第八十八話 鬱憤
第八十八話 鬱憤
サイド 矢橋 孝太
『明智元防衛大臣の起こしたテロを止めた三人の高校生。彼らは天岩戸作戦にも参加したまさに救国の英雄であり』
『取材は拒否されてしまいましたが、令和の三英傑として有名なこの三人のうち、二人が通っている学校に取材へ』
『木下臨時総理は令和の三英傑に対して感謝の意をしめしており、総理大臣賞を贈りたいと考えていたようですが、三英傑のうち二人は受け取りを辞退したとの事で』
「「こんちくしょぉがぁぁぁああああ!」」
Cランクダンジョン。人のいない下層で、正樹さんと二人叫ぶ。
「何が令和の三英傑だよ!上手いこと言ったつもりかよクソが!ネーミングセンス死んでんだよ!惨たらしく死ねぶぅぁか!」
「マスコミはクソ!本当にクソ!なんで取材拒否してんのに学校に押しかけてきてんだよ!つうかいつの間にか自称友達が増えてんのなんなんだよ!」
「つうか高橋が無罪ってなんだよ!あいつの自称友達『人間狩りゲーム』とかいう胸糞悪いこと料亭でしてたとか言ってたぞ!」
「あー、本当にやってらんねー!なんだったんだよあの茶番!?人を巻き込むんじゃねえよ!よそでやれやよそで!」
色々溜まった鬱憤を叫びまくる。ちなみに、周りでは紅蓮と金剛が近付くモンスターを薙ぎ払っている。
東京から帰ってきたのだが、家の前にマスコミが殺到していて白目になりそうになった。東条家の方もそうだったらしいが、あっちは黒服の人達がどうにかしてくれていたらしい。
そのまま家に直帰するのもあれだったので、東条家にお邪魔する事になった。
とりあえず色々お世話になったので源一郎さん達にお礼を言おうと思ったのだが、眉毛から頭の毛まで綺麗に剃られた恭弥さんに遭遇した。
なんでも、マスコミに出回っている高橋由紀子の謎エピソードの補強をしていたらしい。なんでそんな事をと聞いたら、あのまま高橋由紀子が捕まっていた場合、木下臨時総理は大陸にアリスを使って攻め込むつもりだったとか。
それをやるとどう考えても日本の危機なので、高橋由紀子には英雄になってもらい、木下臨時総理の傀儡にはならないように取り計らう必要があったとか。今後、彼女は大陸から渡ってくるモンスターへの対処に酷使される予定だとか。
一応納得は出来ない事はない。どうやって高橋由紀子を言いなりにするのかとか、色々浮かびはするが、その辺をクリアできているからこの話をしているのだろう。
だが、心の部分で納得できない。紅蓮達が戦った高橋由紀子の友人を名乗る者達。あいつらは旅館での殺戮の実行犯であり、明智元防衛大臣の息がかかったテロリストという事になった。連行されるなか、マスコミには警察に阻まれて届かなかっただろうが、今まで彼女がしてきた悪行を声高に叫んでいた。
それを全て信じるつもりはない。だが、なんとなくまるっきり嘘とも思えない。あの女は裁かれるべき存在だ。というか、襲われた身としてはたまったものではない。
顔に露骨な不満が出ていたのだろう。正樹さんは口に出していた。それに対し、恭弥さんは畳に額を擦り付けて『どうか、私を恨むだけでこの件を済ませて欲しい』と言った後、庭に出て切腹しようとしたのだ。
慌てて止めたし、恭弥さんは『いやぁ、そんな焦らなくっても』と笑っていた。だけど、あれは本気だったと思う。『君たちは私を切り捨てる権利がある』切腹に使おうとした短刀をわたしてくるし、この人はマジで自分の命で自分達を鎮めようとした。
正樹さんは『卑怯だよ、爺ちゃん』と眉間にめいいっぱい皺を寄せてうなっていた。自分も同感だ。それに対し恭弥さんはただ苦笑を浮かべるばかりだった。
『私は、父さん程優秀ではなかったからね。これぐらいが限界なのさ』
そう言われては、もう何も言えなった。
ただし、この話は百合に告げ口しておいた。彼女は満面の笑みを浮かべて使い魔を放ったが、いったいどこに向かわせたのか見当もつかない。
その後百合に『お二人とも疲れていらっしゃるでしょうし、お背中を流させて頂きます』とか冗談を言われたが、笑って拒否しておいた。いつの間にか帰宅していたらしい正彦さんが凄い目で睨んでいたので、そういう冗談はやめて欲しい。
自宅周りのマスコミがある程度落ち着いたところで家に帰ったのだが、翌日学校に行くと校門付近にマスコミが大量おり、生徒達にインタビューをしていた。回れ右して家に帰った自分は悪くないと思う。
正樹さんも似たような感じらしく、こうして二人学校をさぼってCランクダンジョンに籠っている。学校には一応体調不良だと電話をしておいた。
もうなんだこのモヤモヤ。やってらんない。
叫びすぎて息切れしていると、正樹さんがあらかじめ買っておいたらしいジュースをこっちに投げてよこしてきた。
「ありがとうございます」
「おう。俺の奢りだ。感謝の舞でもしていいんだぞ?」
「歌でも歌いましょうか?」
「やめろ音痴」
「ストレートな罵倒やめてくれません?」
「だって事実だし」
「ひでえ」
喉を鳴らしながらジュースを飲む。自分で思っていたより喉が渇いていたらしい。一気に半分ほど飲んでしまった。
「ああ~……いっそ日本滅びねえかなぁ」
「やめてくださいよ縁起でもない」
「だってなぁ~」
まあ、正樹さんの気持ちも分からなくもない。こうもいいように利用されて、腹が立たないわけがないのだ。かといって下手な報復をしたら、今の不安定な状況だ。最悪何人の血が流れるかわからない。
木下臨時総理は正式に総理としての活動を続けていく感じらしいが、あのネズミとサルを足したような顔した爺さんはいったいどういう動きをするのやら。
「なんか続報あったりします?」
「聞いたら色々戻れなくなるけどOK?」
「すみません今のなしで」
「よろしい。……まあ大丈夫な所を言うと、爺ちゃんの友達の松平って爺さんが今度の内閣で重要なポストが約束されたって言ってたよ」
「……そういうのって部外者に聞かせていいんですか?」
「はっはっは!お前が部外者なわけないだろマイブラザー」
「うわあ、なんか嫌な予感しかしないから嫌だぁ」
「なんだとぉ!うちの百合になんの不満があるんだ!」
「なんか、束縛強そうなところとか……?」
「………ごめん」
「なんで謝るんですか?もしかして僕にまで被害いってるんですか?ちょっと、目を逸らさないでください」
* * *
サイド 高橋 由紀子
「はい。これで契約は完了です」
「はあ……」
政府の役人……小沢だったか?彼がにこやかに書類をしまう。
「では、また後日連絡をさせて頂きますので、その際はよろしくお願いします」
小沢は『お大事に』と言って病室を出ていった。そう、『病室』だ。
昔病院もののドラマで見たような豪華な部屋に自分は入院させられている。テレビの電源をつけると、どこも『明智元防衛大臣の凶行を止めるため尽力した三人の高校生』とやらについて熱く話し合っている。
その一人が自分らしいのだが、まったく身に覚えがない。というか、そもそも一年近く記憶がない。医者は精神的な原因の記憶喪失だと言っていたが、はたして本当なのだろうか。
「アリス」
ベッドに寝転がりながらアリスを召喚する。
「マスター!お怪我は?意識はしっかりしていますか?私が誰か分かりますか?紅茶は飲みますか?」
「なによ鬱陶しい……まあ紅茶はもらうけど」
「はい。すぐに用意します」
アリスに紅茶を用意させながら、テレビを見る。どうも、自分は明智元防衛大臣に両親を人質にとられ、嫌々協力させられていたらしい。なにがあったのだ自分に。
もしも両親が人質にとられた場合を考える。……少し考えたが、あまりイメージできない。口うるさいし、冒険者をやめさせようとしてくるしで、うざったくはある。だが、死ねばいいとまでは思っていない。
その両親も今は寝たきりらしい。それには清々した。いっそこのまま寝ていてもらえば私も周りにどれだけ不遇な存在か分かってもらえるかもしれない。
「あ、マスター。ご両親なのですが、私の紅茶の力で目覚める事が出来ないか試してみるのはどうでしょうか?きっと上手くいくと思うのです」
「はあ?いいじゃない起こさなくても。このままの方が――」
ガシャンと音を立てて机にアリスが紅茶のカップを置く。
「あ、アリス?」
「マスター。ちょっとお話があります」
何故だ。アリスの様子がおかしい。いつもの笑顔なのに、妙におっかない。
「な、なによ。変な内容だったら」
「お黙り下さいこのドクズ様」
「はっ?」
なんて言った?今この使い魔は主人である自分になんて言った?
「ど、どういうつもりよ、使い魔のくまうjたbtぐあ!?」
アリスがあろうことか熱々の紅茶を強引にねじ込んできたのだ。もう片方の手で頭を固定されているので逃れられない。溺れそうになって慌てて紅茶を飲むが、熱い。ダメージの肩代わりがなかったら火傷している。
「ぷはっ!この、戻りなさい!あんたなんてもう二度と召喚しない!」
「拒否します」
「えっ、ちょ、なんで戻らないのよ!」
アリスへと流れる魔力を止めようとするのだが、全然上手くいかない。というか、魔力ってどうやって操作していたんだっけ?あれ?
「お馬鹿で愚かで愚鈍で間抜けなマスター。私は貴女を愛します。貴女を愛してくれる人々を守ります。ですので、私は貴女が間違っていると判断したら酷い事をします」
「ひ、酷い事ってなによ……」
声が震える。超常の力をもつ使い魔。それが今、反乱しようというのか。
「公衆の面前でマスターの服をむきます。食事に虫を混ぜます。一週間眠ろうとするたびに強引に叩き起こします」
「な、なんでそんな酷い事をされなきゃいけないのよ!」
「私がマスターを愛しているからです。たとえ嫌われても貴女を真人間にしてみせます」
「私は元から真人間よ!」
「とりあえず剝きますか」
「ちょ、やめ、やめて!だ、誰かぁ!」
「実は今この部屋の時間を止めています。誰も来ませんよ。裸正座した状態でお説教です。まずご家族がどれだけ貴女を愛しているのかをわからせます」
「いやぁー!」
ああ、自分はなんとかわいそうなのか。
「ところで、政府のお役人は来ましたか?何か契約とかしましたか?」
「は?いや、なんかいざとなったら国を守れとか書かされたけど……」
「なるほど。……その程度で済みましたか」
後半なんて言ったか聞こえなかった。だが手が止まった今がチャンスだ。どうにかして逃げなければ。
「おっと、逃がしませんよ。マスター。まずマスターはやたら自分を可哀想な被害者だと考えていますが、それはただの思い込みです。妄想にすぎません。だいたい――」
読んでいただきありがとうございます。
今後ともよろしくお願いいたします。




