第25話 もう作ってあった
「はい」
ぽんっとヘッドホンを渡される。
やめて、投げないで、このヘッドホン、絶対高いやつ。
「今日は軽めだから」
「信用ならないのよ、その言葉」
じとっと睨むと、キラキラ王子が楽しそうに笑う。
どうせ逃げられないんだから、真面目にやるしかない。
マイク前へ立ち、位置を確認する。
黒い人は私の隣ではなく、ガラスの向こう側にいる。
どうやら今日は歌う気はないらしい。
「はいこれ、今日歌うやつね」
そう言って渡されたのは、マンドラゴラ・ブルーのキャラソンだった。
……?
え?
「監督のOKが出たから、無駄にならなくて良かった」
「え?」
「じゃあ一回合わせてみようか」
「練習ぐらいさせて!」
「大丈夫だって」
スパルタどころじゃない。
軽い気持ちで崖から落とされた。
「音だけでも、通しで聞きたい、です!」
「いつものような感じで歌えば大丈夫だと思うんだけどなぁ」
言いながらキラキラ王子が黒い人へ視線を送る。
同時に流れてくる音楽。
「♪凍てつく風が世界を包む 静寂の中で目を覚ます」
透明感のある歌声がスタジオに響く。
(なんで見本が完成品なのよ!)
マンドラゴラ・グリーンをやって。
敵の女役もやって。
今は圧倒する歌唱力を見せつけられている。
こいつの声帯、どうなってるの?
「と、こんな感じ。じゃあどうぞ」
「無理、無理無理無理」
「ははは、ただで僕の歌を聞いておきながら逃げられるとでも」
知ってたけど、逃がす気ゼロだった。
誰も助けてくれないと分かっていてもあえて言う。
誰か、助けて!




