第七十五話 決闘?
第七十五話 決闘?
サイド 矢橋 孝太
「とりあえず、決闘って法律で禁止されてるんじゃってのは置いておいて……僕の友達を物みたいに言うのやめてもらえます?」
正直に言おう。自分はちょっとだけキレている。なにこいつは正樹さんを物みたいに言っているんだ。奥歯折ってやろうか。何なら紅蓮けしかけるぞ。
「はっ、お前が言うなよ。脅迫して傍に置いているくせに!」
「はぁ?」
脅迫?自分が正樹さんを?何を言っているんだこいつは。
「救世主だなんだと持ち上げられているけど、そんなの使い魔の力だけだろ!お前みたいな奴が、東条さんに好かれるわけない!弱みを握って脅迫しているんだ!」
「いやその理屈はおかしい」
自分が救世主じゃないのは同意する。使い魔ありきというのも否定はしない。だがなんでそこで脅迫まで思考が飛ぶのか。
「この場で誓え。俺が勝ったら東条さんを解放すると!」
「いや、脅迫した覚えはありませんし……というか、正樹さんとどういうご関係で?ちゃんと本人と話したんですか?」
ネクタイの色から先輩のようだが、いったいなんなんだ……?
「彼女とは同じクラスで、隣の席だったことがある。彼女とは、何度も話して、笑いあって、そしてある時、両想いだって気づいたんだ」
う~ん……たぶんダウトというか、この人の中ではそうなのかも知れないけど、現実は違う気がする。思い込みが激しいタイプなのだろうか。
「けど、彼女は俺の告白には答えてくれなかった。そして、何度も何かを憂うようなため息をついているのも見ている。何より」
ズビシっと擬音が付きそうな勢いで先輩がこちらを指さしてくる。なんか腹立つから人を指さすな。
「お前といる時の東条さんが無理をしているなんて、一目でわかる!これだけ状況証拠が揃えば、誰だってお前が脅迫している事ぐらいわかる!」
「なんで?」
どうしよう。どこからツッコんでいいのかわからない。というかフラれてんじゃんとか、憂いている理由は自分じゃなくて己の肉体についてだとか。後半は他人の前では言えないけど。というか、自分の前だと正樹さんが無理をしている?
……ゲーム内とはいえ牛糞投げ合ったり火矢を撃ち合った覚えがあるのだが……、あれは無理をしていたと?
「おい、決闘だってよ」
「あれKじゃね?相手誰だよ」
「なんかKが東条って生徒を脅しているとか」
「え、東条ってもしかして二年の?めっちゃ美人で有名じゃん」
「さすがに違うんじゃね?あの二人仲良さそうだし」
「けど東条さんみたいな美人があんなのと付き合うか?」
「なんだあの男、聖人様にいちゃもんつけやがって」
「処す?処す?」
なんか一部不穏な声も聞こえた気がするが、周りは半信半疑といった感じだ。まあ、顔面のレベルが違い過ぎるという自覚はある。だが、友人関係に容姿を持ち出すのはどうかと思う。
「さっきから人を脅迫しているやつ扱いですけど、状況証拠しかありませんよね?それはあまりに無理があるんじゃ?」
「ふっ、しらばっくれても無駄だ。お前のクラスメート達からも証言は得ているんだ。お前がいかに卑劣で自分よがりな奴かってな!」
伊藤だな?十中八九伊藤だな?さすがに今回はイラっときた。
「いいですよ、そこまで言うなら正樹さんも交えて話し合いましょうか?」
「彼女の気持ちは俺が一番わかってる。俺を巻き込みたくない為に、彼女は何度尋ねても否定するんだ」
いや、『彼女』呼びしている段階でわかってねえよ。というか本人から否定されてんじゃねえか。諦めろよ。どんだけ思い込み激しいんだ、この人。あれか?受験とかのストレスも重なった感じか?はた迷惑な。
「いい加減、それは自分の考えの方がおかしいって気づきましょうよ……」
「うるさい!俺と決闘するのかしないのか!どっちだ!」
「嫌ですけど?決闘って普通にダメでしょ」
「逃げるのか?この臆病者め」
「逃げる以前の問題です。だいたい」
「負けを認めるんだな!?」
「なんでもいいから話聞けや」
「……認めたな?」
その瞬間、足元に魔法陣が現れる。
「はっ?」
「俺の使い魔は特別でな。こういう契約に関しては色々力を――」
なんか小声だけどドヤ顔で喋っている間に魔法陣が砕けたのだが、なんだというのだ。
「な、馬鹿な!ありえない、こんな事今まで一度も」
「とりあえず現行犯逮捕ぉ!」
「ぐほぉ!?」
もう一度言うが、こっちは既にキレている。その状態で、目の前の馬鹿は『公共の場でスキルを使う』という犯罪をやらかしたのだ。これはもう現行犯ってことで民間人でも殴ってオーケーでは?
というわけで思いっきり腹パンした。……この人、着やせするタイプだな。悪い意味で。お腹がぶよっとしたぞ。
「このっ!」
「おっと」
だが先輩はなんのダメージもなかったかの様に殴り返してきた。それを魔眼で回避する。そういえば、『使い魔が』と言っていたな。もしかして見えないだけで今も召喚している?
それにしても、この状況でスキルを使うとは。馬鹿なのか?これだけ目撃者がいれば言い逃れなんてできないだろうに。
「え、なんでKは突然殴ったんだ?」
「なんか現行犯って言ってたけど……」
「もしかして脅迫していたのは本当だったとか?」
はて。もしかしてこの反応、周りには見えてないタイプのスキルなのか?
だとしたらしまった。これではまるで『脅迫されていたのは図星だったから暴力に訴えた』と見られかねない。内心舌打ちする。
「ははっ、どうしたよ。そんなへなちょこパンチ!そのガタイは見せかけか!?」
「本気でぶん殴ったろか……?」
世界樹の加護を上乗せして殴ろうかと一瞬考えてしまった。いけないいけない。それでは相手の思うつぼだ。というか、こいつ最初っからこれが狙いか。……いやたぶんここまでは考えていなかったな。
「お前たち、何をしている!」
考えていると、ようやく教師が来たらしい。生活指導の教師は、自分と先輩を交互に見てとりあえず先輩の方へと目を向けた。
「おい、これはなんの騒ぎだ。生徒から決闘だと騒いでいる奴らが校門にいると聞いたが」
「先生!そいつが俺に突然殴りかかってきたんです!証人はここにいる奴ら全員ですよ!」
先輩、いやクソ野郎がこちらを指さしてくる。
「……それは本当か?」
周囲を一度見回してから、教師がこっちを見てくる。周りから否定の声が聞こえなかったからだろう。
「殴ったのは事実です。しかし、それはその先輩がスキルを使ったからです」
「なに?」
教師の眉が跳ね上がるが、すぐさまクソ野郎が口をはさんでくる。
「待った!そんな証拠どこにあるんだ!これだけ周りに人がいるんだ。それが本当なら目撃者がいるのは当然だよなぁ」
ニヤニヤと笑いながら言ってくる。腹立つな。
「……この中にこいつがスキルを使ったのを見た奴はいるか!?」
教師が周りの見物人に呼びかけるが、名乗り出る者はいない。まいった味方がいない。三銃士は『今日お気にのエロ本が出る』と言って学校が終わるなり走っていいってしまったし、正樹さんは家の用事とかですぐに帰ってしまった。
「せんせぇ。スキルは見てないけど、矢橋が先輩を殴ってるのは見ました!動画も撮ってます」
そう言って前に出てきたのは、伊藤だった。やはりグルだったか。こいつ、どんだけ自分が嫌いなんだ。
「見せてみろ……確かに、殴っているな。しかも結構な勢いで」
「でしょ?これは明らかに暴行の現場ですよ」
「そのわりにはピンピンしてるな」
「えっ?」
「この勢いと体格差で殴られたら、普通ゲロを吐きながら倒れるはずだ。なんでそんな元気そうにしている?」
「そ、それは咄嗟に腹筋で防いだから」
「お前体育の成績いってみろ」
「……二ですけど」
ちなみにうちの高校は五段階評価で五が最高で一が最低だ。
「とりあえず、二人とも生徒指導室に来い。話はそこで聞く」
そうして、とりあえず生徒指導室で説教をされるはめになった。先輩は決闘だなんだと騒ぎ、衆目の面前でこちらを脅迫魔と罵倒した事を。自分はいかな理由とは言え人を殴った事を。
正直納得はいかないが、教師に説明できるだけの証拠がなかった。
次の日、教室から感じる視線は冷たかった。ひそひそと『脅迫』『暴行』と聞こえてくる。特に伊藤はめっちゃいい笑顔で挨拶してきたのが腹立つ。
「おい、矢橋大丈夫か?」
「……一応」
滝沢と佐藤が心配げに話しかけてくるが、なんとも言えない。
「お前らはいったん僕と距離を取った方がいい。同じように見られるぞ」
「馬鹿いえ。今さらその程度でビビるかよ」
佐藤が鼻で笑うが、たぶん無理をしている。直接的な攻撃はされていないが、この空気はだいぶ居心地が悪い。
「孝太!」
教室のドアが勢いよく開かれた。正樹さんだ。
「おま、昨日喧嘩したって。しかも俺のせいで……!」
「落ち着いてください。とりあえず深呼吸」
「あ、ああ……」
掴みかかってきそうな勢いだったので、とりあえず落ち着かせる。この人、テンパリやすいけど深呼吸したらすぐに落ち着くのだ。
「……で、マジなのか?」
「喧嘩したのはマジです。けど正樹さんのせいかと言われたら違います」
「けどっ」
「殴りたいから殴りました。これは僕の意思です」
そこはきっぱりさせなければ。ただでさえ今の正樹さんは精神的にまいっている。ここでこれ以上追い詰められたら、何をしでかすかわからない。最悪大陸に雲隠れしようとしたり、あのクソ野郎の自宅に突撃しそうだ。……後者の方は自分がするかも。
「あれぇ、正樹、どうしたんだよこんなところで」
そう言ってきたのは、昨日のクソ野郎だ。随分と期限よさげに笑っている。
「てめえに名前で呼ばれる筋合いはねえ。とっとと失せろ」
正樹さんに睨みつけられると、クソ野郎は引きつった顔で一歩下がるが、すぐに笑って近づこうとする。
「安心してよ、正樹。こいつにもう脅迫される心配はないんだ。昨日ボロを出したからね。俺のおかげさ」
「てめぇ……」
クソ野郎に掴みかかりそうだったので、正樹さんとクソ野郎の間に割って入る。
「正樹さん、落ち着いてください」
「だけど……!」
「ああ、自称救世主君。君ね、俺は警察に君の暴行事件を言うつもりだから」
誰が自称救世主だ。
「動画もあるし、近いうちに君の家には警察が来るよ。親御さん泣いちゃうだろうねぇ。こんな馬鹿な息子もっちゃってさぁ」
「あの、すみません」
「ん~声が小さくて聞こえないなぁ。謝罪ならもっと大きな声で」
「すみません、口臭いのでもうちょっと離れてもらえませんか?」
声を大きくしろと言われたので、気持ち大き目の声で言ってみる。後ろから噴き出す音が聞こえたが、本当に臭いからな?正面に立っている自分は本当につらいんだからな?
一瞬ポカンとした後、クソ野郎がわなわなと震えだす。
「お、お前!あの女どもと同じことを!」
「あの女ども?」
「っ、くそ、いい気でいられるのも今のうちだ!正樹、待っててね。君は『僕の物』になるから!」
そう言ってクソ野郎は去っていった。正樹さんはまだ笑いをこらえている。
「なあ矢橋」
「なんだ滝沢」
「俺にいい考えがあるんだけど」
「のった」
たぶん、同じことを考えている。
翌日、学校に登校しているところをクソ野郎は逮捕された。
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