第3話∶ルディウスの独白
僕の親友エミルは、誰よりもカッコよくて美しい。
やわらかく波打つ深緑の髪に、吸い込まれそうな金色の瞳。物静かだが誰にでも優しく、軍事演習の射撃の腕前も学科の成績も、この寄宿学校で頭一つ抜けて一番だ。
そんな彼が僕の「親友」であることは誇らしかったけれど、同時に酷く物足りなかった。
あの誰にでも向けられる優しい金色の瞳が、僕だけに向けばいいのに——と、胸の奥でドロリとした独占欲が渦巻くのだ。
もう一人の親友であるメリーナには、僕のこの禁忌の恋心を明かしていた。
だからあの日、僕はメリーナに「僕と恋人同士のフリをしてほしい」と頼み込んだのだ。
そうすれば、少なからず僕に好意を寄せてくれているエミルが焦って、何か行動を起こしてくれるんじゃないかと期待して。
思惑は見事に当たった。僕たちが恋人になったと聞いた時の、エミルの顔ときたら——。
顔面は蒼白になり、瞳は絶望と悲しみに満ちていた。僕はその表情を見た瞬間、背筋がゾクゾクするような歓喜を覚えてしまったのだ。
協力してくれたメリーナには「あんたのほうが相当病んでるね。そのうちブスッと刺されるかもよ?」と呆れ顔で言われていたけれど。
まさか、本当に刺されるなんて思いもしなかった。
どれだけ恋人らしく振る舞ってもエミルが動かないことに痺れを切らした僕は、戦地の潜伏先で、わざとエミルに見せつけるようにプロポーズしてみせた。メリーナも僕の意図を察して、上手くノってくれた。
だが——次の瞬間、重い音とともにメリーナの胸元が赤く染まり、彼女は声もなく崩れ落ちたのだ。
そこで初めて、僕は自分がやりすぎてしまったのだと悟った。
メリーナは僕の大切な幼馴染で親友だ。そんな彼女を、僕の浅はかな意地悪のせいでエミルに殺させてしまった。
溢れ出る罪悪感とパニックで狂いそうになった僕は、持っていた短剣を自らの腹部に深く突き立てた。
『ごめんな……エミルの気持ち、ずっと知ってた……。でも……もう、終わりにしたいんだ……』
血を吐きながらそう懇願すると、エミルは声を上げて泣きながら、重ねるように僕の胸に剣を突き刺した。
冷たくなりゆく意識の中、エミルが僕の頬に触れ、情念を込めて唇を重ねてくれた感触だけを残して、僕の視界は深い闇へと落ちていったんだ——。
◇
次に目を覚ました時、僕は見覚えのある寄宿学校の一室にいた。
死に戻ったのだと理解するまでに少し時間がかかったが、時を同じくしてやり直していたメリーナを訪ねたところ「……もしかして、あなたも?」と言われたことで確信に変わった。
僕はメリーナに土下座する勢いで謝り倒した。巻き込んで本当にごめん、と。
だけどメリーナは豪快に笑い飛ばして言ったのだ。
「いいわよ、別に。私もあんたの悪趣味なノリに乗ったのが悪かったんだし。……それより一番可哀想なのは、あんたに振り回されて狂わされたエミルでしょ」
エミルまでタイムリープしているのかは分からない。
だけど僕は誓った。二度目(今度)の人生では、あんな回りくどい嫌がらせみたいな真似はせず、正面から正攻法でエミルに愛を伝えると。
メリーナも「うん、絶対その方がいいよ。私も二度も背中から刺されるのは御免だしね(笑)」と笑って応援してくれた。
——なのに。
さっそく朝一番で「食堂に行こう」と部屋を訪ねたら、エミルは顔を青ざめさせて僕の手を激しく振り払い、「関わらないでくれ!」と怯えたように叫んだのだ。
前世でひどい罠にはめて傷つけたから、嫌われちゃったのかな……?
(……でも、逃がさないよエミル。今度こそ僕の『好き』を全部受け取ってもらうんだから)




