6.王への謁見
驚くべきことに、私とセオドアは国王様に謁見することができていた。
偶然にも、暇だったそうだ。それは本当に、幸運なことだったといえる。
「アルティア、それからセオドアよ。君達の話は聞いている。色々と大変なそうだな?」
「はい、国王様……」
「アルティア、君の父のことは本当に残念であった。私としても悲しいものだ。彼は優秀な伯爵であったからな」
国王様は、私に言葉をかけてくれた。その表情は暗い。本当にお父様の死を悼んでくれているのだろう。
しかしお父様は、流石であった。まさか国王様からも、評価されているなんて。
そんなお父様の唯一にして最大の欠点は、後妻を見極める目がなかったことだろう。本当に、愚かな再婚をしてしまったものだ。
「しかし、カルシアとクーレリアの二人が、悪逆を働いているとはな。それはなんとも、残念な話だ。君の父ならば、あの二人の心も洗われるものかと思っていたのだがな」
「……国王様? それはどういうことでしょうか?」
お父様の失敗にため息をつきそうになっていた私は、国王様の言葉に少し驚いた。
口振りからして、カルシアとクーレリアのことを知っているということだろうか。いや、あの二人も元々は貴族の家の出身だ。少しくらいは知っているのかもしれないが。
「君の父とカルシアの縁談に関しては、私も一枚嚙んでいてな。私の弟、ボルガー公爵を知っているかね?」
「知らない訳ではありませんが……」
「カルシアとクーレリアは、その弟が気にかけていた二人でな。カルシアはとある男爵家の出身であった。彼女はそれから、質の悪い男に嫁いでな。その男と離婚した後は、転々としていたのだ。それをある時、弟が拾ってな。それから、縁談をまとめたのだ」
「そうだったのですか……」
カルシアが男爵家の出身であることは、私も父から聞いていたことだった。
しかしそれ以外のことなどは、特に知らなかった。ホーヴァイン公爵などという大物が関わっていたなんて、思ってもいなかったことだ。
だがそうなると、お父様が結婚した理由というものも見えてくる。公爵からもたらされた縁談であるというならば、それは断りにくいことだろう。
もしかしたら、優しさや同情心などもあったのかもしれない。カルシアとクーレリアは、国王様の口振りからして、大変な環境に身を置いていたようだし。
「弟はカルシアとクーレリアが、前オーヴァン伯爵の元でならば、幸せになれると考えていたようだ。それについては、私も同じ思いであった。君の父は本当に、できた男だったからな。彼女達の心の傷を癒し、ことが良い方向に進むと思っていた」
「……二人は、特にクーレリアは父の死を嘲笑っていました」
「そうだったのか。それは、すまなかった。そもそも私は、君の負担について考えが及んでいなかったといえる」
国王様は、私に対して謝罪の言葉を述べてきた。
ただ私としては、国王様よりもボルガー公爵の方が気になった。彼が縁談をまとめたということに関して、考えるべきことは色々とあるといえる。
カルシアの経歴を国王様はぼかしていた。しかし転々としていた、というのはつまり、男性の間を渡り歩いていたということでは、ないのだろうか。
となるとボルガー公爵とも何かあったのではないか、と考えられる。お父様は、結果として押し付けられたのだろうか。
「まあ、父の縁談のことについては置いておいて、問題は現在の二人の振る舞いです。あの二人がいる限り、オーヴァン伯爵家は安泰とは言えません」
「無論、二人をオーヴァン伯爵家から追い出したいというのならば、私も協力するとしよう。責任の一端は、私にもあるといえる。しかし、少しの間時間は必要だ。権力を振りかざすことはできるが、それをすれば後が面倒なのだ。正式に手続きを踏んでおきたい」
「はい、もちろんそれで構いません」
国王様の言葉に、私は頷いた。
私としても、強引な形で二人を追い出したという形には、できればしたくない。オーヴァン伯爵家の名に、傷がつくからだ。むしろ正式な手続きを踏んでおく方が、あの二人の付け入る隙をなくすことができる。
「……一つ懸念があるとすれば、ボルガー公爵でしょうか」
「む……」
そこで、今まで黙っていたセオドアが口を開いた。
その内容に国王様は、眉を顰める。それは当然のことだろう。セオドアは国王様にとっては弟にあたるボルガー公爵を、明らかに含みを持って口にしたのだから。
「セオドア、それはどういうことだ?」
「ボルガー公爵は、カルシアとクーレリアを拾ったと国王様は仰いました。その二人がオーヴァン伯爵家から追い出されるということを、快く思わないのではありませんか?」
「それは……しかし、今回の件を聞けば、奴とて認めざるを得ないだろう」
「縁談をまとめたくらいですから、ボルガー公爵にとっては、顔に泥を塗る結果になります。それで仮に、オーヴァン伯爵家に制裁などはなされませんか?」
「……」
セオドアからの指摘に、国王様の表情は強張っていた。
その可能性を考えているのだろう。実際の所、あり得ない話ではない。
仮にボルガー公爵が、カルシアの色香に惑わされているとしたら。
そうでなくても、顔に泥を塗る結果を快く思わない可能性もある。その場合、オーヴァン伯爵家はどうなるものだろうか。
「その点については、私の方でなんとかするとしよう。弟に反対はさせん。もちろん、制裁など以ての外だ。アルティアの身の安全は保障するとしよう」
「そう言っていただけるのならば、僕としては安心です。申し訳ありませんでした、国王様。失礼なことを申し上げました」
「いや、君の懸念は当然のものだ。むしろ私のこそ、すまなかった。弟のこととなると、私はどうにも目が濁ってしまうらしい」
国王様は、ゆっくりと首を横に振った。
その表情からは、本当に反省の色が読み取れる。ボルガー公爵のことは、やはり可愛いということなのだろうか。実の弟に国王様は甘く、時に失敗があったのかもしれない。
だがセオドアのお陰で、今回そうなることはなさそうだ。
とりあえずこれで、一安心といった所だろうか。後は騎士団の調査が終わるのを待つだけだ。




