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余命半年の私に財産なんて必要ないと継母と妹に父の遺産をとられましたが、それは普通に窃盗です。  作者: 木山楽斗


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10/16

10.公爵の来訪

 ゾーント伯爵家の屋敷の一室で、私はセオドアと作戦会議を行っていた。

 カルシアとクーレリアの手は、少なくともオーヴァン伯爵家の屋敷の使用人にも及んでいる。そのため、こちらで準備をする方が安全だということになった。


 それは私にとっては、中々に恐ろしいものだった。

 お父様の死に目に立ち会った中にも、私を排除しようと画策していた人がいた。その事実は、やはり辛いものだ。


「しかしそれでも、私はオーヴァン伯爵家に戻らなければならないわね」

「……そうですね。その必要はあると思います」

「まあ、敵だけではないと思いたいものだけれど……」


 ゾーント伯爵家の屋敷で一晩を明かした後、私はオーヴァン伯爵家の屋敷に戻るつもりだ。

 あそこをカルシアやクーレリアに好きなようにさせる訳にはいかない。そもそも、伯爵としての業務などもある。


「僕も同行しますよ」

「セオドア、それは……」

「兄上の愚かなる行いに対する償い、ということもありますが、それだけではありません。幼馴染ともいえるあなたを脅かす者が、僕は許せない。スヴェルツ兄上も、その気持ちは同じだと思っていましたが……」


 セオドアは、彼にしては珍しくその表情を強張らせていた。

 温厚な彼が、ここまで怒るなんて珍しい。スヴェルツの行い、それが余程頭にきているのだろうか。


 ともあれ、セオドアの気持ちというものは嬉しいものだった。

 彼という味方がいてくれることは、本当に心強い。今回の件の始まりから、彼が隣にいてくれてよかった。


「セオドア、ありがとう。あなたのその気持ちが、私は嬉しいわ」

「……いえ、僕は当然のことをしているまでです」

「当然のこと、ね。まあ、あなたは真面目だから、そう言うのでしょうけれど……」

「とにかく、オーヴァン伯爵家の屋敷に戻るなら、色々と対策はしておきましょう。ナルゼスさん達にも同行してもらった方が良さそうです」

「家に帰るというのに、危険があるかもしれないと思わなければならないのは、億劫なものね」


 私の余命が半年であると勘違いしているとはいえ、カルシアやクーレリアの手の者が私の命を狙ってこないとも限らない。

 となれば、こちらは身の安全を守るために、万全の対策を講じておかなければならないだろう。なんというか、非常に頭が痛くなる問題だ。


「……セオドア様、アルティア様、失礼致します!」

「……おや、なんでしょうか? 入ってください」


 私達が色々と考えていると、部屋の戸が叩かれた。

 それは使用人からの呼びかけ、だろう。しかしその声色は、なんとも焦ったようなものだった。何か問題でも、起きたのだろうか。


「談笑中、申し訳ありません」

「謝罪は結構です。それよりも、報告してください。何があったのですか?」

「来客です。それがその、ボルガー公爵が……」

「ボルガー公爵? それは……」


 使用人の焦ったような言葉に、私とセオドアは顔を見合わせることになった。

 カルシアと父を結び付けたというボルガー公爵、彼がゾーント伯爵家に来訪するなんて、それはどういうことだろうか。


 あまり良いことが起こるとは思えない。牽制にしに来た、ということだろうか。

 国王様は、彼のことを止められなかったようだ。結局の所、弟には持ち前の甘さを発揮してしまったのだろうか。


「きゅ、急な来訪ということで、困っていまして、えっと、アルティア様を……」

「……それ以上の説明は、必要ないぞ? 後は私から説明するとしよう」


 焦っている使用人が必死で説明している中、声が響いてきた。

 その直後に、部屋の中に大柄の男性が入ってくる。彼はボルガー公爵だ。どうやら、強引に乗り込んできたらしい。

 それも口振りからして、目的は私のようだ。しかし一体、何をしに来たのだろうか。


「……ボルガー公爵、なんとも横暴な訪問ですね?」

「何を言われようとも構わない。しかし私としては、早急に動かなければならないものでな」

「それは、カルシアとクーレリアに関することですか? あなたともあろう方が、わざわざ出張ってくるなんて驚きです」


 セオドアは、私を庇うように前に立っていた。

 彼はボルガー公爵を睨みつけている。国王様とは違い、強面なボルガー伯爵にも怯んではいないようだ。


 だが、相手が悪いともいえる。王弟の公爵、その権力というものは絶大だ。このような無礼な行いも、許されるくらいには。


「セオドア伯爵令息、君は何か勘違いしているようだな? まあ良い。私はその誤解を解くために、ここまでやって来た」

「勘違い、ですか? しかし、あなたにとってあの二人は大切な人達なのではありませんか? オーヴァン伯爵との縁談をまとめたと聞いています」

「大切な人達か。そう言われると、どう答えて良いものかはわからないものだな。気にかけていたことは、事実ではあるが」


 セオドアの言葉に、ボルガー公爵は答える。ただ彼は、どうにも歯切れが悪い。何か、事情というものがありそうだ。

 もちろん演技という可能性もあるが、彼程の権力者がわざわざ私達を騙すだろうか。そのような必要はないように思える。


「ボルガー公爵、つまりあなたは今回の件について、カルシアとクーレリアを助けるために来た訳ではないということですか?」

「アルティア嬢……今はオーヴァン伯爵と呼ぶべきか。それはその通りだ。私はあの二人を助けようとは思っていない。もちろん、場合によってはそれも考えられたが、あの二人の行いというものは、ゾーント伯爵からよく聞かされている」

「父上と、既に話を? なるほど、これは非礼を詫びなければなりませんね」

「必要ない。無礼な訪問であることは、明白だからな」


 ボルガー公爵は、セオドアの言葉に首をゆっくりと横に振った。

 どうやら彼は、敵という訳ではないらしい。少なくともこの場で、ことを構えようという感じではなさそうだ。


 そういうことなら、話を聞いておいた方が良いのかもしれない。

 カルシアとクーレリアのことを知ることは、今回の件への対処に役立つかもしれないし。

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