⑤ 大切な宝物
回廊から聞こえてくる「リズ様ー、どこですか〜!」という声を聞き、リズは植え込みに必死に隠れるのだった。
(わっ、クロエの声が近づいてくる⋯⋯もっと、奥に隠れなきゃ!)
おしりが丸見えなのは気が付かず、植え込みの奥へと身体を押し込もうとする。その時だった。
――ビリッ
静かな庭園に不吉な音が響き渡る。
「えっ⋯⋯⋯?」
リズは動きを止め植え込みから顔を出した。そして小脇に抱えていたひつじの人形モコちゃんに視線を落とす。枝が引っかかり無惨にも大きく引き裂かれてしまっていた。中からふわふわの綿が見えてしまっている。
お母様から『モコちゃんのお世話してあげてね。そしたら立派なお姉ちゃんよ』と言われ、大切にお世話すると誓ったモコちゃんを⋯⋯。
「も、モコちゃんがっ、ケガしちゃった⋯⋯っ」
いつも元気いっぱいの瞳に大粒の涙かみるみる溜まっていく。
かくれんぼのことなんて、一瞬で吹き飛び、破れてしまったモコちゃんを両手で抱き抱えて、回廊を走り出した。
◇◇◇
一方その頃、ノアはミラへの濃厚な触れ合いを続けていた。
唇を首筋に寄せ真っ赤にするミラの可愛さにもっととさらに触れ合いを強くはじめた、その時窓の向こうに視線を向けると、植え込みに隠れていたリズが顔をあげ、大切にする人形を抱え目には大粒の涙が溢れだし「うわぁぁぁぁん!!」と鳴き声が聞こえてきた。
(あっ⋯⋯来るなあれ)
窓の外の様子を見ていたノアは一瞬で察した。濃厚な触れ合いをピタリと止めミラを隣の席にそっと下ろす。
「え? ノア様?」
急にホールドを解かれ下ろされたミラはきょとんとした顔でノアの顔を見る。
(⋯⋯わぁー、その顔、可愛すぎる⋯⋯できるならもっとしたい⋯⋯けど)
ミラのその顔に苦笑だけ漏らしそんなこと考えていたその時だ、バァァンッ!!と勢いよく扉が開かれた。
ミラは驚き肩を震わせ、扉の方をみた。ノアは察していたので、やはり来たかというような視線で見る。
「おとーしゃま、おかーしゃま⋯⋯う、うぁぁぁぁんっ!!」
現れたのは大粒の涙で顔をぐしゃぐしゃにしたリズが駆け込んできた。両手には無惨にも引き裂かれて綿の見えてしまったモコちゃんが抱き抱えられている。
「リズ?⋯⋯どうしたの?」
「あのね⋯⋯っ⋯⋯モコちゃんがね⋯⋯ヒック⋯⋯モコちゃんが、リズのせいでケガしちゃったの⋯⋯」
泣きじゃくるリズの腕の中にある、破れた人形をみて全てを理解した。昨夜、ミラと約束して大切にお世話すると誓ったばかりだったのに、リズは自分の不手際でモコちゃんを傷つけてしまったのが悔しかったのだ。
「大丈夫よ、お母様が治してあげるから、泣かないで。⋯⋯あら、汚れてもいるじゃない」
植え込みに隠れていたせいか、モコちゃんの毛並みには泥や葉っぱがついてしまっていた。
ミラは無意識に魔法を使おうとするが、隣からのピキッと冷たい心配の色の混ざる視線を感じた。その無言の圧苦笑を漏らしリズの手を優しく取った。
「リズ、浄化魔法を使って綺麗にしてあげるのよ。ゆっくり優しくしてあげるイメージね」
「やさしく? 」
そっと汚れている部分に魔法をかける。
お母様のいう通りに優しくイメージを膨らませると、小さな手からキラキラした温かい光が漏れだした。ミラ譲りの魔法とノア譲りだけど有限の魔力が混ざり合いモコちゃんを包み込む。
すると、ついていた泥や葉っぱが嘘のように消え、モコちゃんの美しい毛並みが戻りふわふわになった。
「わぁ⋯⋯きれいになった!」
「ふふ、上手にできたね。⋯⋯ノア様、そんな目で見ないでください。私は使ってませんよ」
ミラはリズを褒めながらも、ノアに自分は使ってないことをアピールすれば「⋯⋯わかってるよ」という苦笑する。そしてノアはリズの頭を優しく撫でる。
「⋯⋯あとは破れたところを手当てしてあげるね」
ミラはお裁縫箱から針と糸を取り出すと、チクチクと丁寧に手際よく縫い合わせていった。ノアはミラが魔法で治せるだけの能力あることは知っている。だが使わないで治せるならその方法を使うならノアも何も言わない。
ミラが治していくのを鼻を啜りながらジッとリズも見守る。
「⋯⋯ほら、リズ。モコちゃん元通りになったわよ」
「ありがとう、おかーしゃま!」
元通りになったモコちゃんを見るとすっかり涙も乾き元気を取り戻したリズはお礼を述べると小さな嵐は去っていくように賑やかに部屋を出ていった。
「⋯⋯あの人形、泣くほど大切にしてくれてたんだな」
賑やかに去っていく足音を聞きながら、ノアはポツリと呟いた。
「ふふっ、嬉しいんですね、ノア様? 」
「⋯⋯別に、そんなんじゃないよ」
そういいながらも少し顔を背けるノアの横顔を、ミラローズは見ると愛おしそうに微笑んだ。




