第6話 完成度が高すぎる代役
何事もなかったように準備が進む。
(え、本当にやるの?)
キラキラ王子はノートにサラサラと何かを書き込んでいる。
悪役用のメモかしら?
「はい監督、出来ましたよ」
「ありがたき幸せ!」
ビリッとノートを破いたと思ったら、それを監督に手渡した。
敬礼しそうな勢いで受け取る監督。
「音は後で付けるので、とりあえずはそれで我慢してください」
「はい!」
(力関係、逆じゃない?)
この現場、本当に大丈夫なのかしら。
「じゃあ収録しちゃおうか」
スタッフがその言葉に機敏に動く。
監督は紙をうっとりとして見つめて動かないし、もしかしてスタッフ、監督の奇行に慣れてる?
「セリフは大丈夫か?」
スタジオに移動する途中、低い声が落ちた。
耳が痺れるような低音。
黒騎士役の人。
まだ本編では出番がない謎の存在。
なのに、なぜか毎回収録現場にいる。
(仕事は?)
改めて考えると、この現場、収録以外もだいぶおかしい。
「平気平気」
ペラペラと台本を捲って目を通している。
黙っていれば綺麗なお兄さんなのよねぇ。
「――第4話Bパート、いきます」
スタッフの声。
電子音に空気が切り替わる。
「その命、私の花の糧となりなさい」
(え)
完全に、女性の声だった。
無理に出している感じがない。
自然で、しかも妙に艶がある。
変声機でも使ったのかってぐらい、女性の声だった。
「ふふ、その強気な顔、嫌いじゃないわ」
芝居が、成立している。
というか。
(完成度、高くない?)
そのまま収録は流れていく。
「OKでーす」
終了音に空気が緩む。
私は、そっと結論を出した。
ベラドンナ役の女性がこの現場に現れる日は、きっと来ない。
だってキラキラ王子の声が完璧すぎる。
(私の女子トーク計画……)
さよなら私の幻の女友達。
次の新キャラを待つわ。




