④メイドたちとかくれんぼ
叔父様たちの執務室を出たリズは回廊を歩いていた。彼女の頭にはもう『きょうだい』という文字はない。約束してくれたので、大満足したので頼む必要が無くなったからだ。
モコちゃんを小脇に抱えてルンルン気分で歩く。
「あ、いた! アリザ様! 探しましたよ」
「クロエだ! ねぇねぇ、クロエ遊ぼう!」
「はい、何して遊びましょうか?」
回廊を歩いていたリズは正面からやってきたクロエに遭遇した。
クロエを見つけリズは笑顔で駆け寄って抱きつくと、クロエもまた受け止めて抱きしめてくれる。遊びの提案をしても快く受けてくれる。
「うーとね、かくれんぼ、しよ! クロエが鬼ね!」
「ふふ、いいですよ。では、私が30数える間に隠れてくださいね? あまり遠くに行くのはなしですよ?」
「はーい」
約束を決め、いざやろうかとした時、他のメイドたちが、通りかかる。
「みんなもいっしょにやるのー!」
リズが元気よく声をかけると、自由奔放な王女殿下からのお誘いに、メイドたちは「お仕事の合間に少しだけ付き合いましょうか」とくすくす笑いながら集まってくれた。
こうして、かくれんぼ大会がスタートしたのだった。
◇◇◇
一方その頃、ノアとミラローズの部屋では相変わらずの甘い時間が流れていた。
部屋にあるソファーの真ん中にノアが座り、その膝の上にミラをのせてギュッと後ろから抱きしめている。それが彼らの定位置になっている。
「ノア、様、もう平気ですよ⋯⋯十分⋯⋯んっ」
「ダメー、離さない。リズが来たって」
ミラは顔を真っ赤にして身をよじるが、ノアの腕から抜け出せるはずもない。ノアはそんな可愛い抵抗をするミラの白く細い首筋にそっと唇を寄せ、甘く噛むようにして彼女を深くいただく。
「ん、っ⋯⋯ノア⋯⋯さ、ま」
ミラが甘い吐息を漏らした。その時、“コンコン”と扉を叩く音と同時に開く。
開いた扉からルーカスが顔を出す。
「⋯⋯相変わらずだな。ノア」
呆れた様子でルーカスは声をかける。でも、ニヤニヤとした笑みを浮かべている。
「リュカ義兄さーん、返事もしてないのに勝手に入ってこないでくださーい」
「⋯⋯お前、返事する気なかったくせに。あと、義兄さん呼ぶな! 」
ツッコミを入れつつ、ルーカスは悪びれもなく部屋へ中へ入ってくる。
その様子とツッコミに対しノアは「チッ」と舌打ちしてルーカスに向けていた視線は真っ赤な顔をして胸に顔を隠しているミラに戻した。
「⋯⋯いや、まぁ、邪魔しに来るつもりなかったんだけどさ、昨日リズに『きょうだいはつくってあげられないない』って断ったんだろ? その後の面白い話を持ってきてあげたんだ」
ノアの腕の中にいたミラは「えっ」と顔をあげた。ノアも視線を戻す。
「⋯⋯面白い話?」
「そう。お前たちに断られたリズが、さっき俺たちのとこ来てさ。俺に『きょうだい作って!』って言いに来たんだ。俺がよく魔法でいろいろやってから魔法で作れると思ったんだろうな」
「⋯⋯可愛いことしますね、リズ」
ルーカスの言葉に微笑ましいお願いにくすくすとミラも笑う。
「⋯⋯それでな、さすがに俺にも魔法ではできないから、アルトに作ってもらおうかって言っといた。シャルロット様とアルトに子どもが出来れば、本当のきょうだいではないけど、きょうだいができるよって」
「えぇぇー! お兄ちゃんなんてことを⋯⋯」
慌てているミラに対して、ルーカスもノアもただ面白そうな顔をする。
「⋯⋯大丈夫だよ、ミラ。リズのことだから今頃もうお願いしたことなんて忘れて、どこかで遊んでるさ。それにアルトがお願い引き受けてくれたのなら、もうこれで、ミラの身体を心配しなくて済むんだ」
(⋯⋯相変わらず、ミラのことしか頭にないんだな。自分の娘への放任っぷりが、清々しいよ)
ルーカスもノアに呆れつつ、ミラの身体の心配しなくても良いのは万々歳である。もちろんノアが、制約魔法を使ってもうリズに『きょうだい』を作ってやれないようにしていたことは知っている。
「まぁ、アルトは可愛い姪のお願いに、根負けして『シャルロットと相談してみる』って赤面しながら約束していたよ」
言うだけ言うと、ルーカスは仕事へ戻って行った。
「アルト殿下も災難ですね。⋯⋯でも、ノア様? リズどこで何してるのか、少しは心配してください」
「⋯⋯元気にやってるならそれでいいさ。それよりもさっきの続き」
「えっ、ちょっと、待ってください⋯⋯んっ」
先程ルーカスの来る前の濃厚な触れ合いへと戻していく。首筋を甘噛みして⋯⋯そのまま唇を重ね濃厚に触れ合っていく。ミラは顔を真っ赤にしながらも溢れるノアの愛を受け入れるように背中へ手を回すのだった。
その時、回廊から「リズ様ー!どこですかー!」というメイドたちの賑やかな声が風に乗り聞こえてくる。
甘い空間の中で、窓の外に視線を向けると、モコちゃんを抱えて植え込みに(おしりは丸見え)隠れるリズの姿があった。
その自由奔放な姿に2人は顔を見合せてクスッと笑う。ノアはそんな娘の姿から目の前のミラローズへ視線を戻し、濃厚な触れ合いへとまた戻していく。
「ちょっ⋯⋯と、ノア、さまっ⋯⋯リズに、みえちゃ、います⋯⋯っん!」
「⋯⋯大丈夫だよ、かくれんぼに集中してるみたいだし、頭隠してるし、顔あげなきゃ分からない」
「⋯⋯いや、そういう、もんっ⋯⋯だいじゃ⋯⋯あぁっ!」
ノアはもう、目の前の愛しい愛しい妻のことしか目には映っていなかった。濃厚に触れ合う。もう突然訪問してくるものはしばらく居ないはずだ。




