃもう、ルディウス一人に任せておけないわね」
重い罪悪感に潰されかけているエミルを救うため、折を見て私が直接話すことにした。
後日、未だにルディウスを避け続けているエミルの部屋を突撃訪問する。
ドアを開けた私の顔を見るやいなや、エミルは顔面蒼白になり、今にも崩れ落ちそうな絶望的な表情を浮かべた。可哀想に……トラウマになってたのね。
「エミル、謝らないで。謝らなきゃいけないのは私たちの方なんだから」
そう言って、悲壮な顔で震えるエミルをしっかりと許し、ルディウスもまたどれほど後悔し、エミルを愛しているかを切々と伝えた。
エミルはぽろぽろと涙を流しながら深く頷き、「……ありがとう、メリーナ」とお礼を言ってきた。
「ほら! とりあえずルディウスとちゃんと向き合って話し合ってきなさい!」
そう言ってポンッと背中を押した。私の部屋でルディウスを待たせておいたので、二人きりでじっくり話せるようにしてあげたのだ。(我ながらなんて気の利くナイスプレーだろうか)
……だが。
一時間経過。戻ってこない。
二時間経過。音沙汰なし。
三時間経過。さすがに痺れを切らした私は、自分の部屋へと戻った。
扉をそーっと開ける。
「……ッ!!???!?」
そこに広がっていたのは、私のベッドをめちゃくちゃにして抱き合っている二人の姿だった。
「「……あ」」
固まる二人。
エミルは顔を真っ赤にしてパニックになり、ルディウスは気まずそうに、けれどどこか満足げに微笑んでいる。
「……二人とも。今すぐそこに正座しなさい」
「「はい……」」
人の! 乙女の! ベッドで何やってんだバカヤローーーー!!!!
怒号を飛ばし、二人が正座で平謝りするまでたっぷり一時間説教してやった。
……まあでも。
お説教されながらも、時折目を見合わせては嬉しくも幸せそうに照れ笑いを浮かべる二人を見て、胸の奥がじんわりと温かくなったのも事実だ。
(はぁ……まったく。お幸せにね、バカカップル)
二人の絆が本物になったことを祝福しつつ、私はひとつ深いため息をついた。
(……あーあ。私も素敵な恋人、欲しくなっちゃったな)
【完】




