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余命半年の私に財産なんて必要ないと継母と妹に父の遺産をとられましたが、それは普通に窃盗です。  作者: 木山楽斗


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3.婚約者の弟

「……セオドア?」

「……アルティアさん?」


 病院の受付まで来た私は、見知った顔を見つけて、少し驚くことになった。

 そこにいるのは、スヴェルツの双子の弟であるセオドアだ。何故彼がここにいるのだろうか。


 スヴェルツが帰ったということは、彼も帰っているはずなのだが。いやまだ、帰る準備ができていなかったということだろうか。


「セオドア、こんにちは」

「ええ、こんにちは……アルティアさん、診察は終わったのですか?」

「え? ええ、終わったわよ? スヴェルツとも会ったけれど、あなたも来てくれていたのね?」

「はい、アルティアさんのことが心配でしたからね……兄上と会ったのですか?」


 私は、セオドアと言葉を交わした。

 しかし彼は、なんというかぎこちない。まるで状況を理解していないかのようだった。

 いや、それは私も同じかもしれない。今の状況は、なんだか変だ。よくわからないけれど。


「セオドア、スヴェルツはどこに行ったのかしら? 私は彼と会ったわ。それで彼は、もう帰ると言っていたのだけれど」

「帰る? そうでしたか……しかし、こちらに兄上は来ていません」

「え? ああ、裏口の方から出て行ったのかしら?」


 セオドアは、病院の入り口の方に視線を向けていた。

 ただここには、もう一つ出入りできる所がある。状況からして、スヴェルツはそちらから出て行ったということだろう。


 だが彼は、ここで弟が待っていることを知っていたはずだ。

 それなのに、わざわざ別の出入り口から出るなんてことが、あるものだろうか。それはなんとも、ちぐはぐであるような気がする。


「……少し、様子を見てきます」

「あ、ええ……」


 私が疑問に思っていると、セオドアが少し早足で病院から出て行った。

 私はとりあえず、受付に会計のことを聞きに行く。どうやら、もう少し時間がかかるそうだ。


 そうしている内に、セオドアが戻ってきた。

 彼は険しい表情をしている。何かあったということだろう。


「セオドア、どうだったの?」

「馬車がありませんでした。使用人達もおらず、兄上は既に帰ったようですね……」

「あなたを置いて?」

「ええ、僕はどうやら、置いていかれたようです。非常に不可解なことではありますが……」


 セオドアは、苦虫をかみつぶしたような表情をしていた。

 それは当然のことだろう。彼は双子の兄に、置いていかれたのだから。


 しかし、スヴェルツがそうした理由がわからない。

 双子の弟に対する嫌がらせ、ということだろうか。二人は殊更、険悪な仲などではなかったと思うのだが。


「……まあ、置いていかれたというならば、私と一緒に帰ればいいわ。ゾーント伯爵家の屋敷は、道中であることだし、私も話し相手がいた方が良いもの」

「ありがとうございます。しかし問題は、兄上の行動の理由ですね。何故このようなことをしたのか、それがわかりません。つまり兄上は、僕に見つからず帰る必要があったということ、なのでしょうか?」

「それは、そうね? 何か怪しい気はするけれど……」


 セオドアの疑問に対して、私も首を傾げることしかできなかった。

 スヴェルツの行動は、本当に不可解なものである。セオドアに対するこの仕打ちには、当然何か理由があるものだとは思うのだが。

 しかし、それは皆目見当もつかなかった。状況から考えると、私との会話などが関係しているのかもしれないか。


「スヴェルツとは、二三会話を交わしただけだけれど……そう、彼は私の様子を見に来てくれたと言っていたわ。それから葬儀の手伝いのお礼だとか、ゾーント伯爵家が私の味方だとか、そういうことを言ってくれたけれど」

「アルティアさんとの会話で、何かおかしい所はなかったということですか?」

「ええ、特には……まあ、確かに急いで帰りたがっていた節はあるわね? それから私が診察室から出て来た時に、少し険しい顔をしていたような気もするわ」


 私は、スヴェルツのことを思い出していた。

 診察室から出て、私が話しかけるまでの間、彼は少し深刻な顔をしていた気がする。


 その後の会話は、特におかしなものではなかった。ただ彼が、できるだけ早く帰りがたかっていたということは確実だ。

 つまりスヴェルツは、私と会話する前から何か思い詰めるようなことがあって、それを理由に早く帰りたがっていたということになるだろうか。


「ここに来るまでの間、スヴェルツは思い詰めたりしていなかったのかしら?」

「そうですね。特に、そのような様子はなかったと思います。しかしそれなら、兄上はここに来てから、そうなるような事実を知ったということになりますね?」

「そうね……」

「……アルティアさん、そういえば診察の結果はどうだったのですか? まさか、何か悪い所があったとか?」

「え? ああ、いえ、健康だったわよ?」


 セオドアは、少し焦った様子で質問を投げかけてきた。

 その質問に、私は首を横に振る。検査の結果は悪いなんてことはない。むしろ私は、健康体であった。


 しかし、セオドアがその質問をしたということに意味がある。彼はスヴェルツが、私の診察に関する結果によって行動を起こしたと思った、ということなのだろう。


「そうでしたか……それなら良かった」

「スヴェルツが、私の健康状態によって何か行動を起こした、セオドアはそう考えた訳ね?」

「ええ、兄上が乱心するとしたら、そうかと思いまして」

「まあ、その可能性はない訳ではないわね。といっても、診察室はそれなりに防音だと思うけれど? 中のやり取りは、待合室でも聞こえるにしても、途切れ途切れ……で」

「アルティアさん?」


 セオドアに話している途中で、私はあることに気付いた。

 待合室では、診察室でのやり取りというものは、非常に中途半端に聞こえるものである。スヴェルツも、そうだったと考えるべきだろう。


 今日の診察において、私は先生と父のことを話していた。

 その内容が、スヴェルツに伝わっていたというならば、どうだろうか。途切れ途切れに聞こえるそれを、彼が私の診断であると思ったのならば。


「セオドア、可能性はあるかもしれないわ。スヴェルツは、先生との父に関する会話を、私のことだと思ったのかもしれない」

「なんですって?」

「でも、それにしたって、スヴェルツの行動は不可解なものね? 何を考えているのかしら?」


 スヴェルツの行動の理由、それはおぼろげながら見えてきた。

 ただそれでも、不可解な点は多い。彼は何を考えているのだろうか。

 ともあれ、私も早い所行動した方が良さそうだ。彼の勘違いが広まる前に動かなければ、面倒なことになりかねない。

最後までお読みいただきありがとうございます。


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