⑫ 隣国の王子と小さな騎士
テオはリズと遊びたくてお母様に場内へ連れてきてもらった。この前案内してもらった城内を歩きリズを探していた。
(リズちゃんどこかな? こっちの方いるのかな)
テオはあちこち歩き探していると庭園に来ていた。庭園内もあちこち見て回る。
「おや、あなたは⋯⋯テオドール様でしたっけ。アリザ殿下をお探しですか?」
「⋯⋯はい。どこにいるか知ってますか?」
突然話しかけられてビクりとしたテオドールだが、相手がこの前リズに案内してもらった時に挨拶した庭師さんだということに気がつき、リズの所在を聞くことにした。
「アリザ王女殿下なら、向こうにいると思いますよ」
庭師は庭園から見える回廊を指さし示した。
テオはお礼を述べて回廊の方へ歩き出す。
庭師さんに教えてもらった通りに回廊へ向かうと、小脇にいつも持っているモコちゃんを抱えたリズの後ろ姿を見つけた。
「リズちゃん!」
テオは駆け寄ろうとしたが、さっきは視覚で見えなかった見慣れない少年がリズの前に立っていた。
その少年は煌びやかで上品な服を来た、少し年上に見える少年だった。どこか高慢そうな態度で、リズを見下ろすように意地悪な声を張り上げている。
「ふん、6歳だと? 笑えるな赤ちゃんじゃん。6歳にもなってそんな安っぽい人形持ち歩いてるなんておかしいんじゃないの? 王女と聞いて呆れるな。かっこ悪い」
本当はリズのことが気になって声をかけた、隣国の第二王子、レオン・カイザー・グラートはそんなことを口にしてしまったのだ。
3歳の誕生日に、お父様に買ってもらって大事にしてきた人形をバカにされ、リズの胸の奥に悔しさと悲しさが込み上げてくる。
リズは目に涙をいっぱいに溜めボロボロ泣きながらぎゅっとモコちゃんを抱きしめながら訴えた。
「⋯⋯おかしくないもん!! カッコ悪くなんかないっ! お父様がリズにくれた世界一大切な宝物なんだからっ!!」
ボロボロと涙を流しながら、ぎゅっとモコちゃんを抱きしめたまま彼を睨みつける。
涙声で訴えるリズの姿を見たテオは頭にカッと血が上る。
(僕の大好きなリズを泣かせるやつなんて絶対許さない!)
「リズちゃんを、泣かせるなー!」
行き良いよく回廊へ駆け込みリズを守るように王子の間に立ちレオンを鋭い目つきで睨みつける。
「なんだよ! 君は?! 突然入ってくるな。不作法なやつだな」
「不作法はどっちだ! 女の子を泣かせる方がカッコ悪い!僕はテオドール・アークライトだ! リズちゃんを泣かせるやつは僕が許さない!」
「なんだと⋯⋯!? 誰にものを言ってるんだ! 俺は、グラート王国の第二王子、レオン・カイザー・グラートだぞ!」
「王子だって関係ない! 身分が高くたって、リズちゃんを泣かせるやつなんて、許さない! 僕が追い払ってやるんだ! リズちゃんに謝れ!」
大切な人を守るために6歳ながら、年上のレオンを睨みつけた。その迫力にレオンは完全に気圧されてしまった。
リズと遊びたくて声をかけたのに、大泣きされ一気に罪悪感が押し寄せてくる。
「う、うるさいなっ! 俺は本当のこと言っただけだ! ⋯⋯もういい、この俺に逆らったこと後悔しても知らないからな!」
レオンは顔を真っ赤にして、回廊のを駆けて去っていった。
静かになった回廊で、テオドールは小さく息を吐き、後ろにいるリズの方を振り返った。
「リズちゃん、大丈夫? 僕がもうちょっと早く助けてあげられたら良かったんだけど⋯⋯」
テオドールが心配そうに覗き込むと、抱きしめていたモコちゃんからゆっくり顔を上げた。
ボロボロ涙を零していたはずの瞳は、すっかり引いて輝いていた。リズはテオドールを見つめてにっこりと微笑んだ。
「⋯⋯ううん、ありがとう、テオ。大丈夫だよ。⋯⋯リズのために怒ってくれて嬉しい。かっこよかったよ!」
モコちゃんをバカにされて悔しかったのは、本当だけど、それ以上に自分のためにテオドールが怒って、王子を追っ払ってくれた姿にリズは、彼が誰よりも王子様のように感じていた。
テオドールはリズを守れたことにホッと胸を撫で下ろすと同時に、彼女の至近距離での眩しい笑顔にやられ、顔を赤くする。
「僕は、リズちゃんの騎士にいつでもなるよ! 守ってあげる」
「⋯⋯リズの? 騎士 わぁ! ありがとう」
嬉しそうなリズの顔にテオドールはもっと力をつけて、リズを守れる本当の騎士になりたいっと心に決めた。
「⋯⋯遊びに行こう! ⋯⋯あ、お父様とアルトお兄ちゃん」
「⋯⋯あれ、リズと⋯⋯テオドールくんだっけ? 遊んでたの?」
遊びに行こうと、テオドールの手を握ったその時だった。
王子がかけていった回廊とは反対方向から歩いてきたノアとアルトが何か話しながらやってきて、気がついたアルトに先に声をかけてくれた。
「⋯⋯リズ、王子知ってるか?隣国の」
「うん。すごく失礼な王子! あっちに行った!」
「失礼な王子? なんか言われたのか?」
「モコちゃんのことをバカにされたの! ⋯⋯テオが追い払ってくれたけど」
お父様に聞かれた隣国の王子に腹のたっていたリズはムッとした表情で答えた。
簡単に説明しただけであったが、何があったか察したらしいノアは、リズの頬をそっと撫でる。そこには涙のあとが残っていた。
「⋯⋯テオドール、リズのこと守ってくれてありがとう。二人で遊んできな。⋯⋯アルト行くぞ、あいつ捕まえてさっさと隣国に帰ってもらう」
「え、兄上?! ちょっと怒ってる?! 待ってよー!」
ノアはテオドールに礼を言うと、頭を軽く撫でて、リズの先程さした方へスタスタ歩き出した。アルトが慌てて着いていく。
その後のことはリズたちに分からないが、(お父様が、リズのために怒ってる?! お母様と離されて王子探ししてるのも理由ありそうだけど⋯⋯。嬉しい! テオも守ってくれたし!)
スタスタと歩いて行く、お父様の後ろ姿を見送り、笑みを浮かべると繋いだテオドールの手を振り回した。
「遊ぼう! どこで遊ぼうか? 探検する?」
小さな騎士に守ってもらえたことととお父様に構ってもらえて嬉しかったリズはご機嫌で、テオドールの手を引き城内の中をかけているのだった。




