第92話 後夜祭
文化祭二日目。
そして。
後夜祭の日。
夕方。
校舎の外は、もう少し暗くなり始めていた。
昼間の賑やかさとは違う。
どこか“終わり”の空気が漂っている。
でも。
その空気が逆に特別だった。
「終わったー!」
藤堂が教室で叫ぶ。
「疲れた……」
倉田は完全に燃え尽きていた。
クラスのみんなも、かなり疲れている。
でも。
全員どこか楽しそうだった。
文化祭が成功した空気。
それが教室に残っている。
「みなと」
声。
振り向く。
栞。
今日は少し髪が乱れていた。
でも。
その感じすら、妙に綺麗だった。
「お疲れ」
栞が笑う。
「そっちも」
二人で少し笑う。
その空気が、かなり落ち着く。
「後夜祭どうする?」
藤堂が聞いてくる。
「体育館行く?」
「まあ」
適当に返す。
でも。
実際ちょっと楽しみだった。
文化祭の最後。
後夜祭。
完全に“青春イベント”って感じがする。
片付けが終わる。
外はもう夜だった。
校庭にはライトがついている。
秋の夜風。
少し冷たい空気。
でも。
学校の中だけ、まだ熱が残っていた。
体育館。
音楽。
騒がしい声。
みんなテンションが高い。
「すげぇ」
湊が小さく呟く。
「文化祭の最後って感じ」
栞も少し笑った。
体育館の中はかなり暑い。
でも。
その空気が妙に楽しかった。
クラスの奴らが騒いでる。
写真を撮ってる人。
踊ってる人。
その全部が、“高校生活”って感じだった。
「みなと」
「ん?」
「ちょっと外行こ」
栞が小さい声で言う。
「うん」
体育館を抜ける。
廊下。
急に静かになる。
遠くから音楽だけが聞こえてくる。
その感じが、かなり好きだった。
校舎裏。
夜風。
少し冷たい空気。
「涼しい」
栞が小さく息を吐く。
「生き返る」
二人で少し笑う。
校庭のライトが遠くに見える。
後夜祭の音も、少しだけ遠い。
その空間だけ、別みたいだった。
「ねえ」
栞が小さく言う。
「ん?」
「文化祭終わっちゃったね」
その声は、少し寂しそうだった。
湊は少し夜空を見る。
たしかに。
準備してた時間も含めて、かなり楽しかった。
毎日放課後に残って。
一緒に買い出し行って。
写真撮って。
全部、特別だった。
「……でも楽しかった」
自然にそう言っていた。
栞は少し笑った。
「かなり?」
「かなり」
その瞬間。
栞が吹き出した。
「ほんと好きだね、それ」
「便利だから」
「でも分かる」
風が吹く。
栞の髪が揺れる。
夜の匂い。
秋の空気。
その全部が、静かに流れていく。
「みなと」
「ん?」
栞が少しだけこちらを見る。
かなり優しい目だった。
「今年の文化祭、みなととだったから楽しかった」
その言葉が、真っ直ぐ胸へ入ってくる。
湊は少しだけ息を吐く。
それから、小さく笑った。
「……俺も」
本当に。
好きな人がいるだけで、学校行事ってこんなに変わるんだと思った。
少し沈黙。
でも。
その静けさが心地いい。
遠くから聞こえる音楽。
夜風。
好きな人。
その全部が、かなり愛しかった。
「ねえ」
栞が小さく言う。
「ん?」
「後夜祭って、なんか特別だね」
その声が、かなり柔らかい。
湊は少し校庭を見る。
ライト。
笑い声。
夜の学校。
たしかに。
普段とは全然違う。
「青春っぽい」
湊が言う。
すると。
栞が少し目を丸くした。
「みなとがそれ言うんだ」
「たまには」
二人で少し笑う。
その空気が、かなり好きだった。
「みなと」
「ん?」
栞が少しだけ近づく。
かなり近い。
夜の光の中で、その目が少し揺れていた。
「今日、ずっと一緒にいたかった」
小さい声。
でも。
ちゃんと胸へ届く。
湊は少しだけ息を止める。
それから。
ゆっくり栞の手を握った。
栞も、自然に握り返してくれる。
夜風。
音楽。
秋の空。
その全部が、ゆっくり流れていく。
「……今いるだろ」
湊が小さく言う。
すると。
栞が少し笑った。
かなり嬉しそうだった。
「うん」
その笑顔が、本当に綺麗だった。
体育館へ戻る時間。
でも。
二人とも少しだけ動かなかった。
「ねえ」
栞が小さく言う。
「ん?」
「来年の文化祭も、こうして一緒にいたい」
その言葉が、静かに胸へ沁みる。
湊は少し夜空を見る。
秋の星。
遠くの音楽。
好きな人。
その全部が、今は特別だった。
「……かなり」
そう返すと、栞は声を出して笑った。
そして。
その笑い声が、夜の空気へ優しく溶けていった。




