② 子どもたちのお茶会
煌びやかに飾り付けられた王宮内の庭園に、色とりどりのパラソルとテーブルが並べられ、『子どもたちのお茶会』が盛大に開かれようとしていた。
リズと同い年の6歳になる貴族の子どもたちの集めた、初めてのお茶会が開催される。
「おかーしゃま、みてー! このおリボン、モコちゃんとおそろい!」
クロエにフリフリの可愛いドレスを着せてもらった、リズは会場に来て一足先に大はしゃぎ。小脇にはもちろんひつじの人形『モコちゃん』を抱えられている。その首にリズの髪飾りと同じ色のリボンが結ばれていた。
「ええ、とてもよく似合ってますよ、リズ。今日はお友達がたくさん来ますからね、みんなと仲良くお喋りしてくださいね」
「はーい! たくさんおしゃべりするー!」
元気よく返事をしたリズを、離れた席から温かく見守っていた。子どもに対しては過保護に干渉しないノアはただ心配するのは魔力を制御できないことだけである。それ以外は娘の自由さには信頼を寄せる。
「リズ、魔法は使わないこと。使うことになるなら呼ぶんだよ。⋯⋯使わないのが1番いいけど」
ノアが言い聞かると「はい!」としっかり返事をしたリズ。
ニコニコ楽しそうにお茶会の始まるのを待っていた。
やがて、お行儀よくおめかしした、貴族の子どもたちが親とともに集まってきた。けれど、子どもたちは初めての王宮と、初めての社交界体験に、みんな緊張でガチガチだった。
そんな雰囲気をリズは放っておくことはしなかった。
「みなさん! はじめまして。私はアリザ。リズと呼ばれています。よろしく! このクッキーおいしいよ!みんなで一緒に食べよう!」
リズは笑顔であいさつすると、緊張する子どもたちと物怖じしないその性格であちこち席をまわって無邪気に話しかけた。会場は賑やかな笑い声に包まれた。
色んなお友達の話を聞いて楽しくなったリズ。ニコニコ聞いて回っていると、気になる話を耳にする。
「私ね、お姉様がいるの、いつも可愛いリボンを貸してくれるの。ほらこれもそうなのよ!」
「僕もお兄ちゃんがいるぞ! いつも木刀で訓練の相手をしてくれるんだ!」
緊張のほぐれた貴族の子どもたちはお家のはなしを自慢げに話し始めていた。とても楽しそうに話していた。
『きょうだい』の話を聞いたリズは、羨ましくなる。
モコちゃんをギュッと抱えて話を聞いた。
リズにはいつも遊んでくれる、クロエをはじめ、ルーカス叔父様、アルト叔父様⋯⋯、が居る。けれど、自分のお兄さんではなくルーカスはお母様のお兄さんだし、アルトもお父様の弟だ。
(楽しそうで、いいなぁ。⋯⋯私も弟とか妹が欲しいな⋯⋯。)
胸に芽生える初めての眩しい憧れ。
お茶会は成功のまままくを閉じ、子どもたちはみんな笑顔で帰って行った。リズは最後までお行儀よく見送ったが楽しそうな『きょうだい』の話がずっと残ったままだった。
◇
お茶会の日の夜。
リズはお茶会でのお話を思い出していた。
いつも寝る前まで両親と過ごして、今日あったことを楽しく話をするのだが、胸に突っかかる想いを上手く吐き出せずにいた。
ソファーの真ん中でモコちゃんをギュッと抱きしめ左右に座るミラローズとノアを交互に見つめる。
「リズ? どうしたの? 今日はとても楽しいお茶会だったんでしょう?」
ミラは心配そうに、リズの柔らかな髪を撫でる。いつも元気いっぱいに話す娘が途中からどこかおかしい事に、気がついた。
ノアもまた、おかしな様子に気が付きリズの小さな手を握り、優しく「どうかした?」と聞いた。
リズは言葉に詰まりながら突っかかっていたことを話し始めた。
「あのね、みんながお兄ちゃんやお姉ちゃんのはなしを楽しそうにしていたの」
胸にたまりつっかえていた想いを口にした。
「楽しそうでいいなって。⋯⋯リズもおねえさんになりたい。いもうとかおとうとが⋯⋯きょうだいがほしい」
「⋯⋯っ、!」
それは6歳の子どもらしい、純粋な願いだった。
しかし、その言葉を聞いた瞬間、ミラも、ノアも言葉に詰まる。
ミラの病気は完治したわけじゃなく、ノアの魔力で生かされている状態で、隣に座る『リズ』は魔力で必死に補いできた奇跡そのものだ。そして宝物。
ミラの身体にとって妊娠はリスクを背負わせることはもうできない。だから制約魔法まで誓ってリスクを省いている。リズの想いには叶えてあげられないように。
静まり返る部屋の中で、両脇から我が子の手を握る手に力を込めるノアとミラ。
「⋯⋯リズ。ごめんね。それは出来ないんだ」
ノアは嘘をつかず、静かに優しい声で告げた。
「できない」という言葉に驚き目をぱちくりさせノアとミラを見上げる。
「⋯⋯できない、の? おとーしゃまとおかーしゃまにおねがいしても?」
「⋯⋯ええ、ごめんね、リズ」
ミラは優しくリズを抱き寄せる。想いに答えてあげられない悲しさを滲ませた笑みを浮かべながら。
「⋯⋯リズ。お前の名前の意味って知っているかい? 意味は『幸福』とか『歓喜』と言うんだ。俺たちにとってリズは幸運の象徴なんだよ。神様が与えてくれた奇跡の宝物なんだ。リズが産まれてくるのに、お父さんたちはその奇跡は使っちゃったんだ。だから⋯⋯ごめんね、その願いは叶えてあげられないんだ」
悲しさをひめた顔でミラにジッと見つめられた、ノアは重い口を開き静かに告げる。
「⋯⋯そっかぁー」
リズはモコちゃんを抱き抱え小さく頷いた。
お父様もお母様も奇跡を使い果たしちゃったからもうきょうだいは作れない。ミラの身体のこともノアが、ミラに魔力を渡して維持していることも幼いながらになんとなく理解している。
「リズ。⋯⋯きょうだいは作ってあげられないけど、モコちゃんのお世話を頑張ってしてあげてね? そうしたら、リズは立派なお姉さんよ?」
「⋯⋯モコちゃんのおせわ! リズ、モコちゃんのおねえしゃん、する!」
納得はしたけど、諦め気ない様子を見せるリズに、ミラはモコちゃんを使うことで、本当にお姉さんにはしてあげられなくてもお気に入りのモコちゃんのお世話をするリズはもうお姉さんなんだよと言い聞かせると、パッと顔を明るく輝かせ、きょうだいの話は一旦綺麗に消えてしまう。
「リズはモコちゃんの、おねえしゃん。よしよし、モコちゃん、いっしょにねましょ。いきましょう、」
「リズ、ひとりでお部屋戻れるね?」
「うん! おねえしゃんだから、だいじょうぶ! おとーしゃま、おかーしゃま、おやすみなさい」
「「おやすみ」」
笑顔に戻って挨拶を交わすリズに、ノアとミラは両側から頬にそっとキスを落とす。スクッと立ち上がり扉の方へ走って行くリズを静かに見送った。扉の前で待っていたクロエと部屋に戻りすやすやとすぐに眠りにつくのだった。




