⑩ 初めてのお忍び
青空の広がる中、王都では煌びやかなお祭りが開催されていた。
「⋯⋯お外楽しそうだよー。何かやってるのかな?」
リズはいつものキッズスペースの窓から賑やかな外を眺めて呟いた。
そのつぶやきは本読んでいたミラも、その横で腰に手を回し、昨日の魔物討伐の報告書などの討伐関係の書類をめくっていたノアも聞き逃すはずがなかった。
ミラも優しく目を細め、窓の外の賑わいに目を向けた。
「⋯⋯今日は秋祭りでしたね。リズ行きたい?」
「うん! 行ってみたい! ⋯⋯おかーしゃまも一緒に行ける?」
リズに問いかけられると、ミラは複雑そうな笑みを浮かべながらノアの方へ視線を向けた。
自分としてはかなり体調はいい。けど、彼が心配するので外出は避けていた。
リズもお父様の方に目を向ける。2人からの視線を受けるノアが気が付かないはずもなく、書類に目を通すのをやめ、机に置いた。それから視線をミラと合わせる。
「⋯⋯ミラ体調は?」
「いいですよ。毎日くれるじゃないですか。なので安定してると思いますよ」
「⋯⋯わかった。じゃあ医者に見てもらおう。出かけるならそれからだ」
ノアがそういうと、すぐに主治医を呼び寄せ、診断を徹底的にしてもらった。
リズもじ〜っと見守った。
「⋯⋯うん。ミラローズ妃殿下の魔力核はかなり満たされています。無理のない範囲でなら、出かけても大丈夫だと思いますよ」
「⋯⋯本当?! おかーしゃまと出かけられる?」
「はい。大丈夫ですよ」
お医者さんの言葉に真っ先に反応したのはリズだった。リズはお母様と出かけられることが嬉しくて、目を輝かせてお父様を見た。
「⋯⋯それなら、少しだけ行ってみるか。疲れたらすぐ言うんだよ」
お父様が同意したのをみたリズは「準備してくる!」とすぐに部屋を出ていった。それに続くように医者も挨拶をして出ていった。
勢いよく飛び出していったリズはお部屋に戻り、実はお忍びように前から用意されていた、認識阻害マントをクローゼットの中から出すと、自分用の小さなマントとお母様とお父様のマントを抱えて戻った。
「おかーしゃま、おとーしゃま! 持ってきた」
「⋯⋯ありがとうリズ」
リズの持ってきてくれたマントを被ると周囲からの認識を隠してくれる優れもの魔道具『認識阻害マント』。
3人で揃って羽織れば、「おそろい!」と嬉しそうにするリズを視界にしつつも、医者には大丈夫と言われたとはいえ心配なノアは、ミラにキスを落とし行く前に少しばかりの魔力補充をした。その隣でリズは目を手で覆われて「わっ」っと声を上げた。その声は嬉しさの混じった声。
魔力補充のキスを終えたノアはリズの目を覆っていた手を離した。
「⋯⋯よし、それじゃ行こうか。ミラ無理しないでね」
「ふふ⋯⋯わかってますよ。行きましょう?」
フードを深く被り姿を隠して、3人での初めてのお出かけに出発した。
――王都の秋祭りの会場に到着すると、窓から見たよりも魔法で輝くランプの光やたくさんの出店のキラキラした雰囲気にリズは目を輝かせ「わぁぁー!」と声を上げた。
だけど街の中は、混雑していた。
迷子になると心配なのでノアは繋いでいたミラの手をギュッと恋人繋ぎで握り直して、リズを片手で器用に抱き上げた。
「⋯⋯リズ、どこに行きたい」
「リズは〜、甘いおやつたべる! ⋯⋯あ、あれ食べてみたい!」
マントの下から手を出して指で指したのは、ツヤツヤ輝いて見える色とりどりの果実飴のお店だった。
「果実飴⋯⋯? リズが食べたいみたいだけど、ミラもどう? たべる?」
「⋯⋯おいしそうね、食べようかしら? 」
「いろいろあるみたいだが、どれにするんだ? 」
リズを下ろし、種類がある中から選ばすと、1番大きいりんご飴だった。ノアが手際よく買い求め再びリズを抱え上げる。
リズは初めて外で食べる甘いおやつに、「おいしい〜!」とニコニコ満面の笑みを浮かべた。
3人でおそろいのマントを被り、ノアに抱えられながら繋がれた両親の手を眺める。
(お父様はお母様の手は絶対離さないなぁー。さっき買う時も離さずにしてたし⋯⋯まぁいいか)
相変わらず、お母様しか見てないお父様の様子にマントの中の片手はモコちゃんを抱きしめ、もう片方には買ってもらった飴をもってかじりながら笑みを浮かべていた。
そんなふうに初めての3人でのお出かけを楽しんでいた、その時だった。
「⋯⋯あれ? もしかして⋯⋯リズ⋯⋯ちゃん?」
人混みの向こうから同じく両親とお祭りに来ていたテオドールが。
しかし、認識阻害マントでしっかり顔の認識ができないテオドールにはリズだと思うのに目の前の女の子しっかりと認識出来ない。
「うーん? ⋯⋯ちがうのかな? 似ている気がするのに」
不思議そうに首を、傾けるテオドールに対して、魔道具の仕組みを理解しているリズはそっと少し顔を覗かせ、テオドールをジッと見つめると――。
口元に人差し指を当てて、「しーっ、ないしょだよ」といたずらっぽく笑顔を向けたのだった。
笑顔で微笑んだ少女が、やっぱりリズだと確信したテオドールは、リズの笑顔にドキッと心を打たれ顔を赤くし、驚いて目を丸くする。
秘密を守るために、ドキドキしながらテオドールはコクコクと勢いよく頷いた。
「テオー? どうしたの」
両親の呼びかける声が聞こえ、リズへテオドールも笑顔を向けて小さく手を振った。
リズもまた、小さく振り返し、空気を読んで離れていくテオドールを見送った。
「⋯⋯マントを被ってても気がつくとは、あの子は相当リズに惚れ込んでいるようだな。⋯⋯我が娘ながら末恐ろしいな」
「⋯⋯ふふ、そうですね。⋯⋯リズお友達に会えて良かったわね」
ミラが優しく微笑んだ。リズも「うん!」と嬉しくて笑顔を向ける。
リズは、ニコニコしながらりんご飴をサクッと最後の一口を口に運んだ。
やがてお祭りのクライマックスに、夜空を彩る色とりどりのキラキラ輝く魔法の花火が打ち上がった。
ノアの腕の中で、リズは夜空を見上げた。
(今日はキラキラしたものがいっぱい! 楽しかった! これでもう終わりなのかな? でもお母様と出かけられて、テオにも会えて、美味しいものもいっぱい食べられた!)
「おかーしゃま! 楽しかった! また、お出かけしたいな!」
「そうね、私も楽しかったよリズ。そうだね、また出来るといいわね」
「⋯⋯ミラが笑顔になるなら、また出かけようか。⋯⋯今日はもう終わりだ。そろそろ疲れているだろ?」
楽しい時間はあっという間に終わり、帰路に着いた。
(相変わらずお父様は、お母様ばっかり〜。リズには疲れたように見えないけど、お母様は疲れているのかな? お父様にはわかるのかな? ⋯⋯まだ遊びたかったけど楽しかったし、まぁいっか)
リズは心の中で思いながらも、お母様と出かけられて楽しかっただけで満足していた。
お城に戻ると、リズは宝箱に今日の思い出の品を大事にしまい、戻ってきても相変わらずお母様ばっかりなお父様をみてニコニコ微笑んで、部屋をこっそりでて城のみんなに楽しかったお祭りの思い出を話に行くのだった。




