14.妹への糾弾
私は、セオドアとともに王都の宝石店に足を運んでいた。そこに、クーレリアがいるという情報を掴んだからだ。
両親の形見である指輪は、既に売り払われていた。クーレリアとスヴェルツは、それらを容赦なく換金したらしい。
あの指輪には、宝石の類がついている。それなりの値段には、なったことだろう。
もっとも、それだけで新たな宝石を変える訳ではない。クーレリアはあれ以外にも、色々なものを持ち出して、売り払ったようだ。
「……クーレリア」
「……あら?」
宝石店にて、煌びやかな宝石に目を輝かせていたクーレリアは、私の呼びかけにその表情を歪める。
彼女からすれば、お楽しみを邪魔されたといった所だろうか。不愉快そうな顔をしたクーレリアは、私の方を渋々といった感じで向く。
「お姉様ではありませんか? こんな所で何をなされているのです」
「あなたに、伝えたいことがあったから、ここに来たのよ」
「伝えたいこと? ふふっ、謝罪ですか? 今までお姉様は、私に散々無礼を働いてきましたものね? 死を目前にして、やっと省みることができましたか?」
クーレリアは、私に対して下卑た笑みを向けてきた。
本気でそう思っているのか、それとも煽っているのか、それはわからないが、今日もこの妹は調子が良さそうだ。
カルシアもそうだが、どうしてそこまで人を見下せるものなのだろうか。私にはこの親子の感性というものが、よくわからなかった。
いや、そんなものは理解する必要はないか。私はオーヴァン伯爵として、やるべきことをやるだけだ。
「あなたをオーヴァン伯爵家から追放するわ」
「……は? 何を言い出すかと思えば、そんなことが認められる訳がないでしょう。何の権利を持って、私を追い出すというのです?」
「あなたの行いは、オーヴァン伯爵家の評価を著しく落とすものよ。例えば、私の私物を勝手に売り払ったことなどは、窃盗にあたるわね?」
「何を言い出すかと思えば……どうせ、もう死ぬお姉様には必要ないものでしょう? それを私が有効活用しているだけです。何せ私達は、家族ですからね」
クーレリアは、私のことを小馬鹿にするように笑みを浮かべていた。
彼女は私の言葉を、負け惜しみの類だと思っているのかもしれない。そんなことは実現しないと、高を括っているのだ。
その自信はどこから来るものなのだろうか。ことここに置いて、まだ自分が優位であるなどと思っているなんて。
「このような散財が、許されると思っているのかしら? 貴族というものは、ただ贅沢をするようなものではないのよ。あなたはまず、それがわかっていないようね?」
「……はっ! 馬鹿らしいことを。貴族の在り方なんて、お姉様に解かれなくてもわかっています。そんなことを言うために、ここに来たなんて、ご苦労なものですね」
「もっとも、あなたには最早、貴族であることも許されないけれど……カルシア――あなたの母親は、既に騎士団に捕まっているわ」
「……何を」
カルシアのことを持ち出したからか、クーレリアの態度が少し変わった。
彼女は、目を細めている。流石に気付いたのだろう。自分の周りに、騎士達がいるということに。
「何の権利を持って、お母様を捕まえたというのです。これは、これこそが権力の乱用というものではありませんか」
「私に対する暗殺の件は、既に露見しているわ。それから窃盗ね。あなたに一つ、教えておいてあげるわ。お父様はカルシアと結婚していなかったのよ。万が一の時に備えて、ね……」
「そんな、馬鹿な……」
クーレリアは、目を丸めていた。
彼女は不安そうに、周囲を見渡す。ただ、そんな彼女に手を差し伸べる者はいない。
既に、彼女は追い詰められている。逃げ場などはない。もう終わりだ。
「ふ、ふざけないでください。どうして私が、このような扱いを……あり得ない、私はオーヴァン伯爵家を手に入れて……」
「それは……儚い夢だったわね。ただ、仮に私が亡くなった所で、あなたやカルシアがそうなれることはなかったと思うわ。あなた達は随分と、豪遊していたみたいだし、どの道どこかで破綻していたでしょうね。ああそれと、そもそも私の余命が半年というのは、デマよ?」
「な、なんですって……」
「スヴェルツが勘違いしていたのよ。まあ、信じるか信じないかは、あなたに任せるけれど」
カルシアもクーレリアも、オーヴァン伯爵家を背負う器ではなかったといえる。
少なくとも、この段階で豪遊している時点で無理な話だ。貴族の財源も無限ではない。確実にいつか破綻していただろう。彼女達の夢は、儚いものであった。
「い、嫌です。私は、手に入れるはずです。幸せな生活を……」
「……他人を踏みにじって、幸せを手に入れようなんて、そんなことを考えることが間違っていたのです。あなたもカルシアも、それから兄上も」
「はあ、はあ……」
クーレリアは、激しく動揺しているようだった。今のセオドアの言葉も、彼女には届いていなかったかもしれない。
ともあれ、これでオーヴァン伯爵家を蝕む者達は追い出せたといえる。とりあえずは一安心だ。もちろん、まだ色々とやることは残っているけれど。
「こんなの、あんまりです。せっかく、お母様とともに……あそこまでやったというのに」
「……それは私への暗殺、ということかしら? まあ確かに、あなた達はそれで一線を越えていたといえるかもしれないわね」
「あの男を亡き者にした時から、私達は幸せになると決まっていたはずなのに……」
「クーレリア? あなた、今何を……」
クーレリアの言葉に、私の頭にはお父様のことが過ってきた。
まさか二人に、そう考えたが、それはすぐに間違いであると気付いた。お父様の死の要因は、はっきりしている。病によって亡くなったことは、証明されている。
そもそも、流石にその死に関わっているならば、私の短命を両親と同じなど煽ったりはしないか。いや、それはどちらとも言い切れることではないような気もする。
しかし仮に、クーレリアが言ったのがお父様ではないとしたら、誰のことを言っているのだろうか。彼女とカルシアは、かつて誰かの命を奪っているということだろうか。
「クーレリア、どういうことかしら? この際だから、全て話しなさい。今更隠し事をした所で、無駄なことよ?」
「……父のことを知らないのですか?」
「父? それは……お父様ではなく、あなたの実の父親ということかしら?」
「ははっ、あの影の薄い男は、その死すら把握されていない訳ですか……ふふっ、あははっ、はあ……ううっ」
クーレリアは、その場で項垂れていた。これ以上話をするのは無理そうだ。彼女は完全に、打ちのめされてしまっている。
しかしどうやら、彼女の実の父親は手にかけられていたらしい。確か質の悪い男だったと聞いているが、彼は一体何者で、どうなったのだろうか。




