第八十一話 二年生
第八十一話 二年生
サイド 矢橋 孝太
正樹さんとの喧嘩も終え、その少し後ぐらいにようやく高校が再開した。長めの休日とも思えるが、受験を考えると怖くなる。というか結構な割合の二年生は死んだ目をしている。
そして、三年生は何か悟りを開いたような顔をしていた。ちょっと怖い。
もうすぐ二年に上がるというこの時期で、伊藤は転校した。まあ、あのクソ野郎の共犯として学校中で噂されているのが原因だろう。マスコミはあいつの家にまで突撃したらしいし。
正直、哀れにも思う。あいつ自身はそこまであくどい事はしていなかっただろう。ただ焦って必死だっただけだ。だが、間が悪かったし、つく派閥を間違えた。少なくとも、あそこであのクソ野郎に協力していなければこんな事にはなっていなかっただろうに。
クソ野郎の被害は二年だけでなく学校中、それどころか学外でもあったらしい。状態異常を解除できるスキル持ちが色々動くはめになった。自分もその一人だ。
結果、あのクソ野郎は全国的に女の敵として有名になり、学内ではそれを潰した自分の株が上がる事になった。だが、変な宗教は頼むから復活しないでくれ。
とにかく、少なくとも学内に自分を攻撃してくる派閥はなくなったと思っていい。まあ、裏で陰口ぐらいは言われるかもしれないが。
そんなこんなで日々を過ごしていったのだが、休校の件もあってそれを取り戻すために授業時間は増え、大変な事になった。まあ、進学を考えている学生は皆必死だが。
そして、遂に自分達は二年生になった。
新しい学年。新しいクラス。爽やかな朝。
「なのになんでお前らが揃ってんの……?」
「おう何が不満だ」
「言ってみろや」
「起訴も視野にいれますよ」
新しいクラスは、何故か変態三銃士と一緒だった。いや、それはありがたいと言えばありがたい。友人達全員と違うクラスになったら、授業で『二人組作って』と言われた時に泣く事になる。
だが、こうも露骨に集められると、ちょっとひく。
「いや言っとくけどお前が原因だからな?」
「そうだぞこの厄介ごと吸引機」
「普通の人生歩けないんですか?」
「それは、うん。なんかごめん」
教師側の考えも分かる。あのクソ野郎の一件で校長含め何人かの人達が職を辞すはめになった。そして、新しく学校を運営していく事になった人はこう思うだろう。『え、なにこの地雷みたいな奴。そっとしておこ』と。
自分で言うのはなんだが、モンスターの侵攻から避難所を守り、天岩戸作戦に参戦した。更に学校の汚点を白日の下に晒し、逮捕のきっかけとなった。
この段階で『はえー、凄いねー』といった感じだ。自分なら遠巻きに見ても関わりたくない。
そこに、葛城始子の襲撃も加わる。全国的には報道が露骨に扱わなかったことであの事件はもう過去の事、誰も覚えていないかもしれない。だが、この地域の人間からしたら突然八十人以上を殺戮した凶悪犯。それと街中で交戦したという噂も流れている。
うん。これは刺激したくない物件すぎる。前の校長は自分を使って宣伝を考えていたようだが、今の人はどちらかと言うと世間には一度学校名を忘れてもらいたいと考えるタイプのようだ。
それでも、それでもだ。このメンツと纏められると、正樹さんが言ったみたいに変態三銃士のダルタニアン枠みたいで納得がいかない。
友人らと騒いでいると、入学式の時間となった。体育館に移動する。新しい校長のやたら短い話があった後、新入生代表の挨拶となった。いや本当に校長の話短いな。ありがたいけど、なんか消え入りそうな雰囲気で心配になる。
『新入生代表、東条百合』
んんんんん?
名前が呼ばれて、凛とした返事と共に壇上へと上がったのは、どこからどう見ても『あの』百合さんだった。え、なんで?一応ここはこの辺では上の方の進学校ではあるが、もっといい所なんていくらでもある。
そこまで考えて、正樹さんの存在を思い出す。もしかしなくてももしかして、兄が心配で高校を選んだ?あ、今一瞬目が合った気がする。
入学式も終わり、他の部活が勧誘活動をしているなか、こっちはいつものメンツで今後の事を考えていた。
「どうしましょう、新入生……」
他の部活。特にマイナーな所が聞いたらキレるかもしれないが、うちの部は『入部申請が多すぎたらどうしよう』という悩みを持っていた。というか、既に新二年生、三年生からの入部希望が多すぎるのだ。どうしろと。
まあ、現在Cランクの使い魔の無料貸し出しを行っているのだ。将来冒険者をやっていく人は勿論、バイト感覚で入りたがる人は多い。あと、正樹さん目当ての人もいるし、稀に自分と縁を持ちにくる人もいる。
とりあえず、一年生だけを入れたら絶対に反発がでる。ここは三年から一年からそれぞれ入部させる方向で行く事になった。それでも、あらかじめ入部を希望している生徒を優先する必要があるし、その中から更に選ぶことになる。
だが、ここでまさかの三銃士が活躍した。
「ふっ、俺たちが普段使い魔とキャッキャウフフしてるだけだと思うなよ?」
「俺らなりに出来る事を考えていてな。とりあえず学校内の各派閥や噂について色々情報収集はしてたのよ」
「派閥の調整と派閥とは関係ない生徒の選別なら任せてください」
「お前ら……!」
友人たちの頼もしさと頑張りに目頭が熱くなる。
「それにこの部のおかげで同好の士が増えたからな」
「ゑ?」
なんて言った滝沢?
「あ、お前も?」
待って佐藤。お前『も』?もって言った?
「布教活動は楽しいですね」
「お前のはアウト」
やばい。いつの間にかうちの部が変態どもの巣窟になろうとしている。このままでは学校中でこの部が変態扱いされかねない。そうなれば自分まで『熟女好き、あるいはショタコン。もしくは八割人外娘フェチ』と言われかねない。それはなんか嫌だ。
「おいどうするんだよダルタニアン。なんとかしろよ部長だろ」
「無茶言わないでくださいよおっぱいマニア。普段先輩だって強調するなら助けてくださいよ」
「お兄ちゃんって言ってくれたら考えてやるよ」
「きめえ」
「お前喧嘩の一件から俺に辛辣過ぎない!?」
隣で騒いでいる馬鹿はおいておく。どうやら戦力外だ。どうする。この変態どもと同類にされないようにするには。教室で堂々とエロ本でも読むか?……馬鹿かな?それはそれで変態のレッテルが貼られて終わるだけだ。
無い知恵を捻っていると、扉がノックされた。今日は入部希望の提出に来ないでくれと貼ってあるはずだが……。
「東条百合と申します。今お時間よろしいでしょうか?」
誰かと思えば、百合さんだったか。
「どうぞ」
「失礼します」
音もなく扉を開けて入ってきた東条百合さんに、三銃士が悲鳴をあげる。
「そう怖がらなくてもいいだろ」
それに呆れる正樹さんに、滝沢がぶんぶんと首をふる。
「いや、初対面の時の印象が強くて……」
「あの時は申し訳ありません。少々苛立っている時期でしたので……」
「あー、あれは俺が原因の一つだ。俺もすまんかった」
東条兄妹に頭を下げられて、流石に三銃士も頭を下げ返す。
「いや、こっちこそすみません」
「そうっすね、女子にこの対応は失礼過ぎるっすよね」
「ここは二年生の余裕として一年生を迎え入れてあげましょう」
「お前ら膝笑ってるぞ」
「「「武者震いだ(です)」」」
まあ、しばらくは百合さんが怖いのはわかる。自分も未ださん付けで敬語だし。
「皆さんありがとうございます。それに、兄が日頃からお世話に」
「いや、東条先輩にはこっちこそお世話に……お世話に……」
「あれ、なんだろう、お世話になったっけ……?」
「特にこれといってお世話になった事ありませんね。どっちかというと面倒くさい事もありますね」
「お前らそこはお世辞でもお世話になってるって言おうよ!?」
「やっぱり……」
「百合ぃ!?」
いやあ、この兄妹仲いいなぁ。
「弟よ!皆がお兄ちゃんを虐める!」
「誰が弟ですか」
抱き着いて来ようとした正樹さんの顔面を掴んで止める。やめてほしい。百合さんがどういう反応するか分からないのだ。短い付き合いでもこの人がブラコンだというのは分かっている。万一矛先がこちらに向いたら怖い。
「弟……?」
ほら食いついたぁ!?やべえよ、やべえよ。ひたすら木刀で殴られた痛みががががががが……。
「なるほど、そういう手も……」
あれ、思ってた反応と違う。何故か笑顔をこちらに向けてきた。あれ、膝が震える。不思議と頭にメスライオンに目をつけられた小鹿がうかんだ。
「矢橋さんも、いつも兄がお世話になっております」
「い、いえ、お構いなく……」
「それはそうと、皆さん私に敬語を使ってくださいますが、その必要はありません。私は後輩であり、年下です。どうぞ気軽に話してください」
「あ、そう?」
「じゃあ遠慮なく」
「あ、僕はですます口調でキャラ付けしているので、お気になさらず」
なんなのこの三銃士の順応性。さっきまで怯えてたよね?というか下山、お前それキャラ付けだったのかよ。
「さあ、矢橋さんもどうぞ呼び捨てに」
「え、ああ……百合?」
「はい、矢橋さん」
どうしよう、花が咲いたような笑顔にちょっとキュンと来た。
「それで、百合はどうしてここに?挨拶にきたってだけじゃないだろ?」
「はい、兄様。私もこの部に入ろうかと思い、訪ねさせていただきました」
「……言っとくけど、身内だからって優先的に入部させるって事はしないぞ?」
「はい。むしろ、厳しく考えてほしいとお伝えに来ました」
「まあ、お前ならそうか」
なんか兄妹でポンポン話が進んでいく。
「わかった。場合によってはお前が選ばれない可能性もあるから、そのつもりでいろよ」
「ええ、承知の上です。ですが、その上で選ばれる自信がある。とも言わせていただきます」
「あ、あのー……」
一応部長として二人の会話に入っていく。
「とりあえず、百合さ……百合もうちの部に入りたいってこと?」
「はい。後日、入部届を出させていただきます」
「それは、うん。わかった」
淑やかにほほ笑む百合に、内心『いや、貴女の入部蹴るとかありえないんですが』とも思う。まあ、本人も入れる自信はあると言っていたけど。
東条家の直系。A+の使い魔と契約済み。眉目秀麗、成績優秀。運動神経も抜群。社交性をありそうだし一年の派閥ではトップになるだろう。正樹さんの妹というのもあるし。彼はうちの部の初期メンバーでかつ、幹部的な立場だし。
そして、なんとなく百合は使えるコネは全て使うタイプに見える。実力とコネを綺麗に使い分け、または両方を駆使したりしてきそう。
なんだかんだ言って、部への入部は学内での発言力も考慮させてもらう。当然、素行の悪そうな奴ははじくし学内カーストが低くても真面目そうなら考慮するが、こっちも敵はあんまり作りたくないのだ。
今は、自分と正樹さんの影響力でこの部に敵対する奴は少ない。だが、卒業後は色々変わってくるだろう。最初のうちは自分の卒業後なんてどうでもいいと思っていたが、ここまで膨れ上がったのだ。それは流石に無責任に過ぎるだろう。
「なあ……」
「どうした」
「やっぱ百合さんって呼んだ方がよくね?」
「奇遇ですね。僕もそう思ってました」
「のった」
向こうで三銃士でなんか言ってる。自分もやっぱりさん付けした方がいい気がしてきた。だが、なんか魔眼が発動するかしないかのギリギリの危険がある気がする。めっちゃ魔眼がうずくのだ。
静かにほほ笑みをこちらに向けてくる百合に、引きつった笑みを返しておいた。
その夜、あるニュースが全国で流れた。バラエティー番組を見ていたのが、急遽画面が切り替わり、真剣な、それでいて動揺が見て取れる顔でアナウンサーが口を開いた。
『つい先ほど、東京都にある料亭で使い魔による襲撃事件が発生し、織田総理が亡くなったという情報が―――』
読んでいただきありがとうございます。
今後ともよろしくお願いいたします。
これにて第二章は終わりです。次の話から第三章に入ります。全三章で終わる予定です。




