第七十四話 魔人
第七十四話 魔人
サイド 矢橋 孝太
ちょうど今テレビでもニュースをやっているらしい。慌ててリビングに行くと、ちょうど母がニュースを見ていた。
『本当なんですかね?不老だなんて』
『一応データはあるらしいですが、どこまで信じていいものやら。そもそも、対象が少なすぎる』
『第一に、これらの発表された実験は道徳的にいかがなものか』
出演している自称評論家たちは、皆が皆懐疑的な顔をしている。その様子に少しだけホッとした。もしもここで『なんて素晴らしい発見なんだ!ぜひ調べよう』となっていたら、正樹さんのメンタルが大変な事になっていた。
『けど、老化を止めるなんてすごくないですか?』
その発言にドキリとした。言ったのは若手のモデルらしい。ファッションとかよく知らないが、若者にかなり人気とテロップに書いてある。
『しかしですね、正直眉唾ですよ、こんな話』
『まあまあ、もしも不老が本当だったら、という仮定で話してみませんか?』
やたらこのモデル不老について推してくるな。
『そうですねぇ……まあまず人道的にダメでしょう。だってこれ、人体実験ですよ?しかも動物実験もしていない』
『ですね。しかも、一度合体したら不可逆とは。これではあまりにも……』
一応話に乗っかった専門家達だったが、その反応は相変わらず否定的だ。いいぞもっと不老についてネガキャンするんだ。
『けど、逆にメリットも大きくないですか?』
そう言ってモデルの視線がスタジオに置かれているボードに向けられる。
『まず、モンスターと合体?融合?をしたら不老になるだけじゃなくって、そのモンスターの力も使えるんですよね?』
『大陸の自称新国家からのデータでは、そうですね』
『それって凄くないですか?この技術を使えば、誰でも超人じゃないですか。街で突然ハンドラーが襲ってきても、逃げたり、逆に倒したりできちゃいますよ』
『待ってください。これを技術と呼ぶのはあまりに早すぎる。もっと考えてからでなければ』
『それに、犯罪者の使い魔に襲われるのが危険ならこちらも使い魔でいいじゃないですか。少なくとも、モンスターと合体する必要は』
『そう、それですよ』
『はい?』
『なんで皆、使い魔は安全なものって考えているんですか?あれこそ、未知の存在じゃないですか』
『それは……』
言葉に詰まった専門家に、モデルが言葉を重ねていく。
『使い魔なんて、いつ裏切るか分からないじゃないですか。モンスターがダンジョンから溢れた事件。あの時、皆もしかしたら使い魔もって騒いでいたのに、なんで今は誰もその事を口にしないんですか?』
『……使い魔の危険性に関しては、今も調査しています。それに、この二年以上、使い魔がハンドラーを裏切った事はありません。そもそも本当の話かも怪しいモンスターとの合体なんて』
『二年ですよね?たったの。それってデータとして信用していいんですか?』
『それは、いえ、世界中で確認されている事なので』
おい自称専門家、なにモデルに押されてるんだ。やっぱ自称じゃダメなのか。
『まあ、使い魔の事はこの辺で。私も別に使い魔否定派ってわけじゃないんです。むしろ、肯定派ですよ?だって必要じゃないですか、今の日本に』
突然意見をガラリと変えたモデルに専門家達も驚いている。この女、何が言いたいんだ。
『外国からエネルギー資源が一気に途絶えて、食料的にも自給率をあげなきゃいけない。ダンジョンに潜らないといけない世の中なんです。そして、そうするには力が必要なんです』
『それはそうですが、まさか、その新たな力がこの合体だと?』
『そろそろ言い方変えませんか?大陸で言われているみたいに魔人って。言いづらいじゃないですか』
『いいえ、そうはいきません。魔人なんて呼び方、まるで合体した人たちが人間じゃないみたいではないですか』
『心が人間なら人間だと思うんですけど……本当に差別しているのは、貴方達じゃないですか?』
『この、言わせておけば!』
『ろくに学校も行ってない小娘が!』
立ち上がろうとする専門家達を、慌てて司会が止めに入る。
『み、皆さん落ち着いてください』
『すみません、言い過ぎましたね。私が言いたかったのは、もっと人間が主体になってダンジョンに行きませんかって事なんです』
『何を知ったかぶりおって!』
『お前に何がわかる!』
『魔人になれば、人は、人の意思で、人の力で、人の生活を支えられるんです。それは、今よりも健全だとは思いませんか?』
まるで聖母のように微笑むモデルに、騒いでいた専門家達が黙ってしまう。おい、黙るな。否定しろ。頑張れマジで。
『まだ未発展な技術だからこそ、日本で研究を進めて』
『ちょっといいですか?』
そこで口を開いたのは、今まで黙っていた一人の専門家だ。テロップには生物学者と書いてある。
『そもそも、この話って魔人でしたっけ?その技術……技術と呼んでいいかは知りませんが、それが本当だとしたらって話ですよね?』
『……ええ、そうですね』
『それに、たしか大陸にある自称新国家は、この技術の公開の対価として自分達を国として認める事。そして支援を行う事を要求しているわけです。正直、こんな不確かな話の為に、貴重な税金を使うってどうなんでしょう』
『ですが』
『だいたい、もし本当にそんな技術があったとしても……誰がやるんですか?動物実験はやるとしても、その後の被験者はどうするんです?ただこの指とまれじゃ集められないんですよ。もしやるとしたら、色々な保障やらなんやら考えないと』
『ではそうですね……もし実験が始まったら、私は必ず立候補します』
『えー……そんなに不老の力が欲しいんですか?』
『私は、人の手で歩き出すべきだと言っているんです』
『結局はモンスターだよりの力なのに?』
『それでも、人の意思で動けるんですよね?』
『彼らはそう言っていますが、どこまで本当やら』
『それを調べるためにも、日本でも研究すべきです』
『だから、そもそもの前提として』
なんかグダグダしてきた。いいぞ。そのままこの話を『画期的な技術の可能性』から『なんかよくわからないグダグダしたもの』に変えるんだ。
「なんだか、結局よくわからないわね……」
「そうだねー」
母が困ったように言って、テレビのリモコンをわたして部屋に向かった。
『だいたい、こんなの絶対デメリットが存在するに決まってるじゃないですか』
『だから、それを含めて研究をですね』
それにしても、やたら食いついてくるこのモデル。島田加奈か……一応覚えておこう。
翌日、朝のニュースも『不老』……いや、『魔人』の事をやっていた。コメンテーターの意見は概ね自称専門家達と同様で、そもそも懐疑的だし、真実だとしても人道的にいかがなものか。というのが主流だ。
学校に行くと、あっちこっちから魔人の話が聞こえてくる。
「やっぱさ、かっこよくね?魔人って」
「だよな。使い魔の後ろに隠れて指示出すだけじゃなくって、自分で戦うんだもんな」
「あー、俺も魔人になって戦いてぇ」
生徒たちの声は、どちらかと言えば魔人を肯定する方が多い気がする。だが、『危なくない?』『どうせ嘘っぱちだろ』という声もちらほら聞こえてくる。
「僕は魔人の技術は本当だと思うね。そんな技術がなきゃ、今の大陸で生きていけるわけないよ」
教室で周りに大声で喋っているのは伊藤だ。
「その技術があれば、使い魔の力だよりででかい顔している奴もちょっとはわかるんじゃないの?自分が本当は凡人だってさぁ」
なんか目が合った気がする。あいつ、教室で腫れ物みたいな扱いなのによくあんな大きな声で喋れるな……。ある意味メンタル強いんだろうか。
そう思ってスルーしていると、露骨に舌打ちする音が聞こえてきた。こわっ、目合わせんとこ。
昼休み、部室に呼び出された。正樹さんだ。
「なあ、お前は魔人ってどう思う?」
部室にカギをかけたかと思ったら、開口一番そんな質問をされた。
「……半信半疑ですね。今の大陸ならそんな技術があってもおかしくないっていうのと。そう上手い話があるとも思えないって感じ出す」
ちょっとだけネットで調べたのだが、自称新国家側は『この技術なら不老は確実』『超人になれる』『証拠の映像もある』と言って色々アップしている。
そして、一番多かったのは『ホムンクルス』と合体した人達。彼らの容姿は、正樹さんにどこか似ていた。
「……俺、モルモットにされんのかなぁ……」
「いや、それはないんじゃないですか?」
「そうか?」
「だって、誰でもなれるっていうのが本当なら、わざわざ正樹さんに手を出す必要もなくなるんじゃ?」
オンリーワンだから狙われているのだ。あくまで数が少ない。レベルなら、誰だって東条家の直系を狙いたがらないだろう。
「……クラスでさ、聞かれたんだよ。魔人じゃないのかって」
「ああ……」
「その時はただの偶然だで済ませたけどさ……」
たしか、正樹さんは今アルビノ的な何かってことで目立つ髪色や瞳について誤魔化しているとか。それで体育も免除されているらしい。最初は髪を黒く染めようとしたらしいが、上手くいかなかったとか。
「たぶん周りもそんな気にしないと思いますけど」
「ネットでさ、天岩戸作戦に参加した奴の一部が、俺について話してるんだ」
「げっ」
そうか、突入組は大半が自衛隊だったが、一部は一般組だ。その中にはテレビに出たがっている奴らもいる。
「幸い、証拠になりそうな映像はないんだけど……」
「もし契約している使い魔が知られたら状況証拠的に信じられるかもしれないと」
頷く正樹さんに、ちょっと頭を抱える。
正直、市役所の情報保護能力は教団の件もあってあまり信用できない。もしも正樹さんの使い魔が一番強いのでもBランクで、そのうえ参加時に加入したユニコーンだと知られれば、面倒な事になるかもしれない。
ただでさえどこぞのテレビ局がやらかして作戦の参加者は顔も名前も全国放送されているのだ。しかも、その顔の良さから当時正樹さんはネットで話題になっていたらしい。
「いっそ、しばらく病気療養とかで休みます?人の噂も七十五日。しかも受験動向でクラスの人も忙しいでしょうし」
「……どうすっかなぁ」
ヤバいな……正樹さんは元々メンタルは強い方らしいが、色々あったせいで今はボロボロだ。ちょっと刺激でやけになりかねない。
「正樹さん。とりあえずはっきり言っときたい事があります」
「……なんだよ」
「僕は貴方の味方です」
「……はっ?」
「僕も、源一郎さんをはじめとした貴方の家族も、滝沢たちも、正樹さんの味方です、それは忘れないでください」
「なにを突然言ってんだよ」
「突然馬鹿が馬鹿なことしないか心配だからですよ馬鹿」
「お前今先輩に向かって三回馬鹿って言わなかった?」
「ステイステイ、落ち着いてください正樹さん。いい意味でです。いい意味で馬鹿って言ったんです」
「お前、いい意味でって言えば全てが許されると思うなよ……?」
「……メンゴ!」
「処す」
「ノォォぉォォ!?」
後ろから緩く首を絞めてくる正樹さんに、一応抵抗する。まあ、全力で抗ってもはずれないのだが。
「……ありがとよ」
「え、正樹さん罵倒されて喜ぶ趣味が、あ、ちょ、力強めないで!?」
それはそうと、胸が滅茶苦茶押し付けるのは勘弁してほしい。頭に滝沢とリザがいちゃついている姿を思い浮かべて対処しなくてはならなくなる。
「お前に東条さんを賭けて決闘を申し込む!」
「はっ?」
放課後、学校から帰ろうと思って校門を通ろうとしたら、男子生徒に突然そんな事を言われた。まだ周りに生徒がたくさんいるなかで、だ。
読んでいただきありがとうございます。
今後ともよろしくお願いいたします。




