第19話 本気の方向性
――数十分後。
「違う」
「はい……」
肩で息をしながら、私はマイクの前で力なく返事をした。
ちゃんと歌えているはずだ。
音程だって外していないし、リズムも問題ない。
なのに追い付けない。
「それは『アイドルの日向こはる』なんだよねぇ」
ガラス越し。
キラキラ王子がうーんと悩むように首を傾げる。
「もっと崩していこうか」
「崩したら怒られる職業なんですけど!?」
思わず叫ぶと、隣で黒騎士役が小さく吹き出した。
(初めて笑った!?)
「ただいまー」
「ちょうどいい、休憩にしようか」
癒し担当の巨大熊さんが戻った所で、スパルタから一時解放された。
その場にへたり込みそうになるのを堪えながら、ヘッドホンを外す。
数フレーズしか歌ってないのに、ライブ一本終わった後みたいな疲労感だった。
「お疲れ。はい、お茶」
紙袋を抱えた大きな影――熊さんがペットボトルを差し出してくれた。
優しさが身に染みる。
「ありがとうございます……」
やっぱり熊さんは優しい。
見た目は完全に山で熊と素手で戦って勝ちそうなのに。
「そんなに難しいこと言ってないんだけどなぁ」
スタジオに入ってきたキラキラ王子は、肉まんを頬張りながら呑気に笑った。
(その肉まんを奪ってやろうかしら)
「本気でやって、アイドルが前に出ている」
隣で黒騎士役がぽつりと呟く。
黒騎士役の人……長いわね、もう黒い人でいいか。
「よし、玄、ちょっとドラム入ってよ」
「えー今日休みなのにー。あとで焼肉奢ってよ」
「はいはい」
軽いやり取り。
というか、距離感が近い。
文句を言いながらも普通に付き合って、
冗談を言い合いながら音を合わせて。
……ああいう空気、ちょっと羨ましいかもしれない。




