↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『普通の恋が、したかった。』  作者: vastum


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
86/92

第86話 少しだけ秋

九月中旬。


朝。


空は高かった。


夏みたいな強い青じゃない。


少しだけ柔らかい色。


風も、前より涼しくなっていた。


朝比奈湊は駅までの道を歩きながら、小さく息を吐く。


「涼しい」


思わず呟く。


九月に入ってから、空気が少しずつ変わってきていた。


セミの声も減った。


代わりに、夜は鈴虫の声が聞こえる。


夏が終わっていく。


そんな感じがした。


「みなと」


声。


振り向く。


栞。


制服。


今日は髪を軽く巻いていた。


そのせいか、少し大人っぽく見える。


「おはよう」


栞が笑う。


「おはよう」


並んで歩く。


朝の風。


少し冷たい空気。


その全部が、前より心地よかった。


「今日、秋っぽいね」


栞が空を見る。


「ちょっとだけな」


「夏終わっちゃった」


その言葉に、湊は少しだけ空を見る。


たしかに。


今年の夏は、かなり特別だった。


海。


花火。


夜の散歩。


全部、ちゃんと覚えている。


でも。


終わったからって、寂しいだけじゃなかった。


「でも、今も好き」


湊が言う。


栞は少しだけこちらを見る。


「秋?」


「……栞といる時間」


反射みたいに出た。


言ったあとで、少し照れる。


でも。


栞は数秒止まってから、かなり嬉しそうに笑った。


「朝からずるい」


その顔が、かなり愛しかった。


教室。


朝。


窓が開いている。


前より風が気持ちいい。


「エアコンなくても平気じゃね?」


藤堂が言う。


「神」


倉田もかなり元気だった。


夏の終わり。


学校の空気も少し変わっていた。


文化祭準備の話も少しずつ出始めている。


「二学期って感じ」


栞が小さく言う。


「分かる」


去年までなら、何も思わなかった景色。


でも今は。


教室も。


放課後も。


全部特別に見える。


昼休み。


今日は珍しく、二人で中庭へ出た。


ベンチ。


少し涼しい風。


空も高い。


「気持ちいい」


栞が小さく息を吐く。


「秋好き?」


湊が聞く。


栞は少し考える。


「好きかも」


「なんで?」


「夏より静かだから」


その返しが、なんか栞らしかった。


「みなとは?」


「好き」


「理由は?」


湊は少しだけ空を見る。


それから。


「放課後綺麗だから」


そう言うと、栞は少し笑った。


「それ、みなとっぽい」


かなり意味分からない。


でも。


栞が楽しそうだからよかった。


風が吹く。


栞の髪が少し揺れる。


その瞬間。


ふわっと甘い匂いがした。


「……なんか違う」


思わず言う。


「ん?」


「匂い」


その瞬間。


栞が少し止まる。


それから。


かなり照れながら笑った。


「変えた」


「シャンプー?」


「うん」


かなり嬉しそうな顔。


「分かった?」


「なんとなく」


すると。


栞は少しだけ俯く。


耳が赤い。


「……ちょっと嬉しい」


その反応が、かなりずるい。


放課後。


夕方。


教室には、秋っぽい光が入っていた。


夏より少し柔らかいオレンジ。


「帰ろ」


栞が言う。


「うん」


昇降口。


外へ出る。


風が気持ちいい。


「今日ほんと涼しい」


栞が言う。


「夜寒そう」


「もう秋だね」


駅までの道。


夕焼け。


少し長くなった影。


その景色が、かなり綺麗だった。


「ねえ」


栞が小さく言う。


「ん?」


「季節変わっても、ちゃんと隣いるの不思議」


その言葉が、静かに胸へ落ちる。


夏が始まる頃。


こんな未来、想像してなかった。


でも今は。


それが当たり前みたいになっている。


「……これからもいるだろ」


自然にそう返していた。


栞は少しだけこちらを見る。


かなり優しい目だった。


「うん」


小さい声。


でも。


かなり嬉しそうだった。


少し沈黙。


でも。


その静けさが心地いい。


秋に近づく風。


夕焼け。


好きな人。


その全部が、ゆっくり流れていく。


「みなと」


「ん?」


栞が少しだけ笑う。


「最近、もっと好きになってる」


その言葉に、胸の奥がじんわり熱くなる。


湊は少しだけ空を見る。


それから。


小さく笑った。


「……俺も」


本当に。


季節が変わるたび。


隣にいる栞を、また好きになっている気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。