第58話 秘書とは
「緒方君、前回の資料」
「こちらです」
タブレットをタタッとタップして、すぐに監督に差し出した。
「やっぱり少しセリフ変えよう」
「はい」
「あー……何かイメージが合わない!」
「監督、こちらをどうぞ」
唸る監督に監督狂いがイヤホンを装着させた。
「……」
無言の監督が自動書記状態になったんだけど、何をしたのよ!
あの男、無害そうな顔してなんか怖い!
「何聴かせたの?」
近付いてこっそり聞いたら笑顔が返ってきた。
「白藤さんの昔のインタビュー音声です」
「……何で持ってるの?」
「資料として保存してあります」
何の資料よ!!
「監督、白藤さんの声を聞くと集中力が上がるので」
「何でそれまで知ってるの!?」
「スタッフの皆さんが教えてくれました」
仕事をスムーズに進めるため、スタッフが監督を売ってた。
「おはようございます」
そこに監督のエネルギー源である白藤さん本人が現れた。
「おはようございます」
狂気の監督狂いが丁寧に頭を下げてるのが怖い。
もう何をしても怖いわね。
「……監督は」
白藤さんを見つめながら、監督狂いがごそりと鞄から冊子を取り出した。
「純粋過ぎて白藤さんのグッズを何も持っていないんです」
手には少し古い雑誌。
表紙は白藤さん。
でも今より少し若くて、男性っぽさが残ってる。
「これを見せたら気絶してしまって」
「刺激が強すぎたのね」
どうやって手に入れたかは聞かないでおこう。
「こはるさん、そろそろブース入りお願いします!」
「はーい」
私は深淵を覗く趣味はないのよ。




