第八十九話 自称
第八十九話 自称
サイド 矢橋 孝太
『今!高橋由紀子さんのお姉さんがやって来ました!感動の再会です!』
『半年前に行方不明になった高橋由紀子さんのお姉さんですが、港町のある老夫婦に保護されていたらしく、先日記憶を取り戻したとの事です』
『ああ、高橋由紀子さんとお姉さんが抱き合っています。由紀子さんの目に涙がうかんでいます。ご両親も車いすからその光景に涙を流しています』
『その光景を見ていた方からは『本当に予想外でした。だけどこれほどの幸運はありません。姉妹仲良く過ごしてほしいです』との声もあり』
家の電話だったり、ポストに入っている手紙だったり、最近こういうのが増えた。
『あ、もしもし孝太君?懐かしいね。君が二歳の頃以来かな。はとこの――』
『孝太君!私だよ私!小学校で一緒だった島田だよ!懐かしいね。よかったらさ』
『初めまして。私、『ダンジョン被害者の会』で代表をさせて頂いている』
『調子にのってんじゃねえ!死ね!』
そう、こういうのである。
とりあえず情報社会超怖い。なんでうちの電話番号とか住所が普通に知られてんの?いやどう考えてもマスコミのせいだわ。あいつら家の前に屯してカメラ回してたわ。取材拒否してんのに。
今でもちょくちょくよく知らない名前の出版社から来たという自称ジャーナリストが家の前に来ることは少なくない。やたらへりくだっていたり、逆に高圧的だったり、わざと怒らせようとしているのかって奴もいる。
正直に言おう。キレそう。
なに?こちとら別に政治家でも芸能人でもない一般人ぞ?ジャーナリスト名乗るならどう考えても情報は絞るべきだよね?なにフルブッパしてんの?『○○か!?』とは『○○○○という噂が!?』とか、疑問形にすればなに言ってもいいわけじゃねえぞ?
両親とも相談して本気で引っ越しも考えている。だが、ここはひい爺ちゃんの代から住んでいる家だ。そう簡単に手放せるかという話になる。
引っ越しに関して、両親は『しょうがない』と考えているが、この家を捨てるという事に自分は抵抗がある。悪い事をしたわけではないのに、なんでそんな目に合わなければならないのか。
小沢さんから電話があって、大きい所と中堅どころには話がついているからもうこちらにちょっかいは出してこないそうだ。だが、小さい所だと圧力があっても関係ないと動き回るのだとか。
いっそ、両親にはこのままここに住んでもらい、自分だけどこかアパートでも借りた方がいいのかもしれない。その方が手っ取り早いだろう。それに、一応金ならある。
ただ、この時期にちょうどいい物件など見つかるだろうか。今の学校から転校というのも、人間関係を一からとか考えたくない。というか、絶対質の悪いのに絡まれる。それはごめんだ。
何より、友人達と別の学校というのも、なんか嫌だ。
というわけで不動屋さんに相談して、今の高校に通える距離でどこか部屋が空いてないかと探してもらっているのだが。中々見つからない。
どこかいい物件はないものか。と、昼休みにいつものメンツで愚痴をこぼした。
「ああー、やっぱ増えるよな。自称親戚とか、自称小学校の友達とか。うちにもこの前電話あったわ」
「俺もよく知らない親戚に矢橋の事紹介しろって頼まれたわ。断ったけど」
「僕は特にないですね。ただ何故か最近警察の方が近所の幼稚園周辺を巡回してますが」
とりあえず下山は放置するとして、滝沢や佐藤のところにも被害がいっているらしい。
「なんか、すまん……」
「謝んなよ、お前は悪くないんだし」
「そうそう。これが登下校中の女学生に裸を見せて回っているとかだったら縁切るけど。……やってないよな?」
「やらねえよ!?待ってなんで今少しでも疑った!?」
「だって矢橋は変態だし……」
「特殊な性癖の一つや二つ持っているんじゃないかと」
「正直警察にマークされてそうですよね」
「お前らと一緒にすんな」
警察にマークされているのはどう考えても下山だ。
「うーん……」
正樹さんが腕を組んでうなり声をあげている。
「どうしたんですか、正樹さん」
「そうっすよ東条先輩。悪い物でも食べたんですか?」
「だから広い食いはやめた方がいいって言ったのに」
「考え事なんて珍しいですね。病気ですか?」
「お前ら並べ。全員タイキックの刑だ」
「僕はなにも言ってませんよ!?」
「「「矢橋(君)が言えっていいました」」」
「てめえら後で覚えてろよ!?」
正樹さんが咳ばらいをしてこちらを見てくる。
「いやな。うちって結構でかいだろ?」
「結構では済まないぐらいでかいですね」
「でだ。色々土地とか持ってるし、不動産系にも爺ちゃんは詳しいはずだ。なんなら直接聞いてみるか?」
「え、いいんですか?」
「おう。なんなら今日の放課後にでも来いよ」
「ありがとうございます」
思いもよらぬ提案に、一も二もなく頭を下げる。東条家にまたお世話になってしまうが、本当に切実なのだ。流石にマスコミに紅蓮をけしかけるわけにはいかないし、かなり困っていた。
「なあ……これ……囲い込み……」
「だよな……百合さん……狙い……」
「ちくわ……大明……」
なんか三銃士がこそこそ言っている気がするが、まあ気にしなくてもいいだろう。
「うちに住まない?」
な ん で ?
相談にのってくれると言う恭弥さんが笑顔で冗談を言ってきたので、固まってしまった。
「いやね。これには一応理由があるんだよ」
「は、はあ」
え、もしかして冗談じゃない?
「この辺は一度モンスターの侵攻で壊滅的な被害を受けただろう?それの復興のために、色々な物や人が集まったんだ」
「はい」
「でだ。その関係で不動産業の方も大変らしくてね。そもそも土地の持ち主が行方不明だったり、その親戚を探さなきゃだったり、色々困っているのさ」
「となると……」
「君の希望にあった物件を見つけるのは、かなり難しいという事さ」
マジか……。相談した不動屋さんがやたら引きつった顔をしていたのはそういう理由が……いや、なんか違う気がする。
「そこで、うちに住んでみるのはどうだろうという話さ」
「えっと、何故そこで東条家が……?」
「うちは色々嗅ぎ回られることが多くてね。マスコミ対策もしっかりしているのさ。だから、うちに住んでくれるなら、君をマスコミから守る事が出来るよ」
「いえ、そんな、年頃の娘さんがいる家に御厄介になるわけには」
「私は構いませんが?」
「……百合さん、いつからそこに?」
「五分ほど前からですね」
「そうですか。今度からは斜め後ろじゃなくって隣か前方に来ていただけると嬉しいです」
「わかりました」
一瞬心臓が止まるかと思った。なんでこの人自分から見て三歩ぐらい後ろに控えてるの?せめて後ろにいるのなら何かしら存在をアピールしてほしい。滅茶苦茶驚くから。
「俺も賛成だな!今夜は寝かさないぞ孝太!」
「正樹さんは正樹さんで今どこからそのゲーム機取り出したんですか。というかオールナイトなんて嫌ですよ明日も学校なんですし」
「えー」
「正樹」
恭弥さんが静かに正樹さんに声をかける。
「そういえば、最近勉強はちゃんとしているのかな?色々忙しいのは知っているけれど、大学受験もきちんと考えているんだよね?」
「え、俺大学には行かなくてもいいかなって」
「理由は?」
「え、えっと、こんなご時世だし、特にやりたい事もないから大学に行かなくても冒険者やってればいいかなって」
「冒険者が、正樹がやりたい事なのかな?」
「いや、そこまで深くは考えてないけど」
「じゃあ、大学には行きなさい」
「なんでだよ。別にいいじゃん」
「何かを学ぶことは無駄にはならないよ。将来なりたいものも、大学で探すというのもいい事だと思う」
「大学だってただじゃないんだし……」
「うちはこれでも日本有数の大企業だよ?」
「そ、そうだけど……」
「勉強は、ちゃんとしようね?」
「はい……」
いつの間にか正樹さんの進路の話になっている。よかった。ちょっと前は『ふっ、おいらは孤独なロンリーウルフ。人の世では生きていけないのさ、ベイベー』とかそんな感じだったのに、こうして素直に人の意見を聞けるようになったんだなぁ……。
「おい。なに生暖かい目で見てんだよ。絶対失礼なこと考えてるだろ」
「いいえ、兄様。矢橋さんの考えるとおりちょっと前の兄様は『ふっ、おいらは孤独なロンリーウルフ。人の世では生きていけないのさ、ベイベー』という感じでした。正当な評価です」
「俺そんなイメージだったの!?」
百合にも言われてやんの。ざまあ。……なんで一言一句同じ考えだったんだろう。ちょっと怖い。
「まあ、話は戻すけど、どうだろう。うちで暮らす気はないかい?」
「ありがたいお話ですが、お断りさせていただきます」
「えー、なんでだよオールナイトしようぜぇ」
「あんたは受験勉強してろ。……流石にそこまでしていただくのは心苦しいからです。僕はあくまで正樹さんと友人です。居候までさせて頂くわけにはいきません」
「……そうかね。じゃあ、うちで雇っている対マスコミ要員を貸してあげよう。それで多少は静かになるはずだ。電話番号の変更とかも手伝うよ」
「い、いいんですか?けど、そんな」
「これぐらいはさせておくれ。君が考えている以上に、私は君に感謝しているんだ。もう『家族も同然』と思っているんだよ」
「……ありがとうございます」
恭弥さんに深く頭をさげる。
「まあ、気が変わったらいつでもうちに来いよ。歓迎するぜ、ブラザー」
「その自称兄弟本当になんなんですか……」
ふと、百合が真顔でこちらを見ている事に気づく。
「百合さ、百合。どうしたの」
「いえ、兄様はご友人だそうですが、私は何なのですか?」
「えっ」
何、と言われても友人の妹さんというのが本音だが、何故だろう。魔眼に違和感を覚える。危険なような、危険じゃないような。けど一歩間違えたら金色の鳥人間が飛び掛かってきそうな、そんな感じだ。
だが、ここは思ったままを言おう。この人に嘘やおべっかをつこうとは思わない。
「普通に友人の妹さんと思っています。今は後輩でもありますが」
何故だろう。自然と敬語になる。あと背中に変な汗が出てくる。
「……そうですか。なるほど。『今は』そうですね。私は大切な無二の『友人』だと思っているのに、一方通行でしたか」
「え、いや、その」
「いえいえ、構いません。ですが、今後は私とも友人関係になって頂ければ幸いです」
「あ、その、こちらこそよろしくお願いします」
「はい。今後、私達はできうる限り同じ時を歩む関係です」
その言い方は、なんとなく友達のカテゴリーとしておかしい気もするが、ここは黙っておこう。なんとなく嫌な予感するし。
ただ、やけに恭弥さんがいい笑顔を浮かべていたのが気になった。
読んでいただきありがとうございます。
今後ともよろしくお願いいたします。
高橋由紀子のお姉さんに関しては
「へへ、ハンドラーでもない女一人使い魔無しでも十分だぜ」
「いい女じゃねえか。顔は傷つけるなよ」
「おい、あいつどこいっ、ぐわー!」
「あのアマやりやがったな!いけ、使い魔!」
「へっ、この高さで落ちたら死んでるだろ」
「そうだな、夜の海に落ちたんだ。死んでるに違いない」
「私は誰だっけ……」
「おや、このテレビに映ってるのあんたじゃないか?」
「あれまあ、ほんとだ」
「思い出した。とりあえず妹殴りに行くわ」
という感じです。本編中にのせると長くなりそうなのでここで書かせてもらいました。




