第80話 ひとつだけの君
歌が合格したから解放されると思ったら甘かった。
「次はMV撮影ね」
「ご飯は!?」
「軽く用意してあるから、それを食べて」
用意されていたのはサンドイッチだった。
これで我慢しろと?
秒で消化できそう。
「今日のお昼はそれだけだから、ゆっくり味わいなさい」
「はぁい」
念を押されたので、言われた通り味わいながら食べる。
美味しいけど、足りない。
何かしょんぼりしてきた……これで後半も頑張れと? 悪夢かしら。
「成瀬」
「撮れました」
「うん、いいね。この調子でいこう」
世の中の女の子って相当胃が小さいのね、これで足りるとか凄い。
そんな風に感心していたら声が聞こえたので顔を上げたら、成瀬さんとキラキラ王子がスマホを覗いていた。
成瀬さん、いつからいたんだろう?
「次はパン屋に行こうか」
「やったぁああ!!」
自分で選んでいいのよね!?
ダメって言われても買うわ!
ルンルン気分で近くのパン屋さんへ移動した。
ここ知ってる!
たまに寄ってるし、メロンパンとかクリームパンが絶品なのよね!
メンバーは私とキラキラ王子、黒い人、それから撮影係の成瀬さん。
黒い人の事はもう黒子と思おう、いるだけで声を発する事ほとんどないし。
「好きなの選んでいい?」
「店内は走らないようにね」
「やった」
トレーとトングを手に取り、鼻歌を歌いながらパンを選ぶ。
なんか成瀬さんが撮影しているけど、まぁいいや、それよりパンよ。
「あっ! 期間限定!!」
安納芋のスイートポテトとか絶対美味しい!
これは買い!
ひょいと二つ取ったところでキラキラ王子からストップが入った。
「一種類につき一つまで」
「……え」
戻せってこと、この子を?
酷い、せっかく出会えたのに、私のスイートポテト。
泣く泣く一つ戻し、次のコーナーに行こうとしたらOKが出た。
何の??
「直、さっきのパンと甘いものを追加で買ってきて」
「分かった」
パン屋の滞在時間は30分にも満たなかった。
あれで本当に撮影が終わったんだろうか?
「はい、これさっきのパンね。あとドーナツも追加しておいたよ」
「師匠!!」
喜びと感謝を表しながら袋を開けようとしたら、再びストップがかかった。
「後でね?」
「……はい」
圧が強くて諦めた。
袋の中から伝わる出来立てのぬくもりが!!
私に食べてって言ってるのに!




