第79話 失いそうな君
宿題として渡された歌詞。
ちゃんと覚えたけど、どうしても理解できない箇所があった。
「この『駅前のパン屋でふたつ手に取って「あ、一個でいいんだ」って 』ところ、どうしても分からないの!」
「……」
「なんで二つとも食べちゃダメなの!?」
「日向さん、何でいるの?」
「お義父さんおかえり!」
「ただいま……いやそうじゃなくて」
恋愛上級者のお義母さんに意味を聞くためよ!
「いつも二人分買っていたから、別れた後もつい二つ手に取ってしまうんだ」
「ふぅん?」
「ほら、今も修司さんが珈琲を淹れてくれているでしょう?」
「うん」
「いつかああやって珈琲を淹れるのが習慣になって、私がいない日でもつい淹れちゃうんでしょうね」
「お義父さん……頑張って二杯飲むのね」
「ちょっと違うかな」
違うの?
「コーヒーゼリーにするとか!」
「うん、それもいいかな。それで私が帰ったら一緒に食べるのも素敵だね」
珈琲も無駄になってないし、お義父さんも喜んで一石二鳥ね!
とりあえず、歌う時はお義母さんがいなくなった世界線のお義父さん目線で歌ってみようかな。
そして翌日。
「待って、絶望しすぎてる」
「えー」
私なりに感情を込めて歌ったら、キラキラ王子にダメ出しされた。
「できてる。できてるんだけど、失恋というより喪失に近い気がする。何を想定して歌ってるの?」
「お義母さんに捨てられたお義父さん!!」
「一回忘れようか」
頑張ったんだけどなぁ。
「そうそう、今日はちゃんと歌えるまで食事抜きだから」
「――そんなっ!」
「はい、そのまま歌って」
合格した。




