第91話 文化祭のあと
文化祭一日目終了後。
夕方。
学校の中は、まだ少しだけ騒がしかった。
片付けをしているクラス。
写真を撮っている人たち。
廊下のあちこちから笑い声が聞こえる。
でも。
昼間より空気は少し落ち着いていた。
窓の外。
夕焼け。
秋のオレンジ色が、校舎を染めている。
「疲れたー……」
藤堂が机へ突っ伏す。
「足痛い」
倉田もかなり死んだ顔だった。
でも。
二人とも、かなり楽しそうだった。
「文化祭って感じだったな」
三橋が珍しく少し笑う。
その言葉に、教室のみんなも頷いた。
本当に。
“文化祭”って感じの一日だった。
「みなと」
声。
振り向く。
栞。
まだ衣装姿。
夕方の光の中で、その姿がかなり綺麗だった。
「片付け終わった?」
「今終わった」
「そっか」
少し笑う。
その空気が、かなり落ち着く。
「朝比奈ー」
藤堂がニヤつきながら近づいてくる。
嫌な予感。
「今日ずっと雨宮さん見てたろ」
「お前もだろ」
「俺は文化祭を見てた」
「嘘つけ」
教室に少し笑いが起きる。
すると。
栞が少し照れながら呟いた。
「……私は見てた」
その瞬間。
湊は少し止まる。
「何を」
聞き返す。
栞は少しだけこちらを見る。
それから。
かなり自然に言った。
「みなと」
教室の空気が、一瞬止まった気がした。
「うわー」
藤堂がかなり楽しそうに騒ぐ。
「聞いたか今!?」
「うるさい」
でも。
栞が少し笑ってるから、悪い気はしなかった。
片付けが終わる。
人も少しずつ帰り始める。
外はもう夕方から夜へ変わり始めていた。
「帰る?」
栞が聞く。
「うん」
二人で教室を出る。
廊下。
文化祭の飾り。
少し静かになった校舎。
昼間の熱気が嘘みたいだった。
「なんか寂しいね」
栞が小さく言う。
「まだ明日もあるだろ」
「でも、一日目終わった」
その声が少しだけ寂しそうだった。
階段を下りる。
窓の外。
夕焼け。
秋の空。
その景色が、かなり綺麗だった。
「みなと」
「ん?」
「今日、楽しかった?」
その質問に、湊は少し笑う。
「かなり」
即答だった。
すると。
栞も少し笑う。
「私も」
その顔を見るだけで、胸の奥が温かくなる。
昇降口。
外へ出る。
秋の夜風。
昼間よりかなり涼しい。
「生き返る」
栞が小さく息を吐く。
「教室暑すぎた」
「人多かったし」
文化祭帰りの生徒たち。
笑い声。
写真。
その全部が、“青春”って感じだった。
駅までの道。
夜。
街灯。
少し疲れた空気。
でも。
かなり心地いい疲れだった。
「ねえ」
栞が小さく言う。
「ん?」
「執事服、ほんと似合ってた」
その瞬間。
湊は少しだけ空を見る。
「……まだ言うのか」
「だってほんとだったし」
栞はかなり嬉しそうだった。
「女子、結構見てた」
「やめろ」
「ちょっと嫌だった」
その言葉に、湊は少し止まる。
栞は前を向いたまま続けた。
「なんか、取られそうで」
かなり小さい声。
でも。
ちゃんと聞こえた。
胸の奥が、じんわり熱くなる。
「……取られないだろ」
自然にそう返していた。
すると。
栞が少しだけこちらを見る。
「ほんと?」
かなり真っ直ぐな目だった。
湊は少し笑う。
「栞いるし」
その瞬間。
栞が止まる。
それから。
かなり顔を赤くしながら笑った。
「……そういうの反則」
「栞も言うだろ」
「私はいいの」
かなり理不尽だった。
でも。
そのやり取りが、かなり好きだった。
少し沈黙。
でも。
その静けさが心地いい。
文化祭帰りの夜。
秋の風。
好きな人。
その全部が、妙に愛しかった。
「みなと」
「ん?」
栞が少しだけこちらへ近づく。
肩が軽く触れる。
「今日、いっぱい写真撮れてよかった」
その声が、かなり柔らかい。
スマホの中。
文化祭の写真。
笑ってる栞。
並んで撮った写真。
その全部が、もう大事だった。
「……あとで送って」
湊が言う。
すると。
栞は少し笑った。
「いっぱい送る」
駅が見えてくる。
夜のホーム。
電車の音。
「明日で終わりか」
湊が小さく言う。
すると。
栞は少しだけ笑った。
「じゃあ明日も、いっぱい楽しも」
その言葉が、静かに胸へ沁みる。
湊は少しだけ空を見る。
秋の夜空。
その景色を見ながら、小さく笑った。
「……かなり」
またその言葉。
でも。
今の自分たちには、それが一番しっくりきていた。




