13.王都に向かって
オーヴァン伯爵家の当主の執務室は、随分と荒らされていた。
それだけではない。オーヴァン伯爵家の中身も、かなり荒らされているといえる。資金などの面で、かなり手痛い打撃を受けていたのだ。
「まさか、これ程までに好き勝手にしているとは、思っていなかったわ」
「そうですね。予想以上です。というよりも、これだけ短期間にお金を使っておいて、本当に今後のことを考えていたのでしょうか?」
カルシアとクーレリアの金遣いというものは、荒いというか、度を越していた。
これでは仮にオーヴァン伯爵家を手に入れても、早々に破綻していたのではないだろうか。そう思わせる程に、後先考えていない浪費であった。
この補填というものは、それなりに難しい。とりあえず、彼女達が買った衣服や宝石などの類は売り払うとしようか。
それでどれだけ取り返せるかはわからないが、どの道この家には必要がないものだ。
「アルティアさんの私物や、お父上から受け継いだ遺産などにも手はつけられているのでしょう? それは、大丈夫なのですか? 心情的にも、売り払われたくないものは多々あったでしょう?」
「まあ、そうだけれど、それはこの際気にしないわ。それよりも今は、問題を解決しなければならないもの。クーレリアとスヴェルツ、あの二人を止めないと」
私はセオドアとともに、王都の方に向かっていた。
あの二人についても、対処しなければならない。これ以上好き勝手されると、単純に困る。
カルシアの方は、騎士団の方で捕らえられることになった。
彼女の罪は、これから糾弾される。当然のことながら、許しはしない。オーヴァン伯爵家に泥を塗った彼女には、然るべき罰を受けてもらわなければならない。
それはクーレリアも同じだ。場合によっては、スヴェルツもそうなる。
「スヴェルツについて、ゾーント伯爵家は既に対処しているのよね?」
「ええ、兄上に関しては家から追放されることになっています。その手続きというものには、もう少し時間がかかるとは思いますが、その辺りには父上や兄上が上手くやるでしょう」
「彼も泥船に乗ったものね」
「まあ、自業自得ですからね。その点について、同情する気持ちはありません」
セオドアは、スヴェルツに対してなんとも冷たかった。
それだけ兄への失望が、大きかったということなのだろう。その心中というものは、察するに余りある。
「……所で、ずっと気になっていたことがあるのですが」
「気になっていたこと? 何かしら?」
「アルティアさんはその、僕の顔を見ても何も思われないのですか? 兄上とよく似ている所か、そっくりだと思うのですが……」
「え? ああ……」
そこでセオドアが、少し遠慮がちに質問を投げかけてきた。
彼は先程までとは打って変わって、なんとも弱気な態度であった。
しかしセオドアにとっては、かなり悩ましいことではあるのだろう。それがその表情から伝わってきた。
「それは別に、なんとも思わないわね。あなたとスヴェルツの顔は、確かにそっくりだけれど、私からしてみれば、全然違うものだもの」
「そういうものでしょうか?」
「これでも長い付き合いだもの。今更、同じ顔なんて思わないわ」
スヴェルツとセオドアとは、もう長い付き合いだった。
二人のことは、よく知っている。いや、スヴェルツがこんなことをするとは思えなかったので、そこまで知っていた訳ではないか。
しかし少なくとも、顔を間違えるなどということはない。それは断言できる。
そんなものは、付き合う上で初歩の初歩の段階だ。セオドアの心配は、なんとも今更なものである。
「まあ、そうね。あなたの方が格好良いのではないかしら? ああ、でもこれは、外見というよりも中身の問題ね?」
「それは……」
「……ああいや、私は何を言っているのかしらね?」
私はなんだか、変なことを口走っていた。
だがそれは今の私の素直な気持ちであった。セオドアが傍にいてくれたことで、今回は本当に助かったものだから。
だから彼のことが、スヴェルツよりも格段に格好良く思えていた。しかしそれを本人に言うなんて、どうかしている。
「……褒めていただけるのは、光栄に思います」
「……まあ、それはいいとして、そういえば、カルシアのことだけれど、彼女にも色々とあったものなのよね?」
「ええ、そうですね……」
気恥しくなった私は、強引に話を変えた。
それは実の所、気になっていることではあった。カルシアの過去、それもボルガー公爵からよく聞いている。
「質の悪い男と結婚して、かなり荒れた生活を送っていたそうだから、そのことが原因で歪んだということかしらね?」
「まあ、そうなのかもしれません。だからといって、アルティアさんやオーヴァン伯爵家に危害を加えていいということには、なりませんが」
「まあ、私としては同情の気持ちはないわね。でも、お父様やボルガー公爵などからすれば、それは再起を願うに十分な理由だったのかもしれないわ」
カルシアの過去について、同情できる点はない訳ではなかった。
もちろん、私はそのことで彼女に対する罰を軽くしようなんて、思わないけれど。
「まあ、その辺りについてはまだ不透明な部分も多いようですから、あまり考えても仕方ないことではありませんか? カルシアがどのような扱いを受けていたのか、それなりの昔のことでよくわからないようですし……」
「そうね。まあ、ボルガー公爵も今回の件で、その辺りについて、詳しく操作するつもりのようだし、それで何かわかるかしら?」
「そもそも、アルティアさんのお父上は、仮に過去に同情できる点がなくても、カルシアの再起を願うのではありませんか?」
「……言われてみれば、確かにそうかもしれないわね」
お父様は、どこまでも優しい人だった。
少し優し過ぎたといっても、過言ではない。結果として、カルシアのような悪逆を受け入れたのは、失敗だったといえるだろう。
しかしお父様のそういった一面に、私は救われてきた面もある。お母様を亡くしてからも、前向きでいられたのは、間違いなくお父様がいてくれたからだ。
だから私は、今回の事態を収拾するとしよう。それはお父様への恩返しであり、オーヴァン伯爵家を新たに背負う者としての義務だ。




