第78話 切なさを探せ
「好きな人はいたことある?」
不意にキラキラ王子が聞いてきた。
ここに来るまで考えてはみたけど、いなかったのよね。
「ドキドキした相手は?」
「気前よく大盛りにしてくれた食堂のおばちゃん」
「それ、大盛りにドキドキしただけじゃない?」
お義父さんが思わずツッコミを入れてきた。
「じゃあ、異性と二人きりで出掛けたことは?」
「この間お兄ちゃんとお出掛けしたわ」
「行き先は?」
「丼からはみ出すサイズのカツが有名なお店」
丼まで大きい、本物のデカ盛りのお店だったわね。
次は熊さんと行きたいな。
「そのお店では何をしたの?」
「カツを食べたわ!」
「……他には?」
「食べる前にちゃんと写真も撮ったわよ、あと帰る時にお店の人とも記念撮影してきたわ!」
「サインも入れてましたね」
常連さんも多いお店で、完食した丼を抱えて皆で撮ったのよね。
あれは楽しかった。
キラキラ王子が少し考え込んだ。
何よ。
「じゃあ、誰かに抱きしめられてドキドキしたことは?」
「初ライブの後にマネージャーが泣きながら抱きついてきたことなら」
「それは感動だね」
言われてみればそうね。
「告白されたことは?」
「ライブや街角ですれ違う人に『こはるちゃん大好きー』って言われる」
「それは告白じゃなくて応援だね」
同じじゃない?
「バレンタインは?」
「いっぱい貰う!」
「渡したい人はいる? 一緒に食べたい人でもいいよ」
「熊さん! あの噴水みたいにチョコが流れるあれ食べたい!」
「想像以上だね」
ふーーっと、長い溜息を吐かれた。
ところで、ご飯の話ばかりしていたからお腹空いてきたんだけど……誰かおやつ持ってないかな?
「まぁいい、切なさを表現させればいいんだろう」
「理央?」
「燃えてきた」
キラキラ王子が突然ノートを取り出し、ガリガリと何かを書き始めた。
そして渡されたのは、即興で作られた失恋ソング。
「明日は収録もないし、撮影頑張ろうね」
「何の!?」
「音は明日までに作っておくから、歌詞だけ覚えて来てね」
「ちょっと待って! そもそも歌うって返事してないんだけど!」
「大丈夫。僕の方で全部手配してあげるから」
お兄ちゃんが「承知しました」と頭を下げている。
拒否権なんて存在しないらしい。
ちょっと田中と番犬!
気配を消してないで、少しくらい同情の気配を見せなさいよ!




