5.騎士団を頼って
私はセオドアとともに、ゾーント伯爵家の屋敷に向かうことにした。
オーヴァン伯爵家の屋敷のことも気になるが、まずはそちらに行くことにする。単純に近いし、またゾーント伯爵の力も借りられるからだ。
ただ、すぐに出発できるという訳ではなかった。例のごろつきらしき護衛達から話を聞き、さらには新しい護衛を雇う。それらに時間がかかった結果、日が暮れていた。
「夜間に動くのは危険です。ただでさえ危ない上に、アルティア嬢は狙われていますからね」
「……そうですね。それはわかっています」
「焦る気持ちはあるでしょうが、どうか落ち着いてください」
王都の宿屋の一室にて、私はセオドアと話していた。
早く帰りたい気持ちはあるが、身の安全が第一だ。とりあえずここで私達は、一晩を明かす。
「……明日になれば、すぐに動けるという訳でもありませんよね?」
「そうですね……少なくとも、盗賊については調べておかなければならないものです。あの護衛達の証言していた地点というものを、騎士団に見てもらいましょう。まあ、既にもぬけの殻ではあるでしょうが」
「まあ、私達が今日来なかった時点で、手を引いているでしょうね。あの護衛達とは違い、それなりの手合いを雇っていることでしょうから」
今回の件は、騎士団に話を通してある。王都という騎士団のお膝元ということもあって、調査という観点においては心強い味方がいるといえる。
しかしその調査も、始まるとしたら明日からだ。夜の間は、騎士団と言えども動かない。その間に盗賊――というよりも暗殺者達は、身を隠していることだろう。
「……そのことについてですが、私から少し話しておきたいことがあります」
そこで、私達とテーブルを囲んでいる男性が手を挙げた。
彼は、騎士団の一員である。名前はナルゼス、若くして騎士団の小隊の隊長に就任した人だ。
そのナルゼスさんの隊が、今回の件の調査を担当することになった。私にとっては、心強い味方だ。
「護衛達については、捕まえておきました。まあ、これは形式的なものです。調査に協力したという名目もありますし、しばらくすれば解放することになるでしょう」
「彼らは、やはりごろつきのようなものなのでしょうか? 恥ずかしながら、私はまったく見抜けませんでしたが……」
「まあ、そんな所ですね。暗殺者としては質が悪いものですよ。もっとも、だからこそ偽りの護衛などとしてアルティア様につかせたのでしょうがね。セオドア様の言う通り、ことが順調に進んでいたら、彼らも始末されていたことでしょう」
ナルゼスさんは、ゆっくりと首を横に振っていた。
あの護衛達は本当に、彼からすれば質が悪いものだったのだろう。騎士団として色々な件に関わってきたことのだろうし、猶更そう思うのかもしれない。
ただ今回に関しては、それで助かったといえる。もしも彼らが質の良い暗殺者だったならば、私の命は既になかっただろうし。
「まあ、あの者達については、よく言って聞かせておきますよ。これに懲りて、足を洗うようにとね? 騎士団に顔も知られたことですし、いい機会ではあります。次に捕まったら、出られないということもわかってもらえたと思いますが……」
「私としても、できることなら再起してもらいたいのです」
「一応反省しているというか、始末されていたかもしれないという事実に気落ちしているようですが……」
ごろつき達は、それなりに落ち込んでいるのだろう。ナルゼスさんの口振りから、それはよくわかった。
それなら反省して、今後は真っ当に生きてもらいたいものである。本当に、取り返しがつかないことになる前に。
「それで、調査の方は明日から取り掛かることになりますよね? どれ程時間がかかりますか? 僕達としては、できることなら早く出発したいのですが」
「安全であると判断するまでには、一日は必要だと思います。お二人が出発できるのは、明後日ということになるでしょうね。場合によっては、もう少しかかるかもしれません」
セオドアからの質問に、ナルゼスさんは苦い顔をしていた。
騎士団の調査能力を持ってしても、ことは簡単ではないということなのだろう。優秀な暗殺者が相手ならば、それも仕方ないことだとはいえる。
しかし私は、とにかく早く帰りたい所だった。オーヴァン伯爵家のこと、スヴェルツのこと、色々と気になることがある。
「……アルティアさん、時間がかかる以上、こちらもできることはやっておくとしましょう。王家の方に、色々と掛け合ってみるのはどうですか?」
「王家に?」
「オーヴァン伯爵家のことは、当然王家にも知られていることでしょう。臨時として、伯爵を継いだあなたの力になってくれるのではありませんか?」
「それは……」
セオドアの言葉に、私は思い出す。そういえば王家からも、文書が届いていたということを。
私が臨時で伯爵を継いだということは、当然王家の認可を得てのことだ。若くして両親を亡くした私のことを、国王様は気にかけているとも。
ただそれも所謂、社交辞令なのではないだろうか。その辺りについては、よくわからない。
「確かに、陛下ならアルティア様の力になってくれることでしょう。オーヴァン伯爵家について、陛下が嘆いていたという話を聞いたことがあります」
「そうなのですか?」
「ええ、陛下は心優しい方ですからね。騎士団の一員でしかない私のことも、気にかけて下さっていたくらいです。若くして隊長になったことを褒めていただき、また心配してくださいました」
ナルゼスさんの言葉に、本当に国王様が力になってくれる可能性が浮上してきた。
もしもそうなったら、とても心強いものである。この国の最高権力者が力を貸してくれるのだから、心強いなんてものではないかもしれない。
「とはいえ、陛下は忙しい方ですから、明日すぐに話ができるという訳ではないかもしれません」
「それはそうですよね……まあでも、どの道カルシアとクーレリアの両名を追い出すためには、王家などにも話は通しておいた方が良いですから」
カルシアとクーレリアの二人をオーヴァン伯爵家から排除するためには、王家の認可なども必要ではあった。
今回の件も報告しておけば、王家も納得してくれることだろう。追い出す大義名分ができたことは、不幸中の幸いだったといえるかもしれない。




