7.帰り道にて
騎士団によって、道中の安全は確認された。
結局、私を狙っていたという盗賊は見つからなかったらしい。待ち構えていたという証拠もなく、もぬけの殻だったようだ。
それは、予想通りではある。恐らくこちらに関しては、プロの暗殺者だったのだろう。
「騎士団が護衛についてくれたことで、とりあえずは安心ね?」
「そうですね。少なくとも、カルリアやクーレリアの手が及んでいるということはないでしょう。流石に、公的な機関を操れる力はないでしょうから」
「それはそうだと思うわ。オーヴァン伯爵家でも、騎士団を好きなように動かすことは難しいもの……」
私はセオドアとともに、馬車に乗っていた。
護衛には、ナルゼスさん率いる騎士団の隊がついている。警備としては、かなり厳重な方だ。
重要なのは、騎士団が信頼できるということである。
護衛を雇う場合、万が一ということがないとは言い切れない。カルリアやクーレリアも、流石に王都にまで手は及んでいないとは思うが。
そこが騎士団であるならば、安心することができる。それを自由に動かすことができる者は、非常に数少ない。
「もっとも、ボルガー公爵のことは心配です。彼ならば、騎士団を自由に動かすことができるでしょうからね?」
「それはそうね。でも、その辺りに関してはセオドアが釘を刺しておいてくれたから、大丈夫なのではないかしら?」
「ええ、そう思っています。とはいえ、可能性はゼロではありませんからね……」
セオドアは、ボルガー公爵のことを心配しているようだった。
カルリアとクーレリアのことを気にかけているという公爵、それは確かに気になる所だ。
ただ、彼に関しては国王様が抑えてくれているはずである。セオドアの発言によって、そうなっているはずだ。
「まあ、どの道、騎士団に二人の手が及んでいるというならば、助かる道なんてものはないわよね? それならそのことは、考えるだけ無駄なのではないかしら?」
「それは……そうかもしれませんね」
「あなたを巻き込んでしまったことは、申し訳ないけれど」
「いえ、僕にも無関係なことではありませんから」
仮に騎士団が敵の場合、私達に対抗できる術はない。
この馬車の運命さえも、今はナルゼスさんの隊が握っている。彼らがその気であるならば、私達の命はないといえるだろう。
それならその可能性なんて、考えても仕方ない。私達は彼らを信じて、進んでいくべきなのだろう。少なくとも、今この時は。
「……馬車が止まったわね?」
「そのようです。まさかとは思いますが、僕の危惧が当たっていたのでしょうか?」
「そんなことはないと思いたいけれど……まあ、馬車が止まるなんて、そう珍しいことではないわ。何か問題でもあったのでしょう。馬の怪我とか、動物が通ったとか」
私が話している最中、馬車が動きを止めた。
それは不穏なものではあるが、元より馬車が止まることはない訳ではない。
そう思っていると、戸が叩かれた。私がそれを開けると、ナルゼスさんがいた。彼は険しい顔をしている。
「失礼します、アルティア様、セオドア様。少し問題が発生したもので……」
「問題というと、何でしょうか? 動物でも出てきましたか?」
「そうですね。とても厄介というか、面倒な状況になりました。セオドア様の兄上、スヴェルツ様でしたか? 彼が現れました」
「兄上が?」
ナルゼスさんの言葉に、私とセオドアは顔を見合わせることになった。
スヴェルツが現れた、それは一体どういうことだろうか。彼は既に、帰っているものだと思ったのだが。
もちろん、私達は王都で二回も夜を越したのだから、彼が行って帰ってくる余裕くらいはあるといえる。
しかし、そのようなことをする理由がわからない。
いや、スヴェルツの行動の理由なんて、最近はわからないことばかりか。ここで考えるよりも、本人に聞いてみる方が早いかもしれない。
「セオドア、行きましょうか?」
「ええ、そうですね」
「お二人は、私達の前には決して出ないでください。万が一ということもありますから」
「わかりました。スヴェルツも、警戒するべき相手でしょうからね」
私とセオドアは、ナルゼスさんに先導されながら馬車から出た。
すると、近くに馬車が止まっているのが見えた。その前方には、見知った顔がある。スヴェルツがいた。
「スヴェルツ……」
「兄上……」
「……」
私とセオドアの顔を見て、スヴェルツはほんの少しだけばつが悪そうな顔をした。
ただ彼は、すぐに首を横に振る。それは私達との決別を選択した、ということだろうか。
状況からして、その可能性は高い。彼は襲撃に関しても、知っていたのだろうし。
「アルティア、二日振りか? 随分と遅い帰りじゃないか。セオドアと何をしていたんだ?」
「スヴェルツ、あなたなら色々と知っているのではないかしら? そもそも、セオドアを置いて帰るなんてどういうつもり?」
「子供でもあるまいし、セオドアも一人で帰ることくらいはできただろう? 俺は急用があっただけさ。セオドア、お前は知らなかったのかもしれないがな」
スヴェルツは、私を糾弾するような口振りであった。
周りに騎士団の目があるからだろうか。彼は核心には触れようとしない。
しかしその反応からして、騎士団が取り込まれているということはなさそうだ。
それは安心できる。だが油断はできない。ボルガー公爵がこれから働きかける可能性は、ないとは言えないのだから。
「しかし、アルティア。君がセオドアと王都に滞在して、実に二日もの間帰って来なかったといううのは、見逃せない事実だな。これは不貞であるといえる」
「スヴェルツ、あなたは何を言っているのかしら?」
「俺は君との婚約を破棄させてもらう。実の弟と浮気するような者を婚約者として、許容することはできないからな」
「それは……」
スヴェルツは高らかに、婚約破棄を宣言した。
やはり彼は、私のことを切り捨てるつもりのようだ。それはなんとも、ひどい話である。
だがこの婚約破棄宣言は、ある意味において助かった。
スヴェルツがそうしてくれたことによって、わざわざこちらから働きかける必要もなくなった。
「アルティアさん、あれは……」
「あっ……」
私が今後のことも含めて、色々と考えていると、スヴェルツの後ろにある馬車から、一人の少女が出てきていた。
それはクーレリアだ。どうやら彼女は、スヴェルツに同行して来ていたらしい。




