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『普通の恋が、したかった。』  作者: vastum


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第48話 日曜日、待ち合わせ

日曜日。


朝。


朝比奈湊は、珍しくかなり早く目が覚めた。


スマホを見る。


まだ七時過ぎ。


待ち合わせは十時。


なのに、もう眠れそうになかった。


理由は分かっている。


遊園地。


栞と二人。


そして昨日の最後。


『遊園地って、デートっぽいね』


あの一言が、まだ頭から離れない。


湊はベッドへ仰向けになりながら、大きく息を吐いた。


落ち着かない。


かなり。


でも。


嫌な緊張じゃなかった。


むしろ、ずっと楽しみにしていた。


結局、かなり早めに家を出る。


駅前。


日曜の朝だからか、人はそこそこ多い。


家族連れ。


カップル。


友達同士。


その中で、湊は改札前の時計を何度も見ていた。


まだ十分前。


でも。


「湊」


声。


振り向く。


栞だった。


その瞬間、湊は一瞬止まる。


私服。


白い薄手のトップスに、淡い色のスカート。


派手じゃない。


でも、すごく自然で。


すごく栞っぽかった。


「……おはよう」


やっとそれだけ言う。


栞が少し笑った。


「おはよう」


それから。


「今日も反応遅い」


完全に読まれている。


湊は少しだけ視線を逸らした。


「いや」


「また見てた」


「……私服、なんか新鮮」


そう言うと、栞は少しだけ目を細めた。


「ありがと」


その笑顔が、朝からかなり心臓に悪い。


「湊も」


「ん?」


「なんかちゃんとしてる」


「なんかって何」


「デートっぽい」


その瞬間、また心臓が跳ねる。


栞は少し笑っていた。


でも、耳が少し赤い。


たぶん、わざと言ってる。


最近、少しだけそういうところがある。


電車へ乗る。


休日の朝。


窓から入る光。


遊園地へ向かう人たちも多い。


「ほんとに遊園地来るんだね」


栞が少し笑う。


「誘ったの俺だし」


「でも、なんか不思議」


「何が」


「文化祭前の私たちだったら、絶対来てない」


その言葉に、湊は少しだけ黙る。


たしかに。


最初の頃なら。


二人で休日に遊園地なんて、想像もしていなかった。


「……変わったな」


湊が言う。


栞は静かに頷いた。


「かなり」


遊園地へ到着する。


休日だから、人は多かった。


入口。


ポップコーンの匂い。


アトラクションの音。


子供の声。


全部が騒がしい。


でも、その空気が今日はかなり楽しい。


「うわ、久しぶり」


栞が少し目を輝かせている。


その顔を見るだけで、湊まで嬉しくなる。


「まず何乗る?」


湊が聞く。


栞は少し考える。


「怖くないやつ」


「却下」


「ひどい」


結局、最初は比較的穏やかなアトラクションになった。


並ぶ。


話す。


笑う。


その時間が、かなり自然だった。


「湊」


「ん?」


「今日、ほんと楽しそう」


栞が言う。


湊は少し笑った。


「楽しいし」


それは本音だった。


遊園地も。


でも、それ以上に。


栞と一緒なのが楽しい。


ジェットコースター前。


「ほんとに乗るの?」


栞がかなり不安そうだった。


「一個くらい頑張るんだろ」


「言ったけど」


「逃げる?」


栞は少し悔しそうな顔をする。


「……乗る」


結果。


かなり叫んでいた。


降りたあと。


「無理……」


ベンチへ座り込む栞。


湊は思わず笑ってしまう。


「めっちゃ叫んでた」


「湊、普通すぎ」


「楽しかった」


栞は少しだけ睨む。


でも、そのあと小さく笑った。


「……でも、ちょっと楽しかった」


その顔が、妙に可愛かった。


昼。


フードコート。


休日の遊園地はかなり騒がしい。


でも、その騒がしさが心地いい。


二人で向かい合って座る。


ポテト。


ハンバーガー。


飲み物。


他愛ない会話。


でも、その時間がかなり特別だった。


「なんか」


栞がストローをくわえながら言う。


「ん?」


「ほんとにデートっぽい」


またそれだ。


湊は少しだけ苦笑する。


「最近その言葉好きだな」


「だって、そういう感じするから」


その返事が、かなりずるい。


午後。


園内を歩く。


写真を撮る。


小さいアトラクションへ乗る。


笑う。


その全部が、自然だった。


気づけば。


湊は何度も栞を見ていた。


笑っている顔。


風で揺れる髪。


楽しそうな横顔。


その全部を、ちゃんと覚えていたいと思った。


夕方。


空が少しオレンジ色になり始める。


園内のライトも少しずつ点き始めていた。


「……綺麗」


栞が小さく言う。


観覧車の前だった。


大きな観覧車。


夕方の空。


ライト。


全部が少し特別に見える。


「乗る?」


湊が聞く。


栞は少しだけ笑った。


「好きって言ったし」


並ぶ。


観覧車。


ゆっくり回る光。


その時間が近づくにつれて、湊の心臓が少しずつうるさくなる。


乗り込む。


扉が閉まる。


二人きり。


静かだった。


下の騒がしさが、少し遠い。


観覧車がゆっくり上がっていく。


「なんか緊張する」


栞が小さく言う。


「……分かる」


夕方の街。


オレンジ色の空。


全部が綺麗だった。


でも。


湊はほとんど栞しか見れていなかった。


「湊」


「ん?」


栞が少しだけこちらを見る。


「今日、誘ってくれて嬉しかった」


その言葉が、静かに胸へ落ちる。


「……俺も」


「ほんと?」


「かなり」


栞は少し笑う。


それから。


少しだけ真面目な顔になった。


「最近さ」


「うん」


「ずっと思ってたんだけど」


心臓が跳ねる。


観覧車は、まだゆっくり上がっていく。


「私たち」


栞が静かに言う。


「もう、普通の友達ではないよね」


その言葉で、湊は完全に息を止めた。


逃げられない。


もう。


ちゃんと言わなきゃいけない。


湊は小さく息を吸う。


そして。


「……うん」


それだけじゃ足りない。


分かっている。


だから。


湊は、ちゃんと栞を見た。


「栞」


「ん?」


「俺――」

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