第九十話 上に立つ者
第九十話 上に立つ者
サイド 矢橋 孝太
今日も今日とてダンジョンである。向かったのはBランクダンジョンだ。
今回のダンジョンはオークなどが出るダンジョン同様に森林地帯みたいな風景だが、広さが違う。天井は百メートルをこえ、一層ごとの広さは東京ドームの五十倍だとか。
それだけ広いダンジョンだけあって、出てくるモンスターもでかい。とにかくでかい。まず、現在金剛が激しいド突き合いをしている『地竜』だが、大型トラックよりもでかいと思う。
全身を深緑色の鱗でおおい、骨格はトカゲと言うより猿に近い。後ろ足で立ったり走ったりすることもあれば、前足も使って四足で跳ねまわる事もある。魔眼なしだと動きが全然読めない。
二本の前脚を振り回すたびに、周囲の木々や地面がはじけ飛んでいく。一撃ごとに周囲の景色が変わっていく。そんな攻撃を振りまく奴が時速二百キロ以上で動き回り、その鱗は現行の戦車に匹敵する強度をもつという。
そんな怪物を相手に、金剛は時に正面から、時に側面からメイスを使って殴り続ける。反撃に繰り出された前足の爪を殴って弾き、薙ぎ払われる尻尾を殴って弾き上げ、地竜の体を殴って鱗を砕いていく。もうひたすら殴っている。
地竜が全身から血をまき散らしながら、大きく後退する。そして口を大きく開いたかと思うと、そこに魔力が急速に集まっていく。それに対して金剛も正面から突撃する。
収束された魔力の奔流が撃ち放たれる。魔力が鑢でもかけたように木々を薙いで大地を抉っていく。たとえ戦艦でも直撃すれば沈没は免れない。その一撃を前に、なんと金剛は地面にメイスを叩きつけたのだ。
地面が紙風船に息を吹き込んだかのように膨れ上がる。大地の奔流と魔力の鑢がぶつかり合う。大地から生み出された巨人の体?は魔力に削られてどんどん崩れていく。だが、それを上回る速度で地面から伸びていくのだ。その供給元は金剛の魔力だけではない。突如、地竜の足元が崩れて巨大な穴にその体が落ちていく。
地竜は態勢が崩れた影響でブレスの制御に失敗し、明後日の方向に向けてしまう。そして、今後は自ら作り上げた巨人の腕を走り抜け、空中に躍り出ると体を激しく回転。足場がないがゆえに踏み込みの出来ない状況下で、かわりに遠心力と落下の速度をのせてメイスを叩き込む。
メイスは地竜の頭蓋を粉砕し、衝撃波が周囲の木々を揺らしていく。まるで隕石でも降って来たみたいな轟音と衝撃だ。
さて、今度は天井付近の様子を見てみよう。
高い天井の近くで、紅蓮の炎が乱舞する。銀色の鱗で全身をおおう、地竜と同等の巨体をもったドラゴン『飛竜』だ。前足にあたる部分はその巨体に見合った大きさをほこり、偶にしか羽ばたかないというのに空を自在に飛び回っている。
その速度は地竜さえ超え、音速にこそ超えていないもののその領域に近い。飛竜は大きな口から炎をまき散らし、止まることなく移動し続けている。まるで何かから逃げるように。
当然だろう。自分の同類が『十匹も』目の前で叩き落らせたのだ。
火葬場のそれに匹敵する炎がまき散らされているというのに、そこをまた別の炎が通り過ぎていく。まるで針の穴を通すように正確に迫るその陰に、飛竜は羽を動かして逃げようとする。
だが、それよりも速くハルバートが降りぬかれた。直系二メートル半ほどの首が跳ね飛ばされて、地面に向かって体と別々に落ちていく。
それを見下ろすのは紅い炎をまとった紺色の鎧。紅蓮だ。静かに落下する飛竜を見下ろしながら残心をしているかと思ったら、突如空気を蹴り飛ばすように足から炎を放出して上昇する。
紅蓮が先ほどまでいた位置に飛竜のはいた炎が通り過ぎていく。今度は七体だ。もうこのフロア全ての飛竜が紅蓮めがけて襲い掛かっているのではないだろうか。
迫る炎に、あたっても大したダメージはないだろうに紅蓮は掠らせることもなく宙を舞って回避し続ける。やがて天井にまで追い込まれたかと思うと、体を反転。天井を両足で削りながら減速した。
紅蓮の進行方向に放たれていたブレスはただ天井を焦がすだけにとどまり、足場を得た紅蓮は最大加速で飛竜の集団に突撃する。彼らは紅蓮を追ううちに密集してしまっていたのだ。
コマのように体を回転させた紅蓮が通り過ぎていくと、四体の飛竜が首を失って落下してく。
慌てて方向転換する飛竜たちだが、下に回り込んだ紅蓮はそれより先にハルバートを投擲していた。
炎を放出しながら回転するハルバートが右手側の一体の首を刎ねた。だがこれで紅蓮は無手。残りの二体が急降下して紅蓮へと迫る。だが、その背後には回転して戻ってきたハルバートが。
二体のうち左手側の飛竜の体を引き裂いて戻ってきたハルバートを握りしめ、紅蓮が最後の一体と相対する。飛竜側ももはや減速も回避も出来ないと悟ったのだろう。怯むことなくその咢を開いて噛み殺さんと紅蓮に向かっていく。
交差。返り血に染まった紅蓮の背後で、上顎を失った飛竜が落ちていく。
ハルバートを振って血を払う紅蓮だが、そんな事をしなくてもダンジョン内のモンスターは死ぬと消滅するので、返り血も消えるのだが、まあかっこいいからいいだろう。
それらの光景を烈風の背中にレイナと乗っていて見ていたのだが、ふと思った。
飛竜の魔石、どうやって回収しよう。
レイナのナビに従ってどうにか魔石を回収し終えて、受付をすませてダンジョンストアから出る。
小さくため息をつく。本来は正樹さんと来る予定だったが、どうにも家の用事でパスという事になった。部のルール的にソロで潜るのは推奨できないのだが、正樹さん以外だとBランクダンジョンを一緒にまわれる人がいない。
いや、新しく入った百合なら問題ないだろうが、彼女は一年生のまとめ役として忙しそうなので声をかけていない。どうにも『地盤固め』と『牽制』をしているらしいのだが、自分にはよくわからない。
ただ言えるのは、いつの間にか部長の自分でも三年生で実力者の正樹さんでもなく、部で一番影響力をもっているのが百合になっていた。驚きである。
初対面の時に見せた殺気まみれの笑顔でもなく、かといってたまに東条家へ遊びに行ったときに見せる笑みでもない、すごく凛々しい笑みを浮かべて部員達に彼女は接している。滝沢たちから聞いた話だが、クラスでもそんな感じらしく、彼女のグループというか、シンパが出来上がっているとか。
人間関係を円滑に進めるために無理をしているのではないかと心配になった。それとなく正樹さんに聞いたところ、むしろ活き活きとやっているのだとか。
『あいつは、というか、爺ちゃんもだけど、自分の勢力を作るのが好きなんだよ。いや、もう呼吸をするのに近いのか?人の上に立って物事を動かすのが当たり前って言えばいいのかな。いや、悪く言ってるわけじゃないぞ?』
とのこと。
そう言われてみれば、なるほど。部活内で部員達に囲まれて会話している百合の顔に疲労はなく、自信に満ちたリーダーの顔をしている。
もう彼女が部長でよくない?絶対その方が上手く回る気がする。
自分みたいに噂と肩書きばかりが先行している奴より、彼女の様な人物が部長の方が皆納得すると思うのだ。
だが、百合には拒否され他の部員達も『続投でお願いします』と言われてしまった。
まあ、一般部員からしたらオークやナーガを貸している自分が部長でいた方が、これからも貸してもらえると思ったのかもしれない。もはや自分に表立って攻撃してくる勢力も学内にいないので、部長をおりてもいいし、部を立ち上げた責任として貸し出しは続けるつもりなのだが。
ただ、百合には『慣れてください』と言われてしまった。いったいどういう事なのだろうか。
その夜、こんな動画が流れた。
『我々は帝政ロシアの正当なる後継である!ただちに日本は我々を国家と認め、現在も日本人を保護している事実に対し、感謝と支援をするべきである!』
『一週間後のこの時間までに我々神聖ロマノフ帝国を国家として認め、支援の速やかな実施を約束しないのであらば、我が国への明確な敵対行為とみなし、日本人の処刑を開始する!』
『我々は本気である!これは初代神聖ロマノフ帝国女帝アナスタシア様のお言葉である!』
なんだ、このふざけた宣言は。
読んでいただきありがとうございます。
今後ともよろしくお願いいたします。




