③ 叔父たちへのお願い
アルトの執務室にて、王太子アルトとその右腕、ルーカスは静かに机に向かって書類を片付けていた。
そこへ突然小さな訪問者が現れた。
「リュカお兄ちゃん! おねがいがあるのー!」
バンッと勢いよく現れたのは、2人にとって姪であるアリザだった。
突撃してきた可愛い姪にルーカスは想う。
(うわぁー、さすがはノアの子どもだ⋯⋯。あいつはただのろけて帰るけど、リズはなんの用かな⋯⋯)
と密かな思いつつ優しい笑顔をリズへ向ける。
「⋯⋯お願いってなにかな? リズ」
「リュカお兄ちゃん! 魔法で弟か妹作って!」
「ぶっ⋯⋯!?」
まさかのお願いに持っていたペンを落とし盛大に吹き出した。
リズに、魔法少々と奇術を交えてよく不思議な空間を作りだしたり、お菓子を出してみたりしていることもあるせいかなんでも出せる魔法使いと思われていることは知っているが⋯⋯。
「リズ⋯⋯、俺が優秀な魔法使いでも、きょうだいは作ってやれないよ。⋯⋯どうしたんだ? 急にそんなこと言い出して」
ルーカスは彼女の夢は壊さずに、不思議そうに尋ねた。
すると、ゴクッと息を呑み、昨日のお茶会の楽しかったことからみんながきょうだいがいて羨ましかったこと、昨日お父様とお母様に話したことを、モコちゃんをギュッと抱きしめながら一生懸命にお話した。
「――だからね、おとーしゃまとおかーしゃまは、リズがうまれるときにきせきを使い果たしちゃったからダメなんだって。おかーしゃまのからだも大事だからダメだって⋯⋯」
「⋯⋯なるほどね」
ノアが王太子の座をアルトに譲ってまでミラローズをを守ろうとしていることはルーカスもアルトも知っている。
(これ以上ミラを危険に晒すことのないように制約魔法をかけたとか言ってたなぁー⋯⋯)
ルーカスは、たまに来るノアがのろけてきた時にそんなことを言っていたのを思い出す。
「そうか。それで、そのお話はお母様たちにも話したんだね?」
「うん! おかーしゃまとおとーしゃまにはダメなんだってわかったから、ルーカスお兄ちゃんのまほうなら作れるかなっておもって!」
純粋な瞳で「作って」と見つめてくる、リズにルーカスは苦笑を漏らす。
(⋯⋯この純粋な願い叶えてあげたいけど、俺にも無理なんだよなぁー⋯⋯あっ)
姪の可愛いお願いに、考え込んでいたルーカスはイタズラを思いついた時のようにニヤニヤとしながら言った。
「リズ。お兄ちゃんの魔法でもきょうだいは作ってあげられないんだ。でも、そこにいるアルトお兄ちゃんに作ってもらおうか」
「アルトお兄ちゃんに⋯⋯?」
「えっ、ルーカス?!」
突然名前を呼ばれたアルトは驚愕の声を上げ目を見開く。そんなアルトの様子は無視して姪にだけ向き、ニヤニヤと意地悪い目をしたままリズに話を続けた。
「そうだよ、アルトお兄ちゃんが、奥さんのシャルロット様と頑張れば、リズにきょうだいができるんだ。本当のきょうだいではないけど、リズは実質きょうだいみたいなものだからね。そしたらリズもお姉さんだろ?」
「ちょっ⋯⋯! ルーカス?! リズに変なことを吹き込まないでくれ!」
耳まで真っ赤にして、驚きの声を上げるアルトとは裏腹に、リズは目を輝かせてアルトの方を見ていた。
「アルトお兄ちゃん! おねがいします、リズおねえしゃんになりたいの、つくってくだしゃい」
「うぐ⋯⋯っ!」
キラキラした瞳で可愛い姪に見つめられ、アルトは言葉に詰まる。
ルーカスはニヤニヤとまだ笑いながら成り行きを見守り始めていた。
アルトはルーカスに目を向けるが、面白がっている目にジト目を向け、リズの方に目線を戻して静かに告げる。
「⋯⋯わかったよ。シャルロットと相談してみるよ」
「ほんとにほんと?!シャルルおねえしゃんに?!」
「あぁ、本当に本当」
「わぁ〜⋯⋯ありがとう! アルトお兄ちゃん!」
リズは弾んだ声で大喜びすると、パッと座っていたソファーから飛び降りた。
軽い足取りでひつじの人形モコちゃんを小脇に抱えて嬉しそうに去っていった。
嵐のような姪に、ノアの面影が重なって見える。姪の可愛いさの方が何倍もいいが。
姪の可愛い後ろ姿を見送った。
パタンっと静かに扉が閉まると、再び執務室には静けさが戻った。
アルトはゆっくり首を巡らせ、未だニヤニヤ楽しそうに笑っているルーカスへ怒りを込めた視線を向ける。
「⋯⋯ルーカス。お前何吹き込んでくれたんだ」
恨みがましい声をあげるアルトに対し、ルーカスは悪びれもなくただ楽しそうな声で呟いた。
「いやー、さすがノアの子どもだなぁー。面白い。⋯⋯アルト殿下可愛い姪のために頑張ってあげてくださいね?」
「っ⋯⋯クソっ!」
顔を真っ赤にしたアルトは、これ以上この男に恨みを向けたところで、楽しむような答えしか返ってこないと察したアルトは怒りをぶつけるようにバサバサと書類を片付けていくのだった。




