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余命半年の私に財産なんて必要ないと継母と妹に父の遺産をとられましたが、それは普通に窃盗です。  作者: 木山楽斗


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14.妹への糾弾

 私は、セオドアとともに王都の宝石店に足を運んでいた。そこに、クーレリアがいるという情報を掴んだからだ。

 両親の形見である指輪は、既に売り払われていた。クーレリアとスヴェルツは、それらを容赦なく換金したらしい。


 あの指輪には、宝石の類がついている。それなりの値段には、なったことだろう。

 もっとも、それだけで新たな宝石を変える訳ではない。クーレリアはあれ以外にも、色々なものを持ち出して、売り払ったようだ。


「……クーレリア」

「……あら?」


 宝石店にて、煌びやかな宝石に目を輝かせていたクーレリアは、私の呼びかけにその表情を歪める。

 彼女からすれば、お楽しみを邪魔されたといった所だろうか。不愉快そうな顔をしたクーレリアは、私の方を渋々といった感じで向く。


「お姉様ではありませんか? こんな所で何をなされているのです」

「あなたに、伝えたいことがあったから、ここに来たのよ」

「伝えたいこと? ふふっ、謝罪ですか? 今までお姉様は、私に散々無礼を働いてきましたものね? 死を目前にして、やっと省みることができましたか?」


 クーレリアは、私に対して下卑た笑みを向けてきた。

 本気でそう思っているのか、それとも煽っているのか、それはわからないが、今日もこの妹は調子が良さそうだ。


 カルシアもそうだが、どうしてそこまで人を見下せるものなのだろうか。私にはこの親子の感性というものが、よくわからなかった。

 いや、そんなものは理解する必要はないか。私はオーヴァン伯爵として、やるべきことをやるだけだ。


「あなたをオーヴァン伯爵家から追放するわ」

「……は? 何を言い出すかと思えば、そんなことが認められる訳がないでしょう。何の権利を持って、私を追い出すというのです?」

「あなたの行いは、オーヴァン伯爵家の評価を著しく落とすものよ。例えば、私の私物を勝手に売り払ったことなどは、窃盗にあたるわね?」

「何を言い出すかと思えば……どうせ、もう死ぬお姉様には必要ないものでしょう? それを私が有効活用しているだけです。何せ私達は、家族ですからね」


 クーレリアは、私のことを小馬鹿にするように笑みを浮かべていた。

 彼女は私の言葉を、負け惜しみの類だと思っているのかもしれない。そんなことは実現しないと、高を括っているのだ。

 その自信はどこから来るものなのだろうか。ことここに置いて、まだ自分が優位であるなどと思っているなんて。


「このような散財が、許されると思っているのかしら? 貴族というものは、ただ贅沢をするようなものではないのよ。あなたはまず、それがわかっていないようね?」

「……はっ! 馬鹿らしいことを。貴族の在り方なんて、お姉様に解かれなくてもわかっています。そんなことを言うために、ここに来たなんて、ご苦労なものですね」

「もっとも、あなたには最早、貴族であることも許されないけれど……カルシア――あなたの母親は、既に騎士団に捕まっているわ」

「……何を」


 カルシアのことを持ち出したからか、クーレリアの態度が少し変わった。

 彼女は、目を細めている。流石に気付いたのだろう。自分の周りに、騎士達がいるということに。


「何の権利を持って、お母様を捕まえたというのです。これは、これこそが権力の乱用というものではありませんか」

「私に対する暗殺の件は、既に露見しているわ。それから窃盗ね。あなたに一つ、教えておいてあげるわ。お父様はカルシアと結婚していなかったのよ。万が一の時に備えて、ね……」

「そんな、馬鹿な……」


 クーレリアは、目を丸めていた。

 彼女は不安そうに、周囲を見渡す。ただ、そんな彼女に手を差し伸べる者はいない。

 既に、彼女は追い詰められている。逃げ場などはない。もう終わりだ。


「ふ、ふざけないでください。どうして私が、このような扱いを……あり得ない、私はオーヴァン伯爵家を手に入れて……」

「それは……儚い夢だったわね。ただ、仮に私が亡くなった所で、あなたやカルシアがそうなれることはなかったと思うわ。あなた達は随分と、豪遊していたみたいだし、どの道どこかで破綻していたでしょうね。ああそれと、そもそも私の余命が半年というのは、デマよ?」

「な、なんですって……」

「スヴェルツが勘違いしていたのよ。まあ、信じるか信じないかは、あなたに任せるけれど」


 カルシアもクーレリアも、オーヴァン伯爵家を背負う器ではなかったといえる。

 少なくとも、この段階で豪遊している時点で無理な話だ。貴族の財源も無限ではない。確実にいつか破綻していただろう。彼女達の夢は、儚いものであった。


「い、嫌です。私は、手に入れるはずです。幸せな生活を……」

「……他人を踏みにじって、幸せを手に入れようなんて、そんなことを考えることが間違っていたのです。あなたもカルシアも、それから兄上も」

「はあ、はあ……」


 クーレリアは、激しく動揺しているようだった。今のセオドアの言葉も、彼女には届いていなかったかもしれない。

 ともあれ、これでオーヴァン伯爵家を蝕む者達は追い出せたといえる。とりあえずは一安心だ。もちろん、まだ色々とやることは残っているけれど。


「こんなの、あんまりです。せっかく、お母様とともに……あそこまでやったというのに」

「……それは私への暗殺、ということかしら? まあ確かに、あなた達はそれで一線を越えていたといえるかもしれないわね」

「あの男を亡き者にした時から、私達は幸せになると決まっていたはずなのに……」

「クーレリア? あなた、今何を……」


 クーレリアの言葉に、私の頭にはお父様のことが過ってきた。

 まさか二人に、そう考えたが、それはすぐに間違いであると気付いた。お父様の死の要因は、はっきりしている。病によって亡くなったことは、証明されている。


 そもそも、流石にその死に関わっているならば、私の短命を両親と同じなど煽ったりはしないか。いや、それはどちらとも言い切れることではないような気もする。

 しかし仮に、クーレリアが言ったのがお父様ではないとしたら、誰のことを言っているのだろうか。彼女とカルシアは、かつて誰かの命を奪っているということだろうか。


「クーレリア、どういうことかしら? この際だから、全て話しなさい。今更隠し事をした所で、無駄なことよ?」

「……父のことを知らないのですか?」

「父? それは……お父様ではなく、あなたの実の父親ということかしら?」

「ははっ、あの影の薄い男は、その死すら把握されていない訳ですか……ふふっ、あははっ、はあ……ううっ」


 クーレリアは、その場で項垂れていた。これ以上話をするのは無理そうだ。彼女は完全に、打ちのめされてしまっている。

 しかしどうやら、彼女の実の父親は手にかけられていたらしい。確か質の悪い男だったと聞いているが、彼は一体何者で、どうなったのだろうか。

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