第93話 増える“思い出”
十月。
文化祭が終わって数日。
放課後。
教室には、まだ少しだけ文化祭の余韻が残っていた。
外し忘れた小さい飾り。
黒板の端に残っているイラスト。
写真を見返して騒いでる奴ら。
その全部が、“終わったばかり”って感じだった。
「文化祭ロスだわー」
藤堂が机へ突っ伏す。
「分かる」
倉田も珍しく同意していた。
「まだ後夜祭の動画見てる」
「お前それ三回目」
かなり騒がしい。
でも。
その空気が嫌じゃなかった。
「みなと」
栞が小さく呼ぶ。
「ん?」
「あとで写真送る」
その瞬間。
少しだけ胸が熱くなる。
文化祭の写真。
あの日の空気が、全部詰まってる気がした。
「……楽しみ」
自然にそう返していた。
すると。
栞が少しだけ嬉しそうに笑った。
授業。
窓の外。
秋の空。
少し高い青。
夏とは違う風。
でも。
胸の奥には、まだ文化祭の熱が残っていた。
放課後。
今日は珍しく、二人で図書室へ寄ることになった。
理由は、“静かだから”。
でも、多分。
ただ一緒にいたかっただけだ。
図書室。
静か。
ページをめくる音だけが聞こえる。
夕方の光が、窓から柔らかく入っていた。
「落ち着く」
栞が小さく言う。
「分かる」
向かい合って座る。
本を開く。
……でも。
数分後には、普通に喋っていた。
「みなと」
「ん?」
「これ」
栞がスマホを見せてくる。
文化祭の写真。
執事服の湊。
その横で笑ってる栞。
夕方の教室で撮った写真。
中庭。
喫茶店。
色んな景色が詰まっていた。
「……うわ」
思わず声が出る。
「いっぱい撮ったね」
栞が笑う。
その声が、かなり柔らかい。
写真を見返す。
その瞬間。
あの日の空気が、ちゃんと戻ってくる。
騒がしい教室。
秋の風。
文化祭の音。
全部。
「この時、めっちゃ疲れてた」
栞が一枚を指差す。
「顔死んでる」
「栞も」
「ほんとだ」
二人で小さく笑う。
図書室だから、かなり静かに。
でも。
その空気が心地いい。
「ねえ」
栞が小さく言う。
「ん?」
「この写真好き」
見せてきたのは、後夜祭の時に撮った写真だった。
夜の校庭。
少し暗い。
でも。
二人ともかなり自然に笑っている。
「……いいな」
湊が言う。
すると。
栞が少しこちらを見る。
「なんかさ」
「ん?」
「ちゃんと“思い出”って感じする」
その言葉が、静かに胸へ落ちる。
たしかに。
文化祭は、もう終わった。
でも。
こうして写真になると、“残る”んだと思った。
「みなと」
「ん?」
栞が少しだけ照れながら笑う。
「みなと、写真だと結構優しい顔してる」
その瞬間。
湊は少し止まる。
「……そうか?」
「うん」
栞はスマホを見ながら続ける。
「私見てる時の顔」
かなり心臓に悪い。
「……見んなよ」
「私が撮ったし」
かなり楽しそうだった。
図書室。
夕方。
静かな空気。
でも。
胸の奥は、少しだけ熱い。
「ねえ」
栞が小さく言う。
「ん?」
「これからも、いっぱい写真増えるかな」
その言葉に、湊は少し窓の外を見る。
秋の夕焼け。
少し冷たい風。
この先。
冬も来る。
クリスマスもある。
卒業までも、まだ長い。
その全部に、栞がいる気がした。
「……増えるだろ」
自然にそう返していた。
すると。
栞が少しだけ目を細める。
かなり嬉しそうだった。
「よかった」
その笑顔を見るだけで、胸の奥がじんわり温かくなる。
帰り道。
夕方から夜へ変わる空。
少し冷たい風。
「今日、秋って感じ」
栞が言う。
「文化祭終わったからかもな」
「それある」
二人で少し笑う。
その空気が、かなり好きだった。
駅へ向かう途中。
栞が小さくスマホを見せてくる。
「これ、待ち受けにしようかな」
後夜祭の時の写真だった。
二人で並んで笑ってるやつ。
「……恥ずかしくない?」
湊が聞く。
すると。
栞は少し笑った。
「でも好きだから」
その言葉が、真っ直ぐ胸へ入ってくる。
秋の夜風。
街灯。
好きな人。
その全部が、静かに胸へ残った。
「みなと」
「ん?」
栞が少し照れながら笑う。
「今年、まだまだ思い出増やそうね」
その言葉に、湊も少し笑った。
「……かなり」
またその言葉。
でも。
今はそれだけで、ちゃんと気持ちが伝わる気がした。




